近年は、テレビやスマホ同様、ネットワークカメラも高画質化が進んでいます。この変化に合わせてデータ圧縮方式も進化し、圧縮効率が徐々に上がっています。これからネットワークカメラを導入する場合などに、どんな圧縮方式のカメラを選ぶのがよいのかを知っておきたい人もいるのではないでしょうか。
この記事では、最初にネットワークカメラで動画の圧縮が必要な理由を解説し、ネットワークカメラのデータ量を決定する要因や画質別のデータ量をお伝えします。そのうえで、ネットワークカメラの主な圧縮方式を変遷の順を追ってご紹介し、ネットワークカメラメーカー独自の圧縮技術についても、具体例とともにお伝えします。
目次
ネットワークカメラで動画の圧縮が必要な理由
ネットワークカメラは、インターネットを介してオンラインサーバーに録画データを保存するタイプの防犯カメラです。オンラインサーバー上のデータ保管スペースはクラウドなどと呼ばれるため、クラウドカメラともいいます。録画データは即座にサーバーにアップロードされるため、スマートフォンやパソコンなど手元の端末から、カメラ映像をリアルタイムで確認できるのが特徴です。
テレビやスマートフォンが年々高画質になっているのと同様に、ネットワークカメラの映像も高画質化が進んでいます。画質が良くなるということは映像のデータ量が大きくなることでもあるため、防犯カメラの映像データは、高画質化にともなってどんどん重たくなっていると言えます。
ネットワークカメラの通信方式は、有線LANやWiFiの場合もありますが、LTEや4Gのようなモバイルキャリア回線を利用するものも少なくありません。このようなモバイルキャリア回線は帯域が限られているため、大容量のデータ転送には不向きです。LTE回線や4G回線をとおして重たい動画をクラウドにアップロードしようとすると、ネットワークに負荷がかかって通信速度が遅くなることがあります。
また、データが重たいと、カメラ映像を閲覧する側にとっても負担がかかります。特に、ネットワークカメラの場合は複数のカメラ映像を1つの画面で一度に確認する場合もあるため、閲覧するデバイス上でも他のアプリケーションのパフォーマンスなどに影響が出る可能性があります。
もちろん、ストレージの容量の消費も激しくなるため、容量が決まっている場合には、保存できる録画期間が減ってしまいます。
このように、クラウドカメラで撮影した映像は、そのままではデータ量が大きすぎてネットワークや閲覧側の機器に負担をかけ、さらにストレージも圧迫してしまうため、圧縮が必要なのです。データを圧縮することで、リアルタイムで視聴する際の映像の遅延を避ける、ネットワークへの負荷を減らす、ストレージの消費を節約する、といった様々な効果が得られます。
ネットワークカメラのデータ量はどのくらい?
それでは、ネットワークカメラの録画データは実際にどのくらいの大きさなのでしょうか。
まず、データ量は、解像度、フレームレート、圧縮率という3つの要素で決まることを把握しておく必要があります。ここでは、これらの要素を解説しつつ、「ビットレート」ないし「画像伝送レート」という言葉との関係についても、あわせて確認していきましょう。
まず、解像度とは画像サイズとも呼ばれ、画質を表す指標としてよく使われる「画素数」を別の形で示したものです。解像度はカメラから出力される画像がいくつの点で構成されているのかを示すもので、横のピクセル数×縦のピクセル数の形式で表現されます。この縦と横の数値を掛け算した時に出てくる数値が画素数にあたります。
近年の防犯カメラやテレビで用いられる4種類の画質について、解像度と画素数を一覧にまとめると、次のとおりになります。
呼称 | 解像度 | 画素数 |
4K(4K High Definition) | 3,840×2,160 | 約829万画素 |
フルHD(Full High Definition) | 1,920×1,080 | 約207万画素 |
HD(High Definition) | 1,280×720 | 約92万画素 |
SD(Standard Definition) | 720×480 | 約30万画素 |
このように画質を表す解像度や画素数と比べると、フレームレートはあまり耳慣れない言葉かもしれません。フレームレートとは、1秒間の動画が何枚の静止画からできているのかを示す数値です。動画は静止画の集まりなので、フレームレートの数値が大きいほど、より滑らかな映像になります。パラパラ漫画では、使う絵の枚数が多いほど動きが滑らかに見えますが、フレームレートはこれと同じイメージです。
データ圧縮を行わない場合の映像のデータ量は、画素数とフレームレートの2つを掛け合わせることで求められます。この数字を、「ビットレート」あるいは「画像伝送レート」などと呼びます。ビットレートとは、カメラが1秒間に出力するデータ量のことで、防犯カメラの映像データを単位時間あたりにどれだけ伝送できるかを示しています。データ量の単位には、bitが使われます。
なお、防犯カメラの1画素は、光の三原色である赤・緑・青を表すRGBをそれぞれ8bit(256段階)で表したものです。つまり、1画素のデータ量は8bit×3色で24bit。上の表の解像度にこれを掛ければ、画像1枚あたりのデータ量が計算できます。その数字にさらにフレームレートを掛ければ、1秒間の動画のデータ量を計算できます。
仮にフレームレートが30fpsの場合、上で示した4種類の画質で録画された1秒間の動画のデータ量は次のとおりになります。
呼称 | 画像1枚あたりデータ量 | 動画1秒あたりデータ量(30fpsの場合) |
4K | 約199.0Mbit | 約6.0Gbit/秒 |
フルHD | 約49.8Mbit | 約1.5Gbit/秒 |
HD | 約22.1Mbit | 約663 Mbit/秒 |
SD | 約8.3Mbit | 約249Mbit/秒 |
一般的に広く使われているGigabitEtherのLANケーブルの伝送能力は、1Gbit/秒です。上の表と見比べると、フルHDでフレームレート30fpsの動画だと、すでにLANの伝送能力を超えていることがわかります。モバイル回線ならなおさら伝送能力が限られるので、現実問題として、高画質な防犯カメラ映像を圧縮せずそのまま伝送することはできないのです。
ネットワークカメラの主な圧縮方式
映像データをスムーズに伝送できるサイズまで小さくするための手段が、動画圧縮です。
動画の圧縮方式には「非可逆圧縮方式」と「可逆圧縮方式」がありますが、ネットワークカメラで用いられるのは非可逆圧縮方式です。「非可逆圧縮方式」は、データの一部を破棄することで動画を軽くする手法であり、破棄した部分は元に戻せません。もう一方の「可逆圧縮方式」は、データを部分的に破棄することなく情報を効率的に圧縮する手法で、元の映像や音声を復元できる反面、圧縮率は大きくありません。動画配信サービスなどで採用される圧縮方式です。
防犯カメラで用いられる圧縮方式は、時代とともに改良されてきました。
Motion JPEG
1990年代中盤頃から使用されたのが、「Motion JPEG」(M-JPEG、MJPEG)と呼ばれる圧縮方式です。映像を1コマずつの静止画としてJPEGデータで記録し、パラパラ漫画の要領で連続表示することで動画にするものです。すべてのコマが静止画で構成されるため、画質が劣化しないというメリットがある反面、圧縮率は低く、データ量はさほど小さくなりません。コンピューターの性能向上に伴って動画再生能力が上がったことで、より圧縮率の高いMPEG方式に取って代わられました。
MPEG
MPEGとは、Moving Picture Experts Group(MPEG)によって作られた動画圧縮形式です。MPEG-1に始まり、その後MPEG-2、MPEG-4、H.264、H.265が誕生。より圧縮率が高くノイズの発生も少ない圧縮方式へと段階的に発展してきました。
M-JPEGが全てのコマについて1枚の画像データを送る方式であったのに対し、MPEGは直前に送った画像から変化があった部分のみ、つまり差分のデータのみを送る方式です。変化のない部分についてはデータを送信しないため、MPEG の方がM-JPEGよりもデータ量を小さくすることができます。
H.264
2003年にITU (国際電気通信連合)に承認された規格であるH.264は、M-JPEGと比較すると80%以上、MPEG-4と比較した場合でも50%以上も動画のサイズを縮小できます。このように高い圧縮効率を実現しながらも画質が劣化しないのが利点で、ビデオ通話やハイビジョン放送などに幅広く利用されています。
H.265
H.264にさらに改良を加えたH.265は、2013年にITUに承認された最新の圧縮方式で、H.264の2倍の圧縮率を実現しています。H.264は、画面全体を細かくブロック化して変化した部分のデータのみを送る方式ですが、大きな変化のあったブロックも変化の少ないブロックも、すべて同じサイズのブロックに細かく分割します。これに対しH.265では、大きな変化のあった部分は細かいブロックに分割するかたわら、変化の少ない部分は大きいブロックにまとめる方式を採っています。このような圧縮率の適正化により、データ量の大幅な削減を可能にしました。
H.265はまだ普及が進んでいないのが実態ですが、画質が同じなら、現在主流のH.264の2倍の期間の映像を同量のストレージに保存できるため、高画質での録画には大変便利です。
ネットワークカメラメーカー独自の圧縮技術も
このような統一的な動画圧縮方式のほかに、ネットワークカメラのメーカーが独自の圧縮技術を開発している例もあります。
たとえば、キヤノンの子会社であるスウェーデンのAXIS社が開発している「Zipstream」という圧縮方式は、解像度やフレームレートを変更することなくビットレートをおさえるものです。リアルタイムで映像解析を行い、重要な場面や箇所は圧縮せずに重要度の低いところで圧縮率を高める手法で、データ量の削減を実現しているといいます。
同様に、台湾のVIVOTEK社は「SmartStream」という圧縮方式を開発。AXIS社の「Zipstream」と同様に、重要度の低い部分を圧縮することでデータ量を減らす手法です。H.265と組み合わせた場合、H.264に比べて最大80%のデータ量削減を実現できるとされています。
このようなカメラメーカーによる技術開発によって、防犯カメラ映像のデータ量のさらなる圧縮が可能になっているのです。
終わりに
画質の向上によって防犯カメラの録画データのサイズが大きくなっていくなか、ネットワークや閲覧側デバイスへの負荷を減らしストレージを節約するためにも、動画圧縮は欠かせない技術と言えます。
この記事で紹介したとおり、コンピューター性能の向上や高画質な動画の普及に伴って、動画の圧縮方式も進化を続けてきました。現在主流のH.264やその改良版であるH.265のほかに、ネットワークカメラのメーカーが独自に開発している圧縮方式もあり、今後も動画圧縮の効率は上がっていくことが期待できます。
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