【お寺DX】元エンジニア僧侶に聞く!デジタルを活用した「敷居を下げる」コミュニケーションとは

特集

庭を掃くようにITの管理を。ITは伝説の剣ではない。さぁ冒険に出よう。

これらのテキストは、長野県善立寺の副住職、小路竜嗣(こうじりゅうじ)氏が提供している「DX4TEMPLES」というサイトから引用したものだ。寺院運営をされている人に寄り添い、デジタル活用を必要とする人に必要な分だけ届けようというやわらかい意志が伝わってくる。

小路氏は、元機械系エンジニアから結婚を機に僧侶へ、という異色の経歴を持ち、いまでは寺院デジタル化エバンジェリストとして精力的に活動している。Webメディアで氏の記事を見たことがある人も少なくないのではないだろうか。

自身も副住職として日常的に寺院運営をされているからこそ、「どこにでもある普通のお寺」が踏み出すべきデジタル活用や、活用のその先にある景色の話にこころが動く。

この記事では、DXということばが魔法のようにひとり歩きしている現代で、DXと向き合わなくてはならない人に向けた壁の乗り越え方のヒントを聞くことができた。

“あること”がきっかけで急速に進んだ「お寺DX」

浄土宗善立寺 副住職
小路竜嗣 氏

—寺院運営にデジタル活用が浸透している体感はありますか?

いろんなところと同じですけど、やっぱりなかなか進まないですね。

2016年ぐらいからお寺でITやりましょうと活動を始めていて。2019年にサーバー会社に協力してもらって、「ITのきっかけとしてまずはお寺のホームページを制作しましょう」というイベントをやったんですけど、200人ぐらい入るイベントホールに6人しか来なくって。大滑りしてしまって(笑)。

もう活動やめようかなと思ってたんですけど、コロナ禍に入った2020年の秋ぐらいに、もう一回お声がけしてもらったんですよね。そのときはオンラインイベントで、160名の方が参加してくださって。コロナ禍が大きなきっかけになってやっと動き出したのかな、っていうところですかね。

—コロナ禍がきっかけで寺院のデジタル活用が進んだということですか? ぱっと繋がりがわからないのですが‥

実は、お坊さん同士って集まって会議をすることが多いんですよね。たとえば、「次のボランティアはどこに行きましょうか」とか、「お檀家さんとの旅行の計画どうしましょう」といった具合です。申請のために書類書いたりとか、そういったことを全てオフラインでやっていました。

でも、もうぜんぜん会えないわけですよね、コロナ禍で。急速にZoom使わなきゃいけない、書類も紙じゃなくてPDFで送らないといけない。布教のための法話も、お檀家さんを本堂に呼んでできなくなったからオンライン配信しなきゃいけないとか。最近は下火ですけど、法要もオンライン配信が主体になったりとか、そういったところで急にデジタルに向き合わなきゃいけなくなったんですよね。10年かかるところが1年ぐらいで来ちゃったような感じだと思います。

DXは自転車と同じ。慣れたら便利という感覚

—なるほど、繋がりました。お寺DXの活動が時代の後押しを受けた感じですね

そうですね。とはいえ、一筋縄ではいかないことも多いです。いま70代、80代の方が元気でやってらっしゃるので、年齢層も高いですし、20代〜40代の方は変化したいという意識もあるけど、師匠がうんと言ってくれない場合もあります。

相談をいただくのも、お寺に直接入ってコンサルしてほしいというよりも、もっと単純なところで、ITリテラシーの勉強をみんなでしましょうみたいなところが多いです。

—そんなところから

そうですね。デジタル活用を浸透させたかったら、使ってみたらこっちのほうが簡単じゃん、楽じゃんって思ってもらうことのほうが大事だと思うんですよね。

わかりやすい例でいくと、オンラインでファイルを共有したりとかですね。私がDropboxを使って他のお坊さんにファイル共有をしてたら、「小路くん、この前のあれみんなで使えるように設定の仕方教えてくれる?」ってなったことがあって。

本当に最初のきっかけなんて、それぐらいでいいと思うんです。自転車と一緒で、最初はこけたりしながらゆっくり進んでいくけど、慣れるじゃないですか。そうなると、あると便利だな、これがないと困るよなってなっていく。

デジタル活用をコミュニケーションの武器にする

—できることを知っていると、あれもこれもオススメしたくなっちゃいます‥

そうなんですよね。ITサービスを導入した場合のメリット100個あったら、100個ぜんぶ紹介したくなるじゃないですか。あれもそれもこれもできますよって。

でも、活動していて思ったのは、最初のキーとなるような一個だけ試してもらって、使ってくうちに「実はこれもできるんだ」って思ってもらえるぐらいのほうがいいのかなということ。

ITやDXという言葉を聞くと、それを導入すれば全てがうまくいく、魔法の杖みたいなものをイメージするし、業者さんはDXしましょうとおっしゃるんですけど‥。実は必要以上のものを導入してしまう。

たとえば、私のところのように住職がいて私がいてという2人で運営しているような、普通にぽつぽつあるお寺だと、月額1万円で利用するようなITサービスを使いこなせる事業規模ではなかったりします。そういったサービスの顧客は、もうちょっと多くの職員を抱えてて、観光客がいっぱい来て、参拝者が多くて、というお寺なので。

—ひとくちに寺院といってもその規模は一律ではないですもんね

はい。今の話の要点は、相談に来られた方が実際は何をしたいのかというところですよね。何が求められてるのかを理解した上で必要なものだけを届けるっていうことが重要かなと思っていて。

たとえば、あるお坊さんから「自分のお寺の門戸を広げたい。お寺の敷居を低くしたい」という希望があったとして、「それなら、いまあなたのお寺をネットで調べたときに、駐車場の位置が参拝者にわかりますか?」っていうことなんです。運営されているお坊さんの顔も名前もわからないとか、連絡先も電話番号しか載せていないとか。それっていうのは門戸を広げていないですよね。

この場合に必要なのは、コミュニケーションのためのいろんな方法を持つということです。LINEでもメールでも、TwitterでもInstagramでも。そういったところで、接触するコミュニケーションのチャンネルを増やしていくっていうのが、Web上で門戸を開く、敷居を下げることにつながる。そのためにデジタルを活用するんですね。

お寺DXを乗り越えた先にある「敷居の低さ」

浄土宗善立寺の外観
浄土宗善立寺の外観

—デジタル活用がコミュニケーションのきっかけを増やしているという?

うちのお檀家さんに聴覚障害の方がいらっしゃるのですが、LINEを導入したら喜んでくれて。

そういった意味でも敷居の低さっていうのは、ダイバーシティとかにもつながるのかなって思います。DXを取り入れた先に敷居の低い世界があって、それがよりコミュニケーションを取りやすい環境を作ってくれるんですね。

あとは、こちら側のコミュニケーションの負担を減らすメリットもあります。Web上で非同期型コミュニケーションを増やしていくことは、電話が減ることにつながるし、電話が減れば必要な電話にしっかりと対応ができるようになる。

うちの住職も最初はメールとかLINEに否定的だったんですけど、ご法事の予約などがあると楽なんですよね。そういったところがうちの住職にも便利だと感じてもらえるようになりましたね。

—「お寺離れ」なんてニュースも聞きますが、お寺DXはその解消にも繋がると思いますか?

「お寺離れ」ですが、離れるっていうのはもともと近くにいたものが遠くなるってことじゃないですか。でも、私はお寺の生まれではないですし、大人になってからお坊さんになったわけで。離れたとされている最近の方達は、別にお寺に幻滅したから離れたわけじゃないですよね。そもそも距離があった、っていうことだと思います。

このそもそもある距離を近づけるアプローチの仕方っていうのは、先ほどあげたコミュニケーションのチャンネルを増やすとか、色々あると思っています。

自分が修行中に、ある先生から「お檀家さんが自分の家の周りの地図を書いたときに、お寺がどこにくるか考えて活動した方がいいよ」とおっしゃっていただいたことがあって。

お寺の中にいると、お寺が地図の中心にあって、その周りにお檀家さんたちがいるって考えてしまいそうになるけど、逆の立場だったらお寺を中心には書かないですよね。この意識を保って、これからも活動していきたいですね。


(プロフィール)

浄土宗善立寺 副住職
小路竜嗣 氏

浄土宗僧侶。1986年兵庫県伊丹市生まれ、信州大学大学院工学科機械システム工学専攻を卒業後、株式会社リコーに勤務。結婚を機に2011年退職・出家。

現在はこれまでの経歴を活かし、寺院デジタル化エバンジェリストとして、寺院のIT/デジタル化を推進する活動「テラテク」を行う。寺院におけるSNS活用、ホームページ制作、ITツール導入、紙のデジタル化など、今日からできる実務周りの話が得意。

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