ウェアラブルカメラで遠隔臨場を実現
建設現場のDX化を推進し「2024年問題」解消を目指す

これまで長きに渡って建設業界をけん引してきた「大林組」。2024年問題に向けた働き方改革の一環として現場のDX化を推し進めるなか、ウェアラブルクラウドカメラ「Safie Pocket2」を導入。「遠隔臨場」にも積極的にご活用いただいています。

(取材:2022年7月)

導入の決め手

  • 複数機種のカメラ映像を同じアプリケーションで視聴・編集できる
  • ビジネスユースの要件を満たす高いセキュリティレベル
  • ユーザーの意見を製品の改善やアップデートに取り入れる開発姿勢

導入目的

  • 建設現場のDX支援
  • 遠隔臨場における業務効率化
  • 建設現場の生産性向上

導入した結果

  • 発注者がスムーズに遠隔臨場を行えるようになった
  • 若手人材の育成に利用できるようになった
  • 技術継承に利用できるようになった

スーパーゼネコンの1社として、建設業の新たな時代を切り拓いてきた大林組。同社がいま直面しているのが、これまで猶予期間だった労働時間の上限規制などの適用が始まる「2024年問題」です。働き方改革が求められている今、大林組では現場におけるデジタルツールの活用を積極的に促進。2019年4月にはデジタル技術を現場に推進するための組織「i-Conセンター」を新設し、現場のデジタル化を急ピッチで進めています。

その一環として、セーフィーのウェアラブルクラウドカメラ「Safie Pocket2(セーフィー ポケット ツー)」を導入していただいた同社。今回は土木本部 本部長室 i-Conセンターの高橋さんに、カメラ導入の意図や現場での効果について、お話を伺いました。

「土木デジタルコンシェルジュ」が現場のICTツール活用をサポート

──まず「i-Conセンター」の役割について教えてください。

高橋さん: i-Conセンターの役割は、現場のデジタル化を推進することで業務の効率性・生産性をアップし、働き方改革を加速させることにあります。建設業の現状として2024年問題は非常に深刻な問題です。残された1年半の猶予のなかで現場の業務効率化・生産性向上を図るためには現場のデジタル化は急務で、現場単位でなく個々人単位で浸透させていく必要があると考えています。

──具体的にはどんな取り組みをされているのでしょうか?

高橋さん: 現在i-Conセンターでは22名の「土木デジタルコンシェルジュ」を配置し、現場におけるデジタルツールの活用を支援しています。「Safie Pocket2」のようなICTツールは、使って欲しいと渡すだけでは使ってもらえないですから、まずは2週間から1カ月ほどコンシェルジュを現場に常駐させ、所長から若手まで全員にツールの使い方を伝え、使ったことによる効果が実感できるところまでを支援する取り組みを行っています。

その甲斐あって、最近はようやく現場全体にデジタル化の重要さが伝わり、働き方を変える方向性が少しずつ見えてきたように感じているところです。

──「土木デジタルコンシェルジュ」の導入はいつから?

高橋さん: 2020年の下期に2・3名でスタートし、テスト運用した後2021年の4月から本格的に稼働し始めました。新規採用したコンシェルジュのメンバーは建築や土木を学んできたわけではないのですが、20歳~24歳くらいのデジタル環境に慣れている世代が中心なので、すぐに馴染んでくれました。

コンシェルジュのメンバーの居住地は東北から九州まで幅広く、現場に行く以外は100%テレワークをしてもらっています。これは建設業として新たな取り組みなのですが、現場にデジタルな働き方の見本を見せるという意味合いもあります。

カメラのデータを土木技術の伝承や人材育成に活用

──「土木デジタルコンシェルジュ」の導入で現場にどのような変化がありましたか?

高橋さん: 現場の職員にはiPadとiPhoneを支給しているのですが、みんな引き出しにしまっている状況だったんです。しかし、コンシェルジュがそばにいることで、このようなデジタル機器にも興味を持ってもらえるようになりました。小さな一歩ではありますが、ここから現場のデジタル基盤ができていき、Safieカメラなど他のICTツールの活用も進み始めています。

──Safieカメラの導入台数を教えてください。

高橋さん: 現在は、設置型の「Safie GO(セーフィーゴー)」と「Safie Pocket2」を合わせて350台ほど導入させていただいています。建築現場では「Safie GO」の利用が多いのですが、土木ではSafie Pocket2が圧倒的に多く、約80台が稼働しています。200近くある土木の現場のうち1/3以上、遠隔臨場を実施しているところではほとんどで導入されている状況です。

大林組では約80台のSafie Pocket2を土木現場に導入

──カメラの導入台数が増えた理由はどこにあるのでしょうか?

高橋さん: 実は最初はコストの問題などであまり導入が伸びなかったのですが、コンシェルジュの増員と比例して良さが伝わり、増えていきました。現場ごとにカメラを使う場所もニーズも違うので、「こう使ってください」と押し付けるのではなく、カメラでできることを伝えて「やってみない?」という問いかけをしたことが成功しているように思います。

土木建築の現場には、アイディアマンが多いんです。できることだけ伝えれば現場ごとにうまい使い方を考えてくれるので、非常にありがたいですね。

──なるほど!と思われた使い方はありますか?

高橋さん:とある現場で、若手職員に「Safie Pocket2」を常に持たせて、所長がそれを監督するという使い方をしていたんです。私自身、カメラは必要な時に持ち出して使うものという認識があったので、とても新鮮でした。

あと、作業の前に朝礼をするのですが、数名だけ持ち場が違って来られないときに、朝礼当番と来られない人が双方カメラをつけて朝礼状況を共有するという使い方をしていて、これにも感心しました。

──発注者ではなく、現場監督者が遠隔からビューアーを通して現場を見ることもあるのでしょうか?

高橋さん: 遠隔臨場の言葉の定義は発注者による現場の立会行為ですが、現場監督が遠隔管理をすることもあります。いままでは現場監督は現場にいるのが当たり前でテレワークが難しかったのですが、そこは変わらないといけないですよね。行かなくてもカメラで見る力を養うことも必要だと思っています。

レアな現場を映像に残し技術伝承や人材育成に活用したい

大林組内でも頻度の少ない貴重な現場の作業工程を映像保存

──クラウドに保存されたSafie Pocket2のデータは活用されてますか?

高橋さん: 土木の現場では数年に1度しか行われないような工事があるのですが、この作業工程を録画してデータを残しておき、作業工程のマニュアルとして活用することを考えています。

また、スキルのある人の工事作業を映像で残しておくことができれば、それを見てこれからの人材が学ぶことができます。今は映像をライブで見ることがメインですが、今後は人材育成に活かしていくことも考えていきたいですね。

建設業界全体では、29歳以下の人材が1割を切っているという現状があります。今後はデジタルのツールやマニュアルを使ってもっとフレキシブルに人材配置をしていかないと、2024年問題に向けた担い手不足は解消できません。専門的な業務の伝承をしっかり務めることも、我々ゼネコンの責任だと思っています。

ほぼ100%遠隔臨場できた現場も。DX化で現場が土木作業に専念できる環境づくりを

Safie Pocket2の映像を通して発注者と遠隔臨場を実施

──Safie Pocket2の導入に関する定量的な効果があれば教えてください。

高橋さん: 定量的なデータというと難しいのですが、遠隔臨場を例にすると、とある現場は昨年度の遠隔臨場実施率で実質100%を達成できたんです。発注者さんが現場に足を運ぶと車で1時間、往復2時間かかるので、この時間分のコストは削減できたことになります。こういう成功例があると、他の現場でも遠隔臨場の導入がしやすくなります。

──Safie Pocket2のどんな機能が便利ですか?

高橋さん: 立会には複数の人間が参加していますので、グループ通話ができるのは嬉しいですね。技術サポート担当者など複数の関係者が遠隔から通話に参加し、必要に応じてアドバイスできるのは非常に便利だと思います。

──現状の現場におけるデジタル浸透度はどのくらいだとお考えですか?

高橋さん: ゴールをレベル5としたら、まだレベル0.3くらいです。それでも2年前は0.1にもなっていなかったことを考えると、2024年にはレベル1に行けるかもしれないですよね。Safie Pocket2も現在は200ある現場に対して導入数はまだ80台ほどです。

「遠隔臨場を実施していないから」という理由で「Safie Pocket2」を導入していない現場も多いのですが、アイディアを広げていろいろな使い道を考えて、導入現場を増やしていきたいですね。

──最後に、今後の展望を教えてください。

高橋さん: これまでは「自分の仕事は自分でやってこそ技術者」という観念があったのですが、それをやっていては2024年問題に立ち向かうことはできません。

そのため、現場には「1日の仕事を見直してみましょう、土木の専門家であるあなたがやらないといけない仕事ですか?」と訴えかけているんです。そうして振り返ってもらうと、1日のうち3割はデジタル仕事だったりするんですね。ですから、これをデジタルコンシェルジュに丸投げしてもらえるような仕組みを作りたいと思っています。

もし3割仕事が減れば、そこにかかっていた時間を土木の仕事に専念することができ、作業の質も量も上がると思うんです。デジタルコンシェルジュのメンバーが思った以上に活躍してくれているので、このような仕組みができれば、近い将来の働き方改革につながるのではと思っています。

※本記事に掲載している企業情報、所属及びインタビュー内容は、2022年11月公開当時のものです。

お話を伺った方

株式会社大林組
土木本部 本部長室
i-Conセンター 現場支援第一課 課長
DX本部 生産デジタル部(兼務)
高橋 寛さん