デジタル活用で「2024年問題」を解決!クラウドカメラを軸に人手不足を解消。大林組が進める“現場DX”の効果とは

特集

土木・建築業界に突きつけられている「2024年問題」。これまで猶予期間だった労働時間の上限規制が適用されるなど、業界の働き方は今、大きな節目に直面している。問題の解決には、デジタル技術を活用して現場業務の見直しを図ることが不可欠だ。スーパーゼネコンの1社・大林組は、セーフィーのクラウド型ウエアラブルカメラ「Safie Pocket2」を活用し、様々な成果につなげている。

※こちらの記事は「日経コンストラクション 2022年8月号」に掲載されたインタビュー記事を転載したものです。

株式会社大林組
土木本部 本部長室
i-Conセンター 現場支援第一課 課長
DX本部 生産デジタル部(兼務)
高橋 寛

「2024年問題」解決に向け
デジタル化をけん引する組織を新設

深刻な人手不足は、日本の企業・組織が直面する最重要課題の1つといえる。特に土木・建築業界では、各種インフラの老朽化などを受けて人材需要が高まっており、働き手不足の深刻さが一層際立っている状況だ。

また、1年半後の2024年3月末には「働き方改革関連法」の猶予期間が終了する。これにより、時間外労働の上限規制などが土木・建築業界にも適用されることになる。この「2024年問題」も、業界各社にとって頭の痛い問題となっている。法令を遵守せずに時間外労働をさせた場合、その企業に厳しい罰則が科せられるからだ。

このような動きへの対応をいち早く進めているのが、スーパーゼネコンの1社、大林組である。同社は2019年4月に、「i-Conセンター」を新設。この組織が中心となって、働き方改革に資するデジタル技術の利活用を推進してきた。

「i-Conセンターのミッションは、あくまで現場の視点から、あらゆる業務の効率性・生産性向上を追求することです。既存の情報システム部門とは別の視点から、デジタルツールの現場での利用浸透を図っています」と大林組の高橋 寛氏は説明する。

様々な取り組みを進める中、デジタルツールの1つとして同社が導入したのがセーフィーのクラウドカメラソリューションである。

セーフィーは、クラウドカメラソリューションを開発・提供することで、映像による建設業の“現場DX”を支援する企業。同社の製品を大林組が採用した主な目的は、国土交通省が推進する「遠隔臨場」への対応だ。クラウド型ウエアラブルカメラ「Safie Pocket2」が、まさに遠隔からの監督員などによる立ち合い・確認を可能にするツールだと評価し、採用を決めた。

「当社職員などの工事関係者が胸やヘルメットなどに装着するだけで、現場での移動の様子や作業内容などを動画で撮影できるほか、映像はクラウド経由で遠隔地にいる人とリアルタイムに共有できます。現在までに80台以上のSafie Pocket2を、全国の土木現場で活用しています」と高橋氏は紹介する。

この状態で作業することで本人目線の映像を記録・保存できる。なおSafie Pocket2はNETIS(新技術情報提供システム)に登録されており、国土交通省が策定した遠隔臨場のICTツールの仕様にも適合している

現場での活用シーン

電源を入れるだけで撮影開始
作業の様子を共有・記録できる

遠隔臨場は、2022年4月に国土交通省が「建設現場の遠隔臨場に関する実施要領(案)」を公開して以降、工事受注者と発注者の双方の合意のもとで実施されるケースが急増している。現場に出向かず、自社オフィスで現場の材料確認や立ち会いが行える遠隔臨場は、新型コロナウイルスの感染予防策としても有効なため、引き続きニーズは高まっていくだろう。

「Safie Pocket2は通信機器と一体化した形状なので、利用時に余計な付属品を持ち歩く必要がありません。電源を入れるだけで撮影がはじまる、シンプルな操作性も好評です」と高橋氏は語る。また最大16人までのグループ通話機能も搭載しているため、複数の場所にいる発注者を交えた遠隔臨場もスムーズに行える。

もちろん、遠隔臨場以外の場面でもSafie Pocket2は活躍している。一例が、若手社員の育成だ。若手が現場に出る際にカメラを装着し、その映像を現場事務所や本社・本支店などの遠隔地にいる所長や熟練社員と共有する。これにより、アドバイスや指示をリアルタイムに受けながら作業を進められるのだ。「従来は任せられるまで時間を要していた業務・作業に対しての早期化が期待できるようにもなってきており、人材不足の解消に一役買ってくれています」と高橋氏は説明する。

さらにSafie Pocket2では、撮影した映像が自動でクラウド上に保管される。これを必要に応じてアーカイブ化すれば、長期にわたって活用することも可能だ。

「現在はまだ映像を蓄積している段階ですが、ゆくゆくは技術の承継に役立てたいと考えています」と高橋氏。

例えば、線路上空での大型橋梁の架設やトンネルの貫通など、施工頻度が少ない特殊な施工やその場にいないと経験できない工事について、作業の様子をSafie Pocket2で撮影すれば映像データ化できる。

定点カメラの映像と異なり、職員や作業員が現場で何に気を配っているかや、熟練した職人との会話の内容なども記録できるため、情報密度の高い“教材”になるだろう。めったに行われない工事/作業は、後進が経験できるチャンスも限られる。それゆえどうしても属人化しがちだったが、映像で共有できれば業務標準化が容易になるはずだ。

「土木デジタルコンシェルジュ」が
現場へのクラウドカメラ普及を後押し

なぜ大林組は、このようなスムーズな現場へのSafie Pocket2導入を実現できているのか。高橋氏が要因として挙げたのが「土木デジタルコンシェルジュ」の存在だ。

「i-Conセンターがどんなに良いと感じたツールも、ただ現場に提案するだけでは継続的かつ効果的に使ってもらうことができません。そこで我々は、現場担当者一人ひとりに訴求することが重要だと考え、コンシェルジュ人材を各現場に派遣し支援することにしました」

i-Conセンターに所属するコンシェルジュ人材が、数週間ほど現場に常駐して業務内容を把握。その上で、現場ごとの課題に即したデジタルツールを活用方法と併せて提案することで、普及を後押ししている。

「彼/彼女らの頑張りのかいもあり、現在までのところ、順調に効果につなげることができています」と高橋氏は満足感を示す。

今後も同社i-Conセンターでは、土木デジタルコンシェルジュを起点とした現場業務のデジタル化を推進していく。そうした中、1つの構想として描いているのが、Safie Pocket2の映像を基に、現場職員がそれぞれの強みを生かして複数の現場を横断的に管理できるようにすることだ。

「現場監督は現場にいるのがこれまでの常識でした。ただ、それでは1人が1つの現場しか見られません。クラウドカメラを活用することで、少ない人数で多くの現場を監督できるようにするとともに、従来は難しかった現場監督のテレワーク化も進めたいと考えています」(高橋氏)。

現場監督への教育も行い、画面越しに現場を見るコツなどを共有化していくという。

さらに、より将来的には、複数の現場がそれぞれ行っている同じ業務をi-Conセンターが集約し、シェアードサービス化することも視野に入れている。業務自体の標準化を進めるとともに、デジタルツールを活用することでi-Conセンター側の負担も抑える想定だ。

小さな取り組みを積み上げ
草の根から“現場DX”を推進

「デジタルトランスフォーメーション(DX)は、必ずしも大規模なシステムが必要になるものばかりではないと当社は考えています。当社のように、現場の小さな業務改革を、草の根的に積み重ねることも、DXの1つの在り方なのではないでしょうか。これにより、現場の土木の専門家が本来なすべき業務に専念できる態勢を整えていきたいと考えています。今後はより具体的な効果の測定などを、セーフィーと共に進めていく予定です」と高橋氏は語る。

迫りくる2024年問題。i-Conセンターを中心に、着実に成果につなげている大林組の取り組みは、同業他社にとって大いに参考になるものといえるだろう。セーフィーが、その活動の一端を支えている。

※こちらの記事は「日経コンストラクション 2022年8月号」に掲載されたインタビュー記事を転載したものです。

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