ウェアラブルカメラで消火活動時の情報共有・教育に活用
ドローン映像のリアルタイム伝送も
「横須賀市消防局」では、現場の後方支援や教育にウェアラブルクラウドカメラを活用。さらに、クラウド経由でドローン映像をリアルタイム伝送するルータ「Safie Connect」を使った実証実験を行い、地域の安全を守る最前線の消防活動に役立てていらっしゃいます。
(取材:2023年11月)
導入の決め手
- 映像がクラウドに自動保存されてシェアもしやすく、活用範囲が広い
- カメラ、管理画面ともに操作がシンプルで現場でも使いやすい
導入目的
- 災害現場と指令センターとの効果的な情報共有のため
- 映像を見返し、消防活動の事後検証を行うため
- 映像を教育資料として活用するため
導入した結果
- ライブ映像の共有で本部の対応がスピーディーに
- 本部に無線連絡を行う現場の負担が軽減された
- 手軽に撮影でき、消防活動の振り返りや教育などで活用
- 映像は写真より情報量が多く火災原因の調査にも効果を発揮
INDEX
自然災害、火災など、極めて緊急性の高い現場で人命救助、消火、救急搬送などの活動にあたる「横須賀市消防局」。同局ではウェアラブルクラウドカメラを2023年12月から導入し、現場と本部の情報共有や、若手教育、事後検証などに利活用なさっています。
また、ドローン映像をリアルタイム伝送するHDMI出力対応ルータ「Safie Connect」を使った実証実験も実施されています。
具体的な活用方法や導入効果について、警防課の小沼 裕司さん、立野 祥司さんに伺いました。
「自分たちの活動を映像で見返したい」
隊員のニーズに応え、ウェアラブルクラウドカメラを導入
──はじめに、お2人が所属されている警防課のお仕事についてお教えいただけますでしょうか。
小沼さん:災害や火災の現場では、脱出できなくなった方を救助する「救助隊」、消火を行う「消防隊」、負傷した方を搬送する「救急隊」と、大きく分けて3つの部隊が活動しています。私たち警防課は3つのうちの救助隊と消防隊をバックアップする組織で、災害時の活動計画や訓練計画の設計、火災の原因調査支援のほか、消防車両や装備、ICTツールの選定や調達なども行っています。
──今回、ウェアラブルクラウドカメラを導入いただきました。導入の背景をお聞かせください。
小沼さん:現場の部隊には以前から、自分たちの活動を映像で見返してブラッシュアップに生かしたいというニーズがありましたが、被災者の個人情報保護の観点からなかなか実現できずにいました。しかし隊員からのニーズは高まる一方なので、カメラ運用に関するレギュレーションの策定を行い、導入可能な環境をつくろうということになりました。
──カメラは、どのように選定されましたか?
小沼さん:さまざまな現場に行くので、コンパクトで持ち運びしやすいことが大前提でした。その上で選んだのが、火災現場の高熱に対応可能な耐熱カメラと、LTE対応ウェアラブルクラウドカメラの「Pocketシリーズ」です。Pocketシリーズは横須賀市役所が災害用カメラとして採用した実績があり、私たち消防局にも配付されて使っていたので、使い勝手の良さやクラウドの利便性を実感していました。そこで、あらためてデモ機をお借りしてトライアルを実施、現場の隊員たちに有効性を確認してもらってから本格導入を決め、販売代理店のNTT東日本の「ギガらくカメラ」モデルを申し込みました。
──カメラ導入にあたり、ハードルはありましたでしょうか?
小沼さん:はい。すでに市役所から配布されていたので、新たなカメラの予算確保が容易ではないというハードルがありました。一方で、消防局の現場映像はセンシティブなシーンが多く、他部署と共有しづらいといった難点もあったのです。そのため、教育や事後検証などにおけるカメラの有効性とともに市役所配付カメラの課題も明確にし、消防局独自の予算を確保しました。
一部始終を撮影したクラウド録画映像は、貴重な教育資料。
ライブ映像共有で指令室の対応もスピード化
──「Pocketシリーズ」はどのように活用なさっているのでしょうか?
小沼さん:小型の三脚とセットにして、私たち警防課に1台、現場を取り仕切る各消防署の指揮隊に1台ずつ配備しています。状況が許せば、消防車両が出動するときから活動終了までを撮影しています。撮影方法は各指揮隊にまかせていますが、車内では三脚にセットした状態でカップホルダーなどに差し込んで撮影したり、現場では指揮台の上に三脚で置いて定点カメラとして撮影したり、タイミングを見て自撮り棒に切り替えて現場を周回するなど、柔軟に撮影してくれています。それらの映像は、本部の指令室で管理職をはじめとする関係者や私たちがリアルタイム視聴し、現場の意思決定を支援しています。
──「Pocketシリーズ」の使い勝手はいかがでしょうか?
小沼さん:カバーをスライドすればすぐに撮影が開始されるなど、操作がシンプルでいいですね。管理画面も直感的に理解できるUIで、誰でもすぐに使えます。
──トライアル期間に感じたカメラの効果をお聞かせください。
小沼さん:当初の狙い通り、クラウド録画映像は事後検証や若手教育にとても役立つと感じました。何しろ、Pocketがあれば出動から帰署までの一部始終を容易に撮影でき、実際の映像を見ながら現場での立ち回りや資機材の使い方をレクチャーできるのです。今までは目で見る資料といえば静止画像でしたし、映像があったとしても活動の一部分だったので、出動からのフル映像を見返せるようになったのは大きな進歩です。若手のうちはまだ、火勢の強い火災現場の経験がない隊員もいますから、貴重な教育資料になります。
小沼さん:また、効果を再認識したのが、本部の指令室でライブ映像を見られることです。これまで現場と本部の情報共有は無線連絡がメインで、指令室は視覚的な情報がない中で各種の判断を行っていました。しかし無線連絡そのものが現場の負担になることもありますし、状況が切迫すれば一時的に連絡が途絶えるという課題もありました。Pocketがあれば、無線連絡に頼らなくても指令室で現場の状況を目視できます。黒煙の様子、風の強さ、土地の傾斜、周辺建物など、火災の進行を想定する材料も一目瞭然、より的確でスピーディーな後方支援が可能になります。
ドローン映像をリアルタイム共有できる「Safie Connect」を実証実験
クラウド効果で連携が強化され、業務効率も高まった
──ドローンカメラの映像をリアルタイム伝送するHDMI出力対応ルータ「Safie Connect」の実証実験も実施いただきました。こちらはどのように活用されたのでしょうか?
立野さん:ドローンカメラは火災のほかにも水難救助や山岳救助など、広域を俯瞰する視点が欲しい災害現場で役立つため、2020年度から導入しています。
今回、実証実験として市の総合防災訓練において、ドローンカメラに「Safie Connect」を接続し、撮影したライブ映像を会場の大型ビジョンや関連部署で見られるようにしました。
──「Safie Connect」の使用で感じたメリットをお聞かせください。
立野さん:今までのドローン映像は、指令室へのリアルタイム配信のみでしたが、「Safie Connect」によりPocketと同じビューワー上で各署所と共有することができ、クラウド化のメリットが大きいと実感しました。
他市町への応援・受援の際に、他の消防本部等とのドローン映像の共有は、これまで大きな課題でしたが、「Safie Connect」を使うと映像のシェア先をフレキシブルに増やせるので連携強化に役立ちます。映像のシェア機能は、横須賀市の総合防災訓練でも活用し、関係者から好評をいただきました。
立野さん:また、ビューワー上ではPocketで撮影した映像とドローン映像を同じダッシュボードで一覧表示でき、現場の全容把握がぐっと効率的になりました。ドローン映像をクラウドに自動保存できれば、撮影データをSDカードから移す手間もなくなり、業務効率も高まると感じました。
──最後に、映像活用に関する今後のプランをお聞かせください。
小沼さん:まずは導入したPocketの活用を活性化させ、消防現場で役立つツールとして軌道に乗せたいです。また、ドローンについては「Safie Connect」の本導入を目指し、クラウド化による活用の効果をさらに高めていきたいと考えています。
そして、クラウドの利点を大いに生かして、映像による局内連携や教育をいっそう強化し、消防活動の精度向上を図りたいと思います。
※本記事に掲載している企業情報、所属及びインタビュー内容はページ公開当時のものです。
お話を伺った方
横須賀市消防局
警防課
警防係長(課長補佐)
消防司令
小沼 裕司さん
警防係
主査
立野 祥司さん