【真相】社員ゼロのサウナ経営。IT企業の会長が仕掛ける「サブスク×無人」の新店舗ビジネス

特集

2022年2月、六本木にサブスク型無人サウナの一号店がオープンした。その名も「オールドルーキーサウナ」だ。

“ライバルを家の風呂”とするファストサウナ的ポジション「オールドルーキーサウナ」のコンセプトは、極限まで顧客満足度を高めた「アツアツ・キンキン・ガラガラ」。

エレベーターが開いた瞬間からサウナに入るまでの所要時間は約1分で、世界最速を自負する動線も顧客への愛ゆえだ。

「店舗経営にDXを持ち込んだら、200店舗まで社員ゼロでいける」

と話してくれたのは、インターネット広告事業を手がけるアドウェイズ会長の岡村陽久氏。サブスク×無人店舗ビジネスの仕掛け人にインタビューさせていただいた。

200店舗まで社員0のひみつ

—なぜ今リアル業種のサウナをやろうと?


サウナってすごく可能性があるんです。コロナ禍になってから、アドウェイズの社員にも体調を崩す人が増えた。

そういう社員を家に呼んで、一緒に筋トレしてサウナに入る生活を3週間ぐらい続けるうちに、みんなぐっすりと眠れるようになって。サウナって人の心と体の健康につながるんだと思ったんです。

それに、アナログな業界にDXを仕掛けたら、面白いんじゃないかという思いもあって。サウナにデジタルを持ち込んで再定義するって事業としても面白いし、だから実はITでもあるんですよね。

—200店舗まで社員ゼロだと聞いたのですが…!


そうですね、200店舗までは僕1人でやろうと。逆の発想で、このサウナ事業は1人でできること「だけ」をするという、DXありきのビジネスなんです。なぜかというと、それが顧客が体感する価値につながるから。

—1人でやることが顧客の体感価値につながる?どういうことですか?


サウナの入浴料の内訳って、だいたい家賃と光熱費、アメニティ、あと人件費なんですよね。この中だと人件費がいちばん高いんだけど、これって顧客の体験には関係ない。だからうちは無人店舗にして、人件費にお金をかけない仕組みにしているんです。

逆にそのほかのコストを上げるとどうなるか。家賃を上げると、駅近のテナントや新しい建物に入れる。光熱費を上げれば、サウナの温度をアツアツに、水風呂はキンキンに冷やせる。アメニティもグレードを上げられる。

顧客満足度に関係するところってここだけなんですよ。だからオールドルーキーサウナはこの顧客体験に必要なコストを最大にして、関係ないところは極限まで0にしています。たぶん、うちは他と比べてここが倍ぐらいかかっていると思う。

—「アツアツ・キンキン」は理解できたんですけど、コンセプトには「ガラガラ」も入っていますよね。ガラガラな状態って売上的にはどうなんでしょう?


普通、利益を出すなら来店人数を増やして売上をあげないといけないですよね。でも、うちにとってはあえて売上をそんなに上げないっていうのが重要なんです。なぜならそれも顧客体験につながるから。

店舗ってバンバン人を入れないと利益でないけど、利用者からしたらあんまり入れないでほしいのが本音だと思うんです。 サウナ室前で並んだり、ギュウギュウで座ったり。うちなんてサウナ室前に並んだことなんて1回もないんですよ(笑)

たとえば渋谷店だと、この時間(インタビュー時は平日午後)なのに利用者0人ですよ(笑)。渋谷で。でもそれでもやっていけるのがオールドルーキーなんですよ。

—岡村会長が1人店長だからできているってことですね


そうです。人件費にお金をかけないということ。極限まで顧客満足度を高めた「アツアツ・キンキン・ガラガラ」を少ない売上で実現するにはどうすればいいかと考えたときに、出た答えが社員0人とDX化の2つだったんですよね。

—ちなみに、サブスクにした理由を聞いてもいいですか?


うちのライバルって「北欧」でもなく「ラグジュアリー」でもなく、「家の風呂」なんですよね。それこそ週5サウナに行かないと満足できない人たちにとって、今のサウナ価格帯だと家賃よりお金かかっちゃう。だから、これからはサブスク型サウナが絶対求められると思ったんです。

—ターゲットは毎日サウナが必要な人たち?


ターゲットというか、そんな人はまだいないんですよ(笑)。ただいずれそうなると思ってます。だからうちは「毎日入るにはちょうどいい」というファストサウナ的なポジションなんです。うちだと月20回来たら1回850円になるので。

アツアツなサウナDXに迫る!

無人店舗の勝利は「最先端のテクノロジー」と「会員さんの愛」がもたらす

—どうやって1人でオペレーションを回しているのか気になってきました


無人サウナは、完全に「最先端のテクノロジー」と「会員さんの愛」で成り立っていると思ってます。

—どっちも気になりますが「最先端のテクノロジー」部分から聞いてもいいですか?


僕は世界最速じゃないかと思ってるんですけど、例えばサウナの受付はセーフィーさんの顔認証システムを使っています。エレベーターから降りた瞬間には、なんならもう顔認証が終わってドアが開いてるぐらい。人が受付するより早いし、Web決済なのでお金のやり取りもない。

利用者はWebで会員登録と顔登録、決済したらあとは手ぶらで入るだけです。

シャワー時間とかは人に寄るので省きますが、入店からサウナに入るまで1分ぐらいで顧客体験ができるんです。

それから、店員さんをおかない代わりにクラウドカメラを使った遠隔オペレーションをしています。店員さんの目の代わりにカメラがある感じです。そもそも、店員さんが店舗にいるのって、安全性の担保だったり、マナーの維持とかトラブル防止のためだったり。ここの辺りはカメラを通したほうが客観的に状況把握ができると思っています。

—「会員さんの愛」についても教えてください!


オールドルーキーサウナは無人運営だけど、有人の店舗よりも手厚いケアができていると思うんです。うちには会員さんとつながるための公式LINEがあって、かなりリアルタイムで会員さんとコミュニケーションが取れているんですね。

「ボディソープ無くなってたよ」とか「サウナ室でしゃべってる人がいたよ」とか、会員さんから教えてもらうことが多いです。会員さん同士の注意は禁止しているので、マナー違反があったら公式LINE経由で教えてもらい、それを僕が確認してこまめに注意してます。

無人店舗なので、会員さんが気づいたらゴミを拾ってくれたり、ビート板を直してくれたり、自分たちが快適に過ごせるように環境にすごく配慮してくれるんですよね。まさに「会員さんの愛」で成り立っているものだと思ってます。

だから、無人店舗であることが逆に顧客満足度やコミュニティ形成につながっていると思いますね。

無人サウナから着想の新ビジネスが面白い

愛煙家のための「喫煙喫茶 オールドルーキーカフェ」

—サウナ事業から着想されたビジネスがあるそうですね。


「喫煙喫茶 オールドルーキーカフェ」という無人カフェをオープン予定です。利用は電子決済にして、店内にはテーブルとイスだけがある完全無人のスタイルで、たばこが吸える空間を提供します。飲み物は会員さんが好きなものを持ち込んでもらおうと。

—サウナと同じくサブスク型サービスですか?


そうです。会員制による月額3000円ぐらいで、それ以外に1回1時間の利用で50円。とりあえず1000店舗、200mおきぐらいに作りたいと思ってますね。

—200mおき!興味深いです。ちなみになぜ喫煙喫茶をやろうと思ったんですか?


僕にとってなんですけど、喫茶店ってたばこを吸って一息つけるところだったんですよ。

それが、コロナ禍もあってちょっと東京を離れていたら、2020年に改正健康増進法が施行されていて、いつの間にか喫茶店でたばこが吸えなくなってた。

分煙自体はとても良いことだと思ってますけど、完全に禁煙に振り切る店舗が多かったので、僕みたいに1日3回ぐらい喫茶店で落ち着いてたばこを吸いたい人がいくところがほぼ絶滅してしまって。ないなら自分で作ろうと思ったんですよね。

—ライフスタイルのなかに喫煙が入っている人たちに?


そうです。愛煙家にとっては、座ってたばこが吸えればコーヒーもいらないし、路面店である必要もないし、究極たどり着けたらそれで良いと思う人もいると思うんですよ。

こちらも岡村さん1人のオペレーションを予定しているんですか…?


サウナ事業で無人店舗運営をやってみて、1人でいけるなと思ってます。もちろん、掃除などは外注なので、ここでいう無人は店員さんをおかないという意味です。

カメラを使った遠隔オペレーションの部分を横展開できると思ってます。完全セルフなので会員さんは片付けをしないで帰ることもできるんだけど、店員さんの目の代わりにカメラがあるから、リアルタイムで「片付けてくれたらうれしい」って声がけができる。

—カメラが「目・耳・口」を兼ねているから1人でも店舗をまわせるんですね


はい。そうすると、店員さんをおかない(人件費をかけない)から、利用料1回50円という価格で提供できる。でも、それで運営できるって、会員さんのマナーが良いから成り立つことでもあって。

これでマナーが悪かったら、やっぱり店員さんをおかなきゃいけなくなって、利用料が上がっていく。僕らが全部やるんだったら、もっと高いお金もらわないとできないですよね。会員さんたちがルールを守って、自分たちのスペースをみんなで作り上げていく、だから安く提供できるんです。

DXは顧客の幸せと同じ方向を向いてやるから成功する

最先端のデジタルと会員さんの愛でまわる店舗ビジネス

—さいごに、店舗系ビジネスのデジタル活用について言えることは何だと思いますか?


顧客がほんとに求めてるものにお金をかけて、顧客が体感する価値にならないところは極力コストを減らしていくってことに尽きると思います。顧客体験に関係ない裏側の部分は、機械がやっても人がやっても同じです。だから、そこをテクノロジーの力で自動化しましょうよと。

例えばうちのサウナだと「熱いか・冷たいか・きれいか」。だから、掃除にめちゃくちゃ力を入れてます。真心を込めた清掃ってやっぱり人にしかできないんです。人にしかできないところに人を集中させて、それ以外のところは自動化する。それが結果、顧客満足度につながると思います。

—ニワトリと卵の話じゃないですけど、やっぱり「何かDXしなきゃ」という焦りから入るのはよくないのでしょうか?


DXは、顧客のためにしないと意味がないと思う。店舗の幸せと顧客の幸せが同じ方向を向いてはじめてDXをする意味が生まれる。

顧客に良いサービスを提供しようと思ったら高いお金をもらえばできるけど、高かったらどうなんだって部分もある。だから、今よりも安くサービスを提供しようと思ったら、なんらかを大幅に変えないといけないですよね。そのために必要になるのがDXだと思います。

・365日営業の会員制のサウナ「オールドルーキーサウナ

・店舗管理に特化した映像プラットフォーム「Safie(セーフィー)」ぜひご体験ください!

RELATED関連記事

特集

♯6 ヒトの欲望に立ち向かうチェーンストアのシステムを解剖。店舗ごとの独自色は吉と出るか

特集

♯5 小売向けメディア編集長が考える「リテールテインメント」の本質とは?

映像活用について
さらに詳しく知りたい方はこちら

資料請求する