スーパーマーケットチェーンの“現場DX”。社員や来店者の動線をAIで解析。新たな気付きを商売のおもしろさにつなげたい

特集

対面の接客や人手による商品補充など、小売業はこれまで労働集約的なビジネスの筆頭といわれてきた。そんな中、カメラの「映像」を軸とした実証を行い、DXを推進しようとしている企業がある。それがスーパーマーケットチェーンのベルクと、ソリューションベンダーのセーフィーだ。

最新のエッジAIカメラ「Safie One(セーフィー ワン)」を活用し、売り場の映像データを収集・活用する。業務改善、売上向上、さらにフードロス削減までを目指す両社のキーパーソンに話を聞いた。

※こちらの記事は「日経ビジネス 2022年11月14日号」に掲載されたインタビュー記事を転載したものです。

株式会社ベルク 代表取締役社長 原島 一誠氏

株式会社ベルク
代表取締役社長
原島 一誠

1978年生まれ。2002年にベルク入社。2014年5月から専務取締役営業本部長、2015年4月から代表取締役専務営業本部長などを歴任し、2020年5月より現職。

セーフィー株式会社 代表取締役社長CEO 佐渡島 隆平

セーフィー株式会社
代表取締役社長 CEO
佐渡島 隆平

1979年生まれ。甲南大学在学中に起業。2002年にソニーネットワークコミュニケーションズ入社。モーションポートレートを経て2014年にセーフィーを創業。

外部企業と協業することがDXを推進するカギになる

―現在のスーパーマーケットチェーンにおけるDXの位置付けを教えてください。

原島:DXは待ったなしの状況だと感じます。これまでは、既存のビジネスモデルの延長線上に未来を描けましたが、今後はエネルギーや資源をこれまで通り調達できる保障はありません。人手不足もより深刻化するでしょう。同じことをやっていては生き残れないため、変革のきっかけとしてDXに取り組むべきだと考えています。

佐渡島:実際、ベルク様はデジタル活用に関する先駆的な取り組みを行っていますね。例えば、Z世代を意識したマーケティングは、競合他社であまり見られない施策だと感じました。

株式会社ベルク 代表取締役社長 原島 一誠氏とセーフィー代表 佐渡島の対談風景

原島:ありがとうございます。私が社長に就任した2020年5月から、社内の風土改革を推進してきました。まずアクションを起こし、徐々にデジタルの“濃度”を上げていく。このようなアジャイルなスタイルで、SNSを活用したZ世代へのアプローチやレジに並ばなくても決済できるスマートフォンアプリの開発など、様々な施策を展開してきたのです。こうした新しい顧客接点をつくることが、今後はさらに重要になると考えています。

また、そもそもデジタル化を進める際は、欧米の小売チェーンの取り組みを参考にしました。そこで気付いたのが、テクノロジーに精通したパートナーと協力することの大切さです。自分たちだけではどうしても過去の慣習や、常識に縛られてしまって枠を飛び出すことが難しい。この状態を打開するには、外部企業と組むことがカギになると思います。

―そこでパートナーに選んだのがセーフィーだったわけですね。両社が出合った経緯を教えてください。

原島:私が自ら、セーフィーのコンタクトフォームに連絡しました。

佐渡島:社長自らというのに驚きましたが、話をうかがってさらに驚きました。ベルク様が目指すのは表層的なデジタル化ではなく、リテール革命とも呼べる先駆的な世界観だったからです。パートナーとして共に取り組めるのは光栄だと感じました。

AIカメラがPOP効果を可視化 現場社員の働きがいにつながる

―現在はAIカメラ「Safie One」を使ったPoC(概念実証)を進めていると聞いています。狙いと内容を教えてください。

原島:以前から、売り場での販売状況の確認や、バックヤードのオペレーション確認にカメラの映像を活用しており、夜間のお弁当売上を20%改善するなど効果を上げてきました。しかし、忙しい中で映像を見る時間をつくるのは大変です。小売業向けのAIアプリケーションが搭載されたSafie Oneなら、映像から解析されたデータで、人が見なくても様々な課題を抽出して改善につなげられると考えました。

佐渡島:PoCでは「立ち入りカウント」機能を使い、エリア内に滞在している人数を自動で判別・集計してデータ化しています。今回の取り組みでは、店舗のお弁当売り場を俯瞰できる場所にSafie Oneを設置し、映像をAIによるデータ分析にかけました。

―分析によってどのようなことが分かったのですか。

原島:我々が一番の売れ筋と考えていた商品以外にも、ポテンシャルを持つ商品があることが分かりました。また、お客様の動線が大きく変わるポイントを映像で確認すると、POPの有無が影響していることも見えてきました。売り場では、どうしても過去の経験で判断しがちですが、映像という客観的なエビデンスを基にすることで、全員が納得した上で新たな施策を実施できます。

佐渡島:POPの置き方一つで人の動きが変わり、それが売上につながることが数字で示せれば、現場の方の仕事に工夫の余地が広がり、社員を評価する指標にもなります。自分のつくったPOPが、全店舗の売上アップに貢献するかもしれない。これは社員の新たな働きがいを生むことにもつながるでしょう。

原島:おっしゃる通りです。社員に商売のおもしろさを感じてもらえるきっかけにもなると期待しています。

図 エッジAIカメラ「Safie One」で取り組む売り場分析

PoCでは小売業界向けのAI-App(AI機能)を使ってお弁当売り場の滞在人数を集計。ポテンシャルがある商品の発見やPOP効果の可視化につながる

(図)エッジAIカメラ「Safie One」で取り組む売り場分析

すべての売り場をAIで再定義しフードロスの削減にもつなげたい

―この先はどのようなことを目指していきますか。

原島:お弁当だけでなく、鮮魚や野菜などのすべての売り場を映像とAIで再定義したいです。売上アップにつなげるのはもちろん、より緻密に管理することで、在庫最適化やフードロス削減にもつなげられると思います。

セーフィーと共に、業界にインパクトを与える取り組みを続けていければと思います。

佐渡島:映像の分析結果とPOSレジのデータをかけ合わせれば、値引き分析、PI値分析によるインサイトも得られると考えています。そのような取り組みも、順次進めていきます。

またベルク様は、業界全体の“現場DX”を加速させる取り組みも展開しています。一例が企業同士のコラボレーションの場である「ベルクデジタルラボ」です。ここに当社も参加して、業界が変わる瞬間にぜひ立ち合いたいと思います。

Safie One自体は小売業以外にも適応する汎用性の高いAIカメラです。ベルク様との取り組みで得た経験やノウハウを基に、サービス業や物流業などでも実証実験を進めています。他業界の“現場DX”にも貢献できるよう、さらにサービスを拡充していきます。

原島:様々な企業との取り組みでセーフィーが得た新たな知見は、すぐに小売業界にも反映されるでしょう。このスピードがデジタルの魅力。これからも一緒に新しいものを創造し、社会を変える取り組みに、ワクワクしながら向き合っていきましょう。

※ Purchase Index:来店客1000人当たりの購買指数

※こちらの記事は「日経ビジネス 2022年11月14日号」に掲載されたインタビュー記事を転載したものです。

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