創業400年超、建設業をリードする竹中工務店 広島支店長が語る 「作業所長が一度も現場に行かない世界」とは?

特集

2024年問題まで、あと約半年

若年層の担い手の減少に伴う高齢化や人材不足だけでなく、技術伝承や生産性の向上など労働環境に多くの課題を抱える建設業界。いわゆる「2024年問題」の解決のため、国土交通省も「遠隔臨場」を進めるなど、「現場DX」は建設業界全体で大きなテーマとなっています。

「株式会社竹中工務店」で活躍する方々は、現場DXの未来にどのようなビジョンを描いているのでしょうか。若手社員のクラウドカメラによる業務効率化の取り組みが評価され、2022年度全竹中開発改善大会で金賞を受賞した広島支店の古川支店長に、クラウド録画サービス「Safie(セーフィー)」を提供するセーフィー株式会社代表取締役社長CEOの佐渡島がインタビューさせていただきました。

(取材2023年3月)

日本の建設業界をリードするスーパーゼネコンの1社、「株式会社竹中工務店」。中でも建築専業の経営を貫く独自性で異彩を放ち、東京タワーや東京ドーム、あべのハルカスなど世に送り出す建築作品は時代やランドマークの象徴として人々の心に刻まれています。

同社は人手不足、技能継承など課題山積の建設業界を変えるべく、現場DXを積極的に推し進めています。その一環として、さまざまなシーンでセーフィーのクラウドカメラをご利用くださっているのが同社の広島支店です。今回はCEOの佐渡島が広島に飛び、同支店長の古川さんに現場DXとの向き合い方や今後の展望を伺いました。

間近に迫る「2024年問題」建設業をどう継続・発展させていくかが、現場DXの本質テーマ

佐渡島:今日は、我々が建設業界により貢献できるヒントをいただけたらと思い、お時間を頂戴しました。どうぞよろしくお願いいたします。まずはあらためて、御社についてご紹介いただけますでしょうか。

古川さん:当社は1610年に神社仏閣の造営で創業し、1899年創立の会社です。創業時から建築専業を貫いてきたことが大きな特徴で、「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」という経営理念は全社員に浸透しています。

ここからは私の解釈ですが、手がけた建築が「最良の作品」と評価されるには、規模的にも技術的にも突出したレベルの高さが必要だと思っています。当社の過去の作品でいえば、「東京タワー」や「東京ドーム」のような建築です。そのような建築を継続的につくっていく企業力を持ってこそ、「最良の作品」を遺せるのだと思います。

佐渡島:「最良の作品」を遺す企業力を維持するには、どのような現場DXを実現すべきだとお考えでしょうか? 

古川さん:建設の仕事はきつくて危険だというイメージを持たれることが多く、ずいぶん前から「このままでは建設業に就く人が減り、業界が衰退してしまうのではないか」と危惧していました。2024年問題でその懸念はいよいよ現実味を帯びてきますし、少子高齢化の波もある。こうした状況を踏まえると、現場DXは単なる数字上の業務効率化で語るべきではなく、建設業をどのように継続・発展させていくかが本質的なテーマであると考えています。

しかしながら、DX化が進んだ世界でゼネコンの存在意義をどう捉えるかは難しいテーマだと思っています。ゼネコンは大規模建築プロジェクトの設計・施工をトータルコーディネートする、いわばサービス事業者のような存在です。ゼネコンがステークホルダーを巻き込みワンストップで進めるためには、クライアントの意向に柔軟に対応できることが必要です。そこには必ず、繊細なコミュニケーションや暗黙知をもとにした高度な意思決定があります。

DX化が進んでAIが全てを判断するような世界がやってくると、「竹中工務店」というゼネコンの存在意義が揺らいでしまうのではないかとの懸念もある。そんな矛盾した思いも抱えつつ、日々、建設業界の将来に考えをめぐらせています。

アナログからデジタル化へのリアルな葛藤。目指すは、所長が一度も現場に行かない世界

佐渡島:古川さんからご覧になると、セーフィーのクラウドカメラはどのような存在ですか? 

古川さん:遠隔で現地の状況を確認でき、コミュニケーションも取れるセーフィーのクラウドカメラは、業務効率化を図るソリューションの1つとして大変有効です。中でも、私が高く評価しているのは教育面です。長年の経験で培った暗黙知を持つベテランは人数も教育に当てられる時間も限られますが、カメラで遠隔臨場すれば多くの現場に対して若手指導ができ、若手は貴重な暗黙知をどんどん吸収できる。企業力は人材の知の結集ですから、次世代の人材を育てることは「最良の作品」をつくる企業力につながります。そういった文脈でも、クラウドカメラとの出合いは非常に良かったと思っています。

広島支店の若手社員で取り組んだクラウドカメラによる業務効率化の取り組みが評価され2022年度全竹中開発改善大会で金賞を受賞

佐渡島:時間外労働の上限規制が厳しくなる2024年問題が迫る中、カメラ映像を使った遠隔臨場もかなり浸透してきたと思います。こちらについてはどのようにお考えでしょうか?

古川さん:人手不足でも時間外労働を減らすには、カメラ映像を使った遠隔臨場が不可欠だと考えます。私自身、短期目標としては、作業所長が現場に一度も行かずにすむ体制をつくりたいと思っています。

もちろん、現場に行かないことに抵抗感を持つ人はまだ多いですし、私も作業所長の経験がありますから、「現場が大事」との思いが根強く残っているのも事実です。一方で、「いつまでもそれじゃダメだ」という気持ちも強くもっています。いつの時代もデジタル技術で仕事の仕方が変わる局面は必ず来るし、ハレーションも付き物です。例えば私が入社した約30年前はFAXが重宝されていて、メールやPDFが出てきたときはFAXのほうがいいと反発する声も多かった。でも、今ではメールが当たり前でしょう?
だから近い将来、カメラを搭載したドローンが現場を飛び回り、作業所長は事務所の自席にモニター画面をずらりと並べ、デスクに座ったままカメラ映像を使って複数現場を管理するような世界が来ると考えています。そのときは作業所長という役職の要件として、映像から必要な情報をキャッチし、判断するスキルが求められるでしょう。そうやって遠隔臨場がごく当たり前になれば、広島にいる私たちが北海道の現場を見ることだってできます。たとえ働き手が減ったとしても時間外労働を削減でき、建設業も発展し続ける可能性が高まるだろうと思っています。

現場DX浸透のカギは成功体験。確かな安全と、働きがいのある産業へ

佐渡島:「いずれ、映像を使った現場管理がスタンダードになるだろう」という意識は、どうやったら広まるとお考えですか?

古川さん:成功体験を実感してもらうのが一番だと思います。当支店で遠隔指導などを担当したベテランのみなさんも、当初はカメラにさほど期待していなかったと思われます。でも実際に使ってみたら多くの現場の若手を指導できるし、移動のタイムロスも減る。それが成功体験となって浸透していったように思います。一足飛びに全てを切り替えるのが難しくても、適宜併用し、映像の有効性を知ってもらうことが大事だという気がします。

もうひとつ、自分の仕事に対し問題意識と課題設定を促すことも重要だと思います。それができない人は、すぐれたツールを目の前にたくさん並べても、使いこなすことができません。現場DXの効果は、課題を「自分ごと化」してこそ実感できるのだと思います。

佐渡島:では、現場DXと安全確保についてはいかがでしょうか?

古川さん:死亡事故がなく安心して働ける環境づくりは、建設という産業が生き残るためには欠かせません。万が一事故が発生してしまったら、しっかり映像を見返し、真の原因を突き止めることが再発防止策の出発点だと考えます。

クレーンフックに取り付けたクラウドカメラの映像で、玉掛けや吊り上げ作業時の安全確認をおこなうなど、ヒトの目による死角をなくし安全性向上に取り組む

佐渡島:私たちも、死亡事故がない現場をつくることをビジネスの1つのゴールに設定していて、人の命にかかわる部分に貢献したいという思いは非常に強いです。

古川さん:できることなら、全作業員にウェアラブルカメラを装着させて目線をビッグデータ化し、不安全行動などの分析を行いたいですね。あとは、業務中もデジタルで体調を管理して、熱中症のリスクが高まった人にはアラート発報するとか……。

DXでそこまで行けたら、ヒューマンエラーはかなり減少すると思います。セーフィーさんは常に、こうした私たち利用者の声に耳を傾け、反映しようとしてくださる姿勢が素晴らしいと感じています。今後もぜひ、建設業の未来を明るく変えていくために、一緒に歩んでいけたらと思います。

佐渡島:私たちのプロダクトは、お客様の声をもとにしたアジャイル開発を前提としていますから、今日いただいた課題をどう解決していくか、自分たちの使命として引き続き取り組んでまいります。本日はたくさんの有意義なお話をありがとうございました。

お話を伺った方

株式会社竹中工務店

広島支店長

古川 英樹さん

「株式会社竹中工務店」公式サイト https://www.takenaka.co.jp/

取材協力:オリックス株式会社

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