施工管理は「人」から「仕組み」へ

特集

人手不足に悩む住宅業界の現状と住宅の建築現場におけるクラウドカメラ・現場カメラの活用の可能性について、創樹社の中山社長にご意見をうかがいました。

創樹社は、住生活産業情報誌『Housing Tribune(ハウジング・トリビューン)』をはじめとする住宅関連情報出版事業を営んでおり、日本の住宅市場を長期にわたって見てこられています。人手不足の中で変化する業界の姿と、そこでの課題をカメラが解決できるのかを探ります。

話者プロフィール

中山紀文 氏
株式会社創樹社 代表取締役社長

株式会社創樹社に入社後、住生活産業の総合情報誌である『ハウジング・トリビューン』編集部で住宅建材などの分野を担当。緑化・環境建築に関する専門誌を担当した後、ハウジング・トリビューンの取締役編集長に就任。2015年12月から代表取締役社長に。

深刻化する住宅業界の人手不足

- さっそくですが、現在の住宅業界について、市場が厳しいなか人材不足も問題だと聞きます。市場縮小との兼ね合いはどのようになっていますか

中山社長(以下敬称略)着工戸数の減少よりも職人の減少の方がより深刻な問題だという見方もあります。今後、仮に80万戸を切るような時代になったとしても、それ以上のスピードで職人が減少する懸念があり、住宅業界全体が必要とされる住宅を建築する力を失いつつあります。また、建設業において人手不足倒産も増えてきているようです。

推進される大工の社員化

- 人手不足の問題に対して業界はどのような対策を取っているのでしょう

中山 人手不足を短期で解消する特効薬はなく、雇用環境などを着実に良くしていくことが必要ではないでしょうか。例えば、多くの住宅会社が社外のいわゆる「ひとり親方」と呼ばれるような協力事業者に施工を依頼していますが、こうした状況ではなかなか若い人の入職は期待できないのではないでしょうか。

大工になりたいと考えている若い方々であっても、将来のことを考えると、なかなか大工の道を目指すことができないのです。それだけに、大工の社員化などを進めていき、安心して働ける雇用環境を整備することが求められています。

また、技能の伝承という点でも大工などを社員化し、しっかりとして教育の仕組みを整え、次世代を担う職人を育てていくことが必要ではないでしょうか。

最近では、積極的に大工の社員化を進める工務店の方々も増えているようです。また、積水ハウス建設さんが「住宅技能工」の採用・育成に注力するとして、工業高校や工業系専門学校の卒業予定者を中心に積極的に採用していくと発表しました。

- これまでの雇用形態では若い人は集まらないのですね

中山 ええ。賃金面でも改善が必要でしょう。住宅業界だけでなく、建設業界全体が労働時間が長い割に賃金は低い傾向にあります。バブル崩壊の時に大きく賃金が下がって、その水準から上がっていないようです。

建設業は日本経済の中で雇用調整的な役割を担ってきた側面があります。公共投資をやれば建設業が盛り上がり、雇用が増えるという雇用調整の構図がありましたが、バブルが崩壊した時に建設需要が急激に減少し、その時に職人さん達の賃金が下がってしまいました。そこからいまだに元の水準に戻っていないという状況があるようです。

経験・技能評価と賃金アップ

- 長時間労働も問題になっていますが

中山 はい。言い方は悪いですが、給料が安いのに働く時間は長い傾向があり、例えば週休2日が取れている割合は他の産業と比べるとかなり低い。そのため、国土交通省では、現在、標準労務費の導入を検討しています。建設業における標準的な労務費を明確にし、それを下回る請負金額で工事を発注した場合、勧告を行うといったことを議論しているようです。

その一方で、建設キャリアアップシステム(CCUS)という仕組みも運用されています。これは、技能や経験に応じて賃金が支払われる環境を整備するためのものです。技能者が登録を行い、自分が携わった工事などの履歴を管理しながら、レベル1からレベル4という4段階で技能を評価します。客観的に技能を評価することで、仕事の質に応じて報酬が変わるという状況を創造しようとしています。

標準労務費で最低限の報酬のラインを決め、CCUSによって職人の技能レベルによって報酬が増えていくようになれば、新規入職者も増えていくのではないでしょうか。

- なるほど。ただ、2024年3月で「時間外労働の上限規制」の猶予期間が終了し、4月からは時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」がありますが、それとの兼ね合いはどうなのでしょう

中山 先ほど言ったように建設業の労働時間は長く、多くの建設業者が完全週休2日を実現できていません。そのなかで残業時間の上限規制に導入されるわけですから、なかなか厳しい対応が求められているのではないでしょうか。そもそも人が足りないなかで、1人あたりの労働時間も圧縮していくわけですから。

- その場合はどうなるのでしょう。受注しても対応できないですよね

中山 そうですね。工期が長期化し、結果として完工棟数が減少してしまうという懸念があります。

また、一人親方のような個人事業主の方々にとっては、より多く働いた方が、収入は良くなるので、元請業者に「社員が出勤できないので土曜日は作業をしないでくれ」と言われてしまうと困ってしまうという問題もあります。

さらに言うと、「大工を社員にしてしまうと残業時間の上限規制の対象になるから、協力業者に依頼した方が効率的ではないか」と考える元請業者が増える心配もあります。そうなると、先ほど言った大工の社員化といった雇用環境の改善に向けた動きに水を差すことになるかもしれません。

最重要課題は、現場監督の負担軽減

- ハウスメーカーは、職人を社員化するのか、協力業者に外注するのか悩ましいですね。人材確保も競争ですね

中山 そうですね。皆さん腕の良い職人さんを確保したいですからね。

あと、現場監督が圧倒的に足りていないです。職人さんも足りないですけど、現場監督が足りない。住宅の現場監督は施工中の物件を複数受け持ちますが、現場監督の数で年間の受注棟数の上限が決まるとも言えます。言い換えると、受注棟数を増やしていくには、同時に現場監督の数も増やす必要があるのです。ですが、建設業界全体が現場監督を欲しがっているので、例えば大手ゼネコンなどとの人材獲得競争を強いられるわけです。

現場監督の数を増やすことができないとなると、1名の現場監督が受け持つことができる現場の数を増やすしかない。そうなると、現場監督の業務負荷を軽減する必要がある。とくに戸建住宅の現場監督は、「何でも屋」的な存在になっていることが多く、様々な雑務を抱えながら複数の現場を担当しています。地方部などでは移動の時間も多くなるので、業務量の多さと拘束時間の長さに疲弊している現場監督も多いのではないでしょうか。

- 大変ですね。現場監督が複数の物件を抱え走り回っているというのはよく聞きます。そういった現場監督の業務をクラウドカメラでカバーする可能性はいかがでしょうか

中山 十分にあると思いますね。と言うか、そういったツールを使い、業務を効率化しない限り、どこかで歪が生じるでしょう。多くの現場監督の方々が、お昼の休憩も移動途中のコンビニでご飯を買って、車の中で食べながら、いろいろ連絡してという毎日です。もしもクラウドカメラを使い、品質管理と安全管理のレベルを落とすことなく、現場に行く回数を減らせれば、現場監督の業務負荷を大きく削減できるのではないでしょうか。

現場管理におけるクラウドカメラの可能性

safie Pocket シリーズのイメージ画像

- 現場に行かなくても、現場監督が管理できるクラウドカメラの使い方は、具体的にはどういうものがあると考えられますか

中山 現状ではどちらかという現場の防犯のために使っているケースが多く、本格的に現場管理に使用している企業は少ないのではないでしょうか。戸建住宅の建設現場でも、試験的にWebカメラなどを活用して遠隔管理を行おうという事例が出てきていますが、本格的な実用化はこれからではないでしょうか。

- 現場監督の負担はどうにか軽減しないといけないですね

中山 ええ。そのために、少しずつ新しい取り組みに挑戦する企業も出てきています。例えば、現場の職人からの連絡は内勤スタッフが対応し、現場監督は本来やるべき品質管理などに集中するといった取り組みを行う工務店も登場しています。

リフォーム工事での導入と活用方法

- リフォーム分野でクラウドカメラを使う可能性はどうでしょう

中山 リフォームでは、現場監督が新築以上に多くの現場を同時に担当していることも多いので、クラウドカメラを導入し効率化を図りたいと考える事業者は少なくないのではないでしょうか。

ただ、リフォームの場合、居住者が生活をしている状態で工事をすることが多いので、プライバシーの問題などをクリアする必要はあるかと思います。

クラウドカメラで「現場管理システム」を構築せよ

Safie Viewer イメージ画像

- リフォームも新築も、今のように現場監督が走り回っているような状態では、品質管理にコミットすることも難しいでしょうね

中山 今の状況下で現場監督の方々が、本来の役割である品質管理の仕事を十分にこなせているのかと言うと、難しいでしょう。

じゃあ、誰が戸建住宅の品質を担保してきたかと言うと、経験と技能を備えた大工やそれ以外の職人の方々ではないでしょうか。プレカットが普及したと言っても、今でも日本の住宅建築は現場の職人の方々に頼っている部分が多いのです。しかし、職人の高齢化が進み、今後は腕利きの職人の方々がどんどんいなくなっていきます。そうなると、今までのやり方で品質を担保していくことが難しくなる。

それだけに、「人」に頼っていたものを、これからは「仕組み」で管理していかないといけない。現場監督の業務負荷を減らしながら、「仕組み」で施工品質を管理していく。そういったことを考える時期に来ていると思います。

「仕組み」を構築し、なおかつ業務の効率化を図っていくためには、デジタルツールなどに頼る場面も増えるでしょう。そういう意味では、カメラを活用していくのはすごく大事だと思いますね。ただし、「現場管理システム」になるように、現場の業務の中の「仕組み」の一つとしてカメラの活用を組み込んでいく必要があると思います。

-先ほどお話しされたカメラと仕組みをうまく組み合わせた現場監督の負担を軽減する「現場管理システム」を構築する必要があるということですね。本日は、貴重なご意見ありがとうございました

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