赤ちゃんオットセイの出産前後を映像で遠隔見守り。
水族館の飼育生物の生態把握・情報共有にクラウドカメラを活用
都心でかわいいペンギンやオットセイ、魚たちに間近で会える水族館として人気の「すみだ水族館」。同館では、ミナミアメリカオットセイの妊娠・出産を機にSafieカメラを導入。センシティブな時期の母子に手厚いケアを行う上で、カメラが非常に役立っているといいます。
(取材:2022年12月)
導入の決め手
- 飼育スタッフが各自のスマホで飼育生物のライブ映像を見られる
- 対象の飼育生物のストレスにならないコンパクトなデザイン
- ライトなしで暗所撮影でき、飼育生物の睡眠を妨げずに見守れる
導入目的
- 飼育生物の出産、子育て、体調不良などの効率的な見守り
導入した結果
- 遠隔、かつ、大人数での手厚い見守りが可能になった
- 映像活用により飼育スタッフ間の情報共有の手間を大幅に軽減
- 映像データにより飼育生物の知見の蓄積が充実した
INDEX
2012年に東京スカイツリータウン®内にオープンし、「都心にいながら、かわいいペンギンや魚を間近に見られる」と人気の「すみだ水族館」。ユニークで独創的な企画やイベントも多数実施し、多くのファンに愛されています。
同館では、2022年6月に誕生したミナミアメリカオットセイの赤ちゃんの飼育にSafie(セーフィー)カメラを活用しています。
水族館で暮らす生き物の飼育に、カメラ映像はどのように役立っているのでしょうか? 導入の経緯や効果について、展示飼育チーム長の柿崎智広さんにお話を伺いました。
飼育生物を人の目でしっかり見守りつつ、効率化を図ることは業界の共通課題
──はじめに、「すみだ水族館」の特徴を教えていただけますでしょうか。
柿崎さん:当館は都市型水族館ですので街の公園感覚でご利用いただきたいと考えており、館内にソファを置くなど、くつろぎながら鑑賞いただける環境を整えています。また、何度も気軽に遊びにいらして欲しいとの思いから、お得な年間パスポートもご用意しています。
展示においては「近づくと、もっと好きになる。」というコミュニケーションコンセプトを掲げ、お客さまと飼育生物、お客さまと飼育スタッフ、あるいはお客さま同士が、当館で出会うことで心の距離が近づくような企画、展示方法にこだわっています。
例えば、2018年より実施している「すみだペンギン相関図」では、人間と同様に個性や社会性をもつ生態や、年々変わるペンギン同士や飼育スタッフたちとの多様な関係性を知ってほしいという思いで公開しています。52羽のマゼランペンギン全羽がカラーバンドを装着しており、個体ごとのカラーでペンギンを見分けることができます。(2023年2月時点)
ペンギンたちの家族構成やこれまでの関係性を知ることで個体ごとに親しみが湧き、「ペンギンの“はなび”に会いに行こう」などと思っていただけたらうれしいですね。
──2022年6月に誕生したミナミアメリカオットセイの赤ちゃんの飼育に、Safieカメラをご活用いただいています。カメラ導入の経緯をお聞かせください。
柿崎さん:当館は2016年から、東武動物公園さんとともに、動物を貸し借りして繁殖を試みる短期ブリーディングローンという手法に取り組んできました。今回の出産は5回目の取り組みが成功したもので、短期ブリーディングローンによるミナミアメリカオットセイの赤ちゃんの誕生は国内初です。
大変うれしいことでしたが、出産前後の飼育はいつも以上に神経を使います。交尾から出産までの約1年間は母親の体調を細やかに観察し、赤ちゃんが生まれたら、しばらくは複数の飼育スタッフが24時間つきっきりでケアします。
医療検査でデータも取りますが、飼育生物たちは「寒い」「痛い」などと言葉で伝えることができません。それだけに人の目でしっかり観察することはとても大切で、見守る飼育スタッフが多いほうが情報が厚くなって理想的です。
この「見る」というケアを手厚く行い、どう効率化するかは、私たちの業界の大きな課題といえます。今回も、出産前後の見守りを充実させ、かつ効率化も図りたいと考えたことがカメラ導入の直接的なきっかけになりました。
ほか、カメラ導入には、スムーズな情報共有・蓄積という目的もありました。
水族館にいる生き物たちは、生態についてまだわからないことが多いものがほとんどです。ですから今回の妊娠・出産のような大きな出来事は、飼育スタッフみんなで情報共有し、知見を蓄積していく必要があります。
当館では、オットセイやペンギン、ウミガメを10名程の「海獣ユニット」で飼育しており、情報はできるだけチーム全員で共有しています。
ただ、これまで映像は一般的なビデオカメラで撮っていたので共有に手間がかかり、メモリーカードがいっぱいになると撮り損ねるなどの課題もありました。情報共有をめぐるこれらの課題も、クラウドカメラで解消したいと考えていました。
コンパクトなデザインで、夜間撮影はライト不要。
Safieカメラは飼育生物にストレスを与えない
──現在、屋内向けクラウド録画カメラ「AXIS M2025」を設置いただいています。なぜ、セーフィーの製品を選んでくださったのでしょうか?
柿崎さん:カメラに求めていた要件は、オットセイの出産前後の遠隔見守りができるクラウドカメラであること、リアルタイム視聴も振り返り視聴も手軽なこと、設置が容易なことなどでした。
中でも、最も重視したのは「飼育生物にストレスがかからないこと」です。カメラの存在が気になってしまうと、彼らの心身の健康に悪影響が出かねないからです。
Safieカメラはライトがなくても夜間撮影をきれいにできるので、生き物たちの睡眠を邪魔しません。また、検討段階に実施した複数社のデモ機の検証で、類似製品よりもコンパクトで威圧感がないこともわかりました。
そういった、飼育生物にストレスのかからない仕様やサイズ感が決め手となり、Safieカメラを本格導入させていただきました。
──カメラ映像は、どのように活用していらっしゃいますか?
柿崎さん:今、カメラはオットセイの母子の飼育スペースに設置し、ライブ映像・過去映像ともに、「海獣ユニット」の飼育スタッフ全員が各自のスマホでいつでも見られるようにしています。
飼育スタッフは、日中にほかの業務をしている人も、みんな頻繁にリアルタイム視聴して赤ちゃんの様子を見守っています。そして、ミルクの授乳など共有したい飼育シーンがあったら、飼育スペースに来られない人はスマホでライブ映像を見る、時間が合わない人は後で振り返り視聴するといった使い方をしています。
また、今回のオットセイの赤ちゃんは人工授乳のため、夜間帯でも赤ちゃんのタイミングにあわせて飼育スタッフが授乳することがありました。オットセイの赤ちゃんが起きる時間など、過去の録画から授乳時間の予測が立てられるようになったのも助かっています。
──ビューアーの使い勝手はいかがでしょうか?
柿崎さん:操作は簡単で、ITに苦手意識のある飼育スタッフもすぐに使いこなせるようになりました。
機能では、クラウド録画映像の振り返り視聴が想像以上に良かったです。異変があったとき、原因を探るのに役立ちますし、「さっき、赤ちゃんがこんなことをした!」というときも各自がすぐにスマホで確認でき、共有がスピーディーです。いつでも生き物の様子を見られて嬉しいと、飼育スタッフからも好評です。
記録の蓄積には、映像のムービークリップ機能をよく使っています。短い動画を手軽に切り出せて便利です。
仕様の面では、カメラの移設が容易なことがいいですね。オットセイの子育てが一段落したら、次はペンギンの繁殖期に使うなど、飼育計画に合わせてフレキシブルに設置場所を変えられるのは大きな魅力です。
系列の京都水族館ではイルカの出産にSafieカメラを導入。
映像を公開し、お客さまが楽しめるコンテンツとして活用も
──Safieを導入し、感じていらっしゃるメリットをお聞かせください。
柿崎さん:いつでもどこからでも飼育スペースの様子を視聴できるので、現場に張り着いていなくても、海獣ユニット全員で見守れるようになったことが一番のメリットで、飼育スタッフも大変喜んでいます。見守りが充実するとケアも手厚くなり、何かあったときの初動も迅速になります。
次に大きなメリットだと感じているのが、蓄積できる情報が増え、共有もスムーズになったことです。
飼育生物の予期せぬ動きをタイミング良く撮影するのは至難の業ですが、常時撮影ですから撮影し損ねることがありません。また多くの人の目で見守ることで情報が豊かになり、考察も深くなります。
共有も、ライブ映像はもとより、過去映像も一定期間保存されているので「○○時の映像を見てください」と伝えるだけで済み、簡単です。飼育スタッフ間で共有するための映像編集やアップロードの手間はほぼゼロになりました。さらに、カメラがあることで他の飼育作業の合間に見守ることができ、飼育スタッフの業務効率も上がっています。
──最後に、映像活用における今後の展望をお聞かせください。
柿崎さん:今後は出産などのイベントに合わせてカメラの設置場所を変えていく予定ですが、複数の生き物のイベントが重なることもあるので台数増加を検討したいと思っています。
Safieカメラは当館で大好評だったので、同系列の京都水族館でも、イルカの出産を機に導入させていただきました。無事に生まれた現在、京都ではお客さまから見えにくいイルカプールの水中の様子を観察窓からSafieカメラで撮影し、その映像を公開して楽しんでいただいています。
飼育生物たちに負荷がかからないことが前提ですが、京都水族館のようにカメラ映像をコンテンツの1つとして生かすことも視野に入れたいですね。お客さまとの心の距離がもっと近くなるような、楽しい水族館にしていきたいと思います。
お話を伺った方
すみだ水族館
展示飼育チーム長
柿崎智広さん