人の目と脳の限界はどこまで?そしてカメラは第3の目になりうるか

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「見ること」の奥深き世界

百聞は一見にしかずという言葉通り、人間の五感の中でも特に視覚から入る情報は人間の意思決定に大きな影響を与えている。しかし、我々は目から入った情報を、本当に適切に処理し活用できているのだろうか。

今回は人の目と脳の機能に対して「第3の目」としてカメラの映像データがサポートすることで、産業や社会がどのように進化していくのかをテーマに、ファシリテーターにNewsPicks Brand Design 編集長の中島 洋一氏を迎え、『異能の掛け算』『集中力』の著者である株式会社Sun Asterisk Business Development Section Managerの井上 一鷹氏と、映像プラットフォームを提供するセーフィー株式会社代表取締役社長CEOの佐渡島 隆平氏の2名による対談を行った。

人間にとって重要な「目」の役割

中島:お二人は「目」や「見ること」を主とした事業に長年携わって来られましたが、本日のテーマ「人の目と脳の限界」についてどう考えますか。

井上:非常に面白いテーマだと思います。人間は得られる情報の80%が視覚からだと言われていて、その情報を基に意思決定の多くがなされています。それに、日本語は目を見て話す文化ですよね。目を使った慣用句が、他言語に比べてやたら多いんですよ。

以前に私がいたJINS MEMEでは人の目の動きをとらえるメガネ型のデバイスを開発していました。目の動きから人の心理状態や生理現象を読み解いてたんです。

例えば眠いときの人の目の動きは明らかに変わるので、デバイスで察知して居眠り運転防止のアラートを出せます。逆に集中しているときは目の瞬きが減るので、集中度合いを読み取れる。こういった目の動きの面白さというのはこれまでの研究で感じてきました。

佐渡島:人はパッと見でほとんどのことを判断しているので、意思決定においてセンシング機能、つまり視覚は非常に重要だと思います。

あらゆる場所にセンシング機能であるカメラを設置することで、意思決定のスピードや質が上がり世界がより良く変わっていく様は非常に面白いですね。そういう世界を作ることに携わりたいと思って会社を作ったので、このテーマは楽しみです。

中島:意思決定においての目の役割についていかがですか

井上:例えばJINSの店舗にたまにエース級の接客ができる人がいます。なんでそんなに売上高くて評判もいいのか尋ねると、「あのお客さまはへそをあっちに向けているから、今話しかけた方が良いんです」と答えてくれたりする。

でも、たくさんの視覚情報の中から瞬時に何を取捨選択するかは、その人にしかわからない特殊な感覚です。教えても従業員全員ができるわけないんですよね。

目というセンサーから情報が入ってきても、全員の脳みそがそれを瞬時に解析して付加価値の高い接客というアクションにつなげられるわけじゃない。だから、フィルタリングされた最適な情報をインプットすることができたら、とても大きな価値創造の山を生み出すと思います。

佐渡島:すごく共感できるお話です。業績の良い飲食店の店長さんがいうのが、「お客様と入口にケツを向けるな」ということ。つまり、そこを目で見続けるということの重要性を表しています。

迷っている新規のお客さんをすぐに呼び込める。ドリンクが空になったらもう一杯、食事が終わったらデザートを聞きに行く。このように適切なタイミングでアプローチすると客単価が上がるわけです。

こういったことを能力の高い従業員や店長は感覚でできてしまうんですが、再現性の高いアクションや仕組みに落とし込むことで普通の従業員もできるようになります。

そのために、できる人の業務を分解するという工程が大事です。その人の技能を100個ぐらいに分解すると再現性のあるポイントがある。そのポイントをそれぞれの才能と掛け合わせるとブレイクスルーが起こせると思います。

「人間が集中しない方が良いけど大事なこと」はデジタルに任せよう

中島:そもそもできる人はなぜ「できる」のでしょう。

井上:できる人は必要な情報とノイズを分ける能力が高いから、「見ないもの」を決めているんです。お客様の方を向くだけではなく、何を見ないかに関しても多分最適化しています。

しかし、それに20年かけても全員ができるようになるわけではないですし認知限界もあります。脳に届ける情報をフィルタリングして、必要な情報を提供しないとこなせる数も減ってしまう。

だから、今佐渡島さんがおっしゃったように100個くらいに業務を分解して再現性のある部分を抽出すると同時に、どこを削るかという話をするのが大切です。

つまり人間が付加価値の高い部分に集中し、それ以外の削ったところをカメラやAIに任せる。世間でよくDX化が叫ばれていますが、これがDXの本質ではないでしょうか。

佐渡島:例えば自分で記憶しないでスマホにデータを入れることも、一種の能力の拡張ですよね。すべてのことを人間が記憶できるわけではないので、集中しなくて良いこともあります。

でも「人間が集中しない方が良いけど大事なこと」もあるわけです。これをどうデジタルで補うかはDXの重要なテーマだと思います。

効率化の先には付加価値創出がある

中島:なぜセーフィーは「現場DX」を掲げているのでしょうか

佐渡島:これまでデジタル領域とアナログな現場での業務は完全に切り離されていました。

例えばECをやられている方にとって数値を追うのは当たり前ですが、現場の飲食店で働いている店長さんに「今日は何時台にお客様何人きたか」と聞いても明確に把握できていなかったりする。でも飲食店は客単価×客数×リピート率で売り上げが出る商売なので、本来数字の把握が非常に重要なんです。

店内をカメラで記録をすることで人が数えなくてもデータがわかりますし、店員がどんな接客をしてお客様が何を買ったか映像で全部記録されているから教育にも使えます。

このように、これまで人間が判断していた現場の世界をセーフィーのカメラのようなものでサポートしていくことが求められていると思います。これが現場DXのテーマです。

井上:私はDXという言葉がバズワードになりすぎて違和感を覚えているんですよね。DXといってもその中には効率化を行うデジタイゼーションと、デジタルの力によって初めて生まれる付加価値創出を行うデジタライゼーションという2つの段階がある。

でも、世の中的にはほとんど効率化、デジタイゼーションの視点でDXが語られるわけです。効率化の話だけするのってつまらないから、その観点だとDXのモチベーションは上がらないじゃないですか。

とはいえ、効率化の世界に向き合った人でないと、その先の付加価値創出、デジタライゼーションの世界は見えてこない。だから、逆に効率化の先には付加価値創出があるんだよ、そんなに乾いた話ばかりではないよということも知ってほしいと思います。

中島:具体的にセーフィーのカメラで付加価値創出をした事例を教えてください

佐渡島:当社のパートナーとして協業し、いろんな業種のお客様に設置をしているRURA(ルーラ)という遠隔で接客ができるツールがあります。

例えば無人のフィットネスジムでも入会案内だけはRURAを使って接客のプロがやる。勝ちパターンが見えているプロが担当することで、成約率が上がります。フィットネスジムに通う動機ってフワッとしている人が多いので、しっかりプロが動機付けをしてあげることで三日坊主になったりやっぱり入会やめた、となるのを防ぐことができます。

また、プロゴルファーがいないような地域のゴルフスクールで、RURA(ルーラ)を使って遠隔地のプロゴルファーが教えるということもあります。これらはまさに付加価値創出の事例になると思います。

井上:DXは効率化の部分もありますが、今お話しいただいた事例みたいに価値を引き出せる面も大きい。やはり人が減っている時代なので、放置していると死んでしまう価値がたくさんあります。

それを映像や音声を使ったソリューションでつなげることでちゃんと引き出したり残すことができるのは素晴らしいですね。

映像データによるフィードバックが人を変容させ進化させる

中島:映像データの活用が進んでいくと世の中はどうなって行くのでしょうか

佐渡島:カメラを目として捉えたときに、その「第3、第4の目」が自分の代わりに意思決定する世界が訪れると思います。2030年にはロボットと人間がシームレスに共存する世界となっているはずですし、セーフィーではそんな未来にアップデートしていきたいですね。

ただ、いきなりAIが人間を変えるわけではなく、テクノロジーはあくまで人間をサポートするためにあります。だから、遠隔のコールセンターから接客をサポートするといった、半歩先を作っていくのが大切です。

人間はリアルタイムにフィードバックをすることでどんどん変容できるんです。そこにデジタルを組み合わせるとさらに進化が早くなると思います。

井上:「眼の誕生」という本がありまして、カンブリア期に初めて目を持った生物が誕生して以来、進化のスピードがめちゃくちゃ上がって多様性が爆発的に増えたということが書いてあります。つまり目から来たデータをフィードバックすることで進化したんです。

カンブリア期に種が増えたように、映像によるデータフィードバックが人間をどう進化させていくかということがわりと大事なテーマな気がしてて。データを取り込んで人間が進化することにアレルギーを持ってはいけないし、その進化を楽しんでいきたいですね。

佐渡島:三葉虫がイノベーションを起こして目が増えたから、そのあと恐竜時代までどんどん進化していくみたいな話ですよね。ロボットにしても、耳や目、知性、さらに超知性というプロセスを必ず通って進化していきます。

現代はその過程を人間がデザインできる時代となりました。その中でもリアルタイムのフィードバックという面ではやはり目は大事なので、第3、第4の目としてカメラ・映像の力は大きいと思います。

リアルタイム性の高い情報によって、人が進化し、業界が進化し、世界が進化する。進化の中で我々が提供するものが役に立っていくことを、セーフィーでは目指したいと思います。

・セーフィーの掲げる「現場DX」はこちら
映像データであらゆる産業の現場をDXする「現場DX」

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