話者紹介
見える、聴こえるがオンライン診療普及の鍵
安藤:本事業では聴診や血圧などで得られる生体情報を遠隔にいる医師に伝える為の機器を搭載した診療カーを社会実装しました。車に訪問看護師が同乗し、患者宅付近に駐車した車内で患者さんと医師をつなぎオンライン診療を行っています。この取り組みは厚生労働省の分類だとD to P with N型 (患者が看護師等といる場合のオンライン診療)と呼ばれています。
オンライン診療は地域の医療課題や医師不足を解決する手段の一つであるものの、日本ではあまり信用されず普及が進んでいないのが現状です。オンライン診療そのものの精度に疑問を感じている医師も多く、ベテラン医師ほどその傾向は強いかもしれません。
その理由の一つが映像や音声における課題です。一般的なビデオ会議ツールを使い、患者のスマホ、医師のPCのような組み合わせでオンライン診療をやってみると、端末内で伝わる画像情報はかなり限定されてしまいます。例えば、顔色もはっきりとは分かりません。そうすると医師としては診断を出しにくいし、患者としても正確な診断をしてもらえるか不安になります。これでは確かに普及しにくいです。
中野:今回、安藤先生がオンライン診療で実現したいことは、問診におけるリアルな映像と聴診におけるクリアな音声でした。特に問診の部分で、一般的なテレビ会議ツールだとリアルと同じような音声表現が困難です。映像は目の前に映っていても、声を出した時に音が被ると「もう一度お願いします」というコミュニケーションになってしまい、利用者にとって大きなストレスになります。その点、「窓」はリアルに会話をしているような表現ができるところが強みです。
オンライン診療で「窓」が生み出す新たな価値
安藤:医師の立場としては、「窓」の映像を通じて患者さんの様子が網羅的かつ鮮明に見えるのがすごく良いです。まるで目の前にいるかのような臨場感があり、向こうとこちらが同時に喋ってもお互いにしっかり聴こえる。貧血の有無みたいな微妙な色のニュアンスもわかる。これなら実用に足るということで導入に踏み切りました。
患者さんからも僕の姿が丸写しになっており少し恥ずかしいのですが、患者さんは喜びますね。ある患者さんの奥様がすごく「窓」を気に入ってくれて、次はいつ診療カーが到着するのか?と毎回聞かれる程です(笑)。
中野:「窓」のクオリティが患者さんにとって大変安心できたということかもしれませんね。患者さんやご家族から受け入れられるというのは普及面でも大変大きいと思います。
安藤:オンライン診療では、対面と遜色ない問診と、はっきりとした音響での聴診ができることがまず基本です。国内においてどこもまだ実現できていませんでしたが、問診においては「窓」の登場で「診療の基本」に到達したと感じています。
これによって現場の看護師の労働環境が改善できるかなと。現在の在宅診療は看護師が主役です。医師が訪問するのは月2回程度に対して、看護師さんは週何回も訪問します。ただ、現場では訪問看護の看護師と訪問医療を担当する医師は別の事業所から来ており、情報共有が難しい。また緊急時には医師に連絡するわけですが、この状況で本当に電話して良いのか、いきなり電話したら失礼なのではないかと迷ってしまうこともあります。そんな時に診療カーに「窓」があって、いつでも看護師から医師に通信ができて、映像を見て医師がすぐに向かったり対応を指示したりできれば、看護師も医師も電話よりコミュニケーションが取りやすく働きやすくなるはずです。
大野木:「窓」を活用することで地域医療においてこれまでできなかったことを実現し、効率もよくなるということですね。将来的には診療カーによるオンライン診療以外にも「窓」越しに主治医以外のセカンドオピニオンを受けられるサービスを提供ができるかもしれません。例えば離島の人が都市部の医師にセカンドオピニオンを求める際にわざわざ船や飛行機に乗って遠距離を移動する必要はなくなります。患者さんにとってすぐに医師に相談できる・安心して診てもらえる体制は地域医療の可能性を広げると考えています。
安藤:今後人口減により医師が減るなかで、医師側も自分の医院から遠く離れた患者を診療し、一人で何役もできるようになれば、医師の労働環境改善にも繋がります。分野によっては対面をオンライン診療が凌駕するような場面も出てくるかもしれません。
産学官が一つになった「仙台モデル」が切り開くオンライン診療の未来
髙野:オンライン診療については、現行法令ではカバーしきれていない部分が多く、今回の取り組みを進めるにあたっても、実施場所に関する制限、検査実施の際の診療報酬の算定の可否など様々な課題がありました。そこで、国家戦略特区の枠組みを活用し、国に対して環境整備に向けた規制改革の提案を実施してまいりました。国でも、内閣府規制改革推進室が中心となって、オンライン診療に係る検討を進めている状況で、1年を待たずに、提案していた内容が実現したところです。これはスピード感のある対応だったと感じます。また、現状、仙台市は除外されてしまっていますが、へき地等におけるD to P with N型のオンライン診療について診療報酬の算定も新たに可能になっています。
ただ、まだまだ課題は山積みです。オンライン診療が普及するにはその仕組みがしっかり確立する必要があると感じていますが、オンライン診療は対面診療よりも診療報酬が低く、導入する病院にとって経済的な負担が大きいこと、オンライン診療の影なる主役だともいえる看護師の業務領域をどこまで認め、どう育成していくかなど、これらを一つずつ解消していかなければなりません。これは「窓」に限った話ではありませんが、オンラインでも医療のクオリティを維持できる技術やデバイスの登場は規制緩和において重要な論点になるでしょう。
モデレーター:全国でもオンライン診療の取り組み事例はあると思いますが仙台市はこれまでと何が違うのでしょうか?
中野:民間や行政主導でのオンライン診療事例は多々ありますが、医師会にてこれほど牽引いただけている取り組みは他にはないと思います。
髙野:おっしゃる通りで、仙台市のように産学官が高度に連携できているのは全国的に珍しいようです。視察にいらっしゃった他自治体の方からは「どうやって医師会と進めているのか?」と連携の仕方について必ず質問されます。仙台市の良い連携の中心にいるのが、仙台市医師会長の安藤先生。やはり医療サイドの当事者としてその分野をよくわかっている方が明確に旗振り役として活動しているのが他との大きな違いであり、今後の普及においても大変心強いです。
大野木:仙台市様の特筆すべき点は産学官のしっかりした連携によってオンライン診療が実現できていることだと私たちも感じています。当社でも、オンライン診療において「窓」を活用した事例は過去あり、都市部の医療機関に所属する医師が医師不足の地域住民に対して医療サービスを提供するという形態でオンライン診療を実施しました。ただ、実施して頂いた診療所においては実現できているものの、今後の発展としてどのように自治体や他の病院と連携していくか、ということになると関係者の皆さんの調整に時間を要するという課題がありました。
髙野:東北は課題先進地域とよくいわれますが、逆にいうと変革するきっかけにあふれている地域だと思います。その中で、「医療」は欠かせないテーマであり、そういうふうに前向きに捉えてオンライン診療カーという仙台市の新しい取り組みをしっかりと全国に普及させ、遠隔医療の、仙台・東北の未来を切り開いていく一つのきっかけにしていきたいですね。
安藤:みなさんありがとうございます。今後この取り組みを拡大していくためには賛同する医師を増やす必要がありますし、在宅患者に対応するためにベットサイドで行うD to P with N型オンライン診療も検討しないといけません。オンライン診療が多くの苦難を乗り越えて世の中に認知されるには大きな情熱と力の結集が必要ですので共に進んでいきましょう。
私たちはこれからもパートナーと共に映像の力で地域課題を解決し、「映像から未来をつくる」というビジョンを実現していきます。
前編はこちらからご確認いただけます。
仙台から切り開くオンライン診療の未来。産学官が一つになった挑戦で「窓」が生み出す価値とは(前編)