ホテル業界では、人手不足やアナログ業務の多さから、従業員の負担が大きくなっており、業務効率化が求められています。ホテルの業務効率化を進めるためには、まず現状における業務の課題を明らかにすることが大切です。
本記事では、ホテル経営者や運営責任者の方々に向けて、業務効率化の具体的な手法と導入メリットを解説します。
目次
ホテルの業務効率化が求められる理由
ホテル業界は、業界調査や専門家の指摘によると、業務効率化の必要性が特に高い分野の一つです。ホテル業界に業務効率化が求められている理由は、主に次の3つです。
- 人手が不足している
- 非効率的な業務が多い
- サービス品質向上の必要性
詳しく解説します。
人手が不足している
ホテルの業務効率化が求められるのは、人手が不足しているためです。近年は労働人口の減少により人手不足が深刻化しており、ホテル・旅館の宿泊業も例外ではありません。
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査（2025年1月）（※1）」によれば、「旅館・ホテル」業界で正社員の人手不足を感じている企業の割合は60.2%、非正社員では50.0%、と半数以上の企業が人手不足の課題を抱えていることがわかります。
特にホテルは24時間稼働のシフト体制で働くケースも多く、不規則な勤務と人手不足による従業員の負担増なども離職につながりやすい状況です。厚生労働省の「令和５年雇用動向調査結果の概況（※2）」によると、「宿泊業，飲食サービス業」の離職率は26.6%と、産業全体の平均15.4%と比較しても高い水準にあります。
ホテルでは顧客へのきめ細やかなサービスが大切であり、そのためには限られた人手で効率的に業務をこなさなければなりません。
従来型の業務プロセスと効率化の視点
ホテル運営において、業務効率化が求められている背景には、従来の業務プロセスに非効率な部分が多く残されているという現状があります。現場では、紙の宿泊台帳による予約管理、個別の鍵・カードキーによる客室管理、口頭での情報伝達など、システム化されていないアナログな方法がいまだに用いられているケースも少なくありません。
これらの手法は、時に作業工数が多くなったり、人的ミスが発生したりする可能性があります。また、情報共有に時間がかかったり、記録の検索・活用がしにくかったりといった側面も考えられます。
こうした業務に多くの時間が割かれると、従業員の負担が増すだけでなく、顧客へのきめ細やかな対応に十分な時間を充てることが難しくなる場合もあります。そのため、これらの業務プロセスを見直し、効率化を図ることが、従業員の働きやすさやサービス品質の向上につながる可能性があります。
顧客体験価値の向上を目指して
ホテル運営において、顧客体験価値を高めることは最も重要な目標の一つです。多くの現場では、スタッフ一人ひとりが、お客様に快適で記憶に残る滞在を提供できるよう、日々心を配り、質の高いサービス提供に努めています。
一方で、予約管理、情報共有、各種手配といった、お客様と直接関わらない業務に多くの時間が費やされる場合、スタッフが本来注力したいと考えている、より細やかなおもてなしや、お客様一人ひとりの状況に合わせた柔軟な対応に十分な時間を割くことが難しくなる可能性があります。
業務プロセスを見直し効率化を図ることで、こうした時間を創出し、スタッフがよりお客様に向き合い、ホスピタリティを発揮できる環境を整えることができます。これは、さらなるサービス品質の向上につながります。
特に現代では、心に残る素晴らしいサービス体験がSNSやレビューサイトを通じて好意的に共有され、ホテルの評判やブランドイメージを高める大きな力となります。質の高いサービスは、お客様の再訪を促し、新たな顧客獲得にも貢献します。
このように業務効率化は、単に作業負担を軽減するだけでなく、スタッフが持つホスピタリティを最大限に活かし、より高いレベルの顧客満足と、ひいてはホテルの競争力強化を実現するための重要な取り組みと言えるでしょう。
ホテルの業務を効率化するメリット
ホテルの業務効率化により、人手不足解消やヒューマンエラーの削減など、さまざまなメリットがあります。
ここでは、業務効率化のメリットについて、人手不足の解消、ヒューマンエラー削減、コスト削減、顧客満足度向上の4つの観点で詳しく解説します。
人手不足を解消する
ホテルの業務効率化により、人手不足が解消できるというメリットがあります。システムを導入し、これまで手作業で行っていた業務を自動化すれば、作業工数の大幅な削減が可能です。その結果、従業員の負担を軽減し、少ない人員でも余裕をもって業務ができるようになります。
従業員がゆとりのある働き方ができればワークライフバランスも整い、離職率の低下につながることも利点です。
ヒューマンエラーを減らす
システムを導入し、これまで人が行ってきた作業を自動化すれば、業務効率化とともにヒューマンエラーを削減できます。
手作業が多い現場は、確認不足や判断ミス、伝達ミスなどが起こりがちです。特に人手不足の状態で多くの業務を処理している場合、従業員は作業に忙殺され、確認を徹底する余裕がなくなり、疲労による判断力の低下からヒューマンエラーが起こりやすくなります。
システムの導入で業務を自動化し、人が行う作業を減らせば、このようなヒューマンエラーを減らせることがメリットです。
業務効率化で働き方に余裕ができれば、確認不足や判断ミスなども起こりにくくなります。ヒューマンエラーの減少により、それに起因するトラブルやクレーム対応に時間が奪われることを減らせる点も利点です。
コストを削減する
業務効率化によって、これまで時間のかかっていた作業を短縮できます。特に人手不足が課題となっている状況下では、従業員一人あたりの業務負担が増え、結果として長時間労働につながりやすいため、効率化によって総労働時間を抑制し、残業時間の削減や人件費の適正化を図れることがメリットです。ミスによる作業のやり直しやトラブル発生への対応も減らせるため、それらにかかるコストの削減も期待できます。
顧客満足度が高まる
業務の効率化により従業員にはゆとりができ、空いた時間は顧客対応にあてることができます。よりきめ細やかなサービスを提供でき、顧客満足度が高まることがメリットです。
予約システムやオンライン決済など利便性を高めるシステムの導入も、顧客満足度を高めます。
顧客満足度の向上はリピート率アップにつながり、競争力を高めて他のホテルとの差別化ができる点もメリットです。
ホテルの業務を効率化する方法
ホテルの業務効率化は、次の手順で行います。
- 課題を洗い出す
- 課題解決の優先順位をつける
- 施策を検討する
- 効果検証を行う
ここでは、業務効率化の方法を解説します。
課題を洗い出す
まず、ホテルが抱えている課題や業務内容を洗い出し、業務フローを可視化します。その際、明確にするのは次の内容です。
- どの業務を誰が担当しているか
- 業務に対してどれくらいの人員が必要か
- 業務ごとの所要時間や工数はどれくらいか
業務を細かく分析し、非効率な部分や無駄な作業、重複している業務を見つけます。人的ミスが多い業務も明確にしてください。
現場で働く従業員への聞き取りも大切です。業務遂行のために欠かせない作業か、何のために行っているかなど、作業を行う理由や背景について聞き取ることで、本当に必要な業務かどうかが判断できます。無駄な作業を明確にするには、日常的に習慣で行っている小さな作業まで洗い出すことが大切です。
なお、業務効率化によりこれまでの業務手順を変えたりシステムを導入したりすることは、一時的だとしても従業員に負担をかけることになります。効率化に対する意見にも耳を傾け、希望を汲み取りながら、できるだけ負担がかからない方向で業務効率化に取り組むようにしてください。
課題解決の優先順位をつける
業務に改善すべき課題を見つけたら、一度に取り組むのではなく、優先順位をつけることも大切です。システムの導入は業務に大きな変化を与えるため、一気に変えると従業員の負担が大きくなります。スムーズに進まない場合、業務に支障をきたすかもしれません。
リスクを最小限に抑えるためには、優先順位を決めて、重要な部分から効率化を図ることが大切です。
施策を検討する
課題ごとに、適切な施策の検討を行います。業務効率化に取り組むにあたっては、次の点をポイントに検討するとよいでしょう。
- 無駄を省く
- 業務・人員を統合する
- スポットワーカーに代行を依頼する
- システムで自動化する
まず、業務の洗い出しで明らかに無駄だと思われる作業を見つけたら、それを廃止します。また、必要性が少なく、廃止してもホテルの運営に支障がないと思われる業務の削減を検討してください。
似たような内容の作業を別々で行っている場合は、一つに統合することで業務効率化につながる場合があります。
業務内容を細分化し、短期や単発のスポットワーカーに代行を依頼するという方法も効率化のひとつです。作業手順が多く時間がかかっている業務や人的ミスが多い業務は、システムを導入して自動化することを検討するようにしてください。
効果検証を行う
施策の実施後はそれで終わりではなく、継続的な効果検証が必要です。うまくいかなければ問題点を検討し、改善策を立てるか新たな施策を打ち出します。うまくいっていても、継続的に効果を維持するために定期的な検証は必要です。
効果検証では、数値で確認できる「定量的要素」だけでなく、社内の雰囲気や働きやすさなど数値化できない「定性的要素」もあわせて測定するようにしてください。
定量的要素の測定では、施策を実施する前後のデータを比較し、作業時間や残業時間の削減、ミスの低下、コスト削減など、数値による具体的な成果を確認します。
定性的要素の測定では、顧客満足度や従業員満足度の向上、チームワークの強化など、施策の実施によってどのような変化があったのかをチェックしてください。
たとえば、顧客満足度の向上であれば、業務効率化がサービス品質の向上につながって顧客から感謝の声が多く届くようになったという変化があげられます。
ホテルの業務効率化に効果的な施策
ホテルの業務効率化には、次の施策を行うと効果的です。
- 従業員の研修
- ノウハウ・ナレッジの共有
- ITシステムの導入
それぞれの施策について、詳しく解説します。
従業員の研修
業務効率化のためには、従業員のスキルアップも欠かせません。スキルが向上することで業務がスムーズに進み、時間短縮につながります。接客スキルが上がり、顧客満足度が向上することもメリットです。定期的な社内研修の実施により、業務効率化を図れます。
従業員のスキル向上を図る際は、併せてスキルマップの作成もおすすめです。スキルマップは従業員のスキルレベルを可視化したもので、従業員研修の際や、適材適所の人員配置に役立ちます。
また、従業員のマルチタスク化も効果的な施策です。1人が複数の仕事を並行して担当できるようになれば、人材不足の解消につながります。マルチタスクの人材が増えれば従業員各自が休暇をとりやすくなり、ワークライフバランスの充実と離職率低下の実現が可能です。
ノウハウ・ナレッジの共有
ノウハウ・ナレッジの共有も、業務効率化に効果的な施策です。ホテル業務のノウハウやナレッジを蓄積して全従業員と共有すれば、誰もが質の高い仕事をできるようになり、サービスの質を高めます。
効果的なノウハウ・ナレッジの共有には、次の方法があげられます。
- ノウハウを一元管理できるナレッジマネジメントツールの導入
- 朝礼でのベストプラクティス共有
- オンラインマニュアルの作成
- 従業員間のチャットツール活用
ノウハウ・ナレッジの共有によりミスを防止でき、教育コストの削減や研修期間の短縮につながることもメリットです。
ITシステムの導入
ITシステムの導入は、業務効率化に大きな効果が期待できる施策です。
ホテルの業務では、在庫管理やフロント業務、バックオフィス業務にシステムを導入することで、大幅な業務効率化を図れます。
在庫管理システムでは、ホテルで扱うアイテムの保存場所や取引先などの情報を一元管理し、在庫管理の効率化が可能です。
フロント業務は、次のようなシステムで効率化できます。
- 自動チェックイン機
- 精算機
- 自動荷物預け入れ機
- リモート接客システム
観光庁の「宿泊業の生産性向上事例集2（※3）」で紹介されているホテルでは、主に海外顧客との円滑なコミュニケーションを図るために接客補助ツールを導入しました。これにより、言葉の壁による応対の遅れやサービス品質の低下を防ぎ、よりスムーズで質の高い接客を実現した結果、1日あたり約15分（年間91時間）の接客時間短縮につながり、同時にお客様満足度の向上も達成できたとのことです。
バックオフィスでは、従業員の勤怠・シフト管理や会計処理をシステム化することで、業務効率化を図れます。
また、クラウドカメラの導入もホテルの業務効率化に効果的です。クラウドカメラは遠隔から現場の状況を視聴でき、何か起きたときに駆けつけることができます。バックヤードで業務をしながらフロントの混雑状況を確認し、混雑したらすぐに人員を増やすといった柔軟な対応も可能です。
なお、人が写り込む画角での防犯カメラの設置・運用開始には、個人情報保護法等の関係法令の遵守に加え、写り込む人々、写り込む可能性のある人々のプライバシーへの配慮が求められます。防犯カメラとプライバシーの関係については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ホテルの業務効率化にクラウドカメラを導入した企業事例
ITシステムを導入するという施策のなかでも、特にホテルの業務効率化に効果が期待できるのがクラウドカメラです。さまざまなクラウドカメラソリューションがあるなか、以下では実際の導入事例を紹介します。
株式会社エイチ・アイ・エスの導入事例
旅行会社「株式会社エイチ・アイ・エス」のグループ会社「H.I.S.ホテルホールディングス株式会社」が運営する「変なホテル舞浜 東京ベイ」では、セーフィーのクラウドカメラを導入し、業務効率化に役立てています。
「変なホテル舞浜 東京ベイ」はフロントにロボットを配置し、クロークやポーターなどもロボットが働いているのが特徴です。
ホテルでは24時間いつでもスマートフォンから映像を確認できる防犯カメラを探しており、値段の安さやネットワークの帯域を大きく使わなくて済むことが決め手となって、セーフィーのクラウドカメラを導入しました。
フロントに設置した2台のカメラでは、チェックインで困っている顧客がいないかを24時間体制で確認しています。
運用した結果、クラウドカメラの映像をリアルタイムで確認できる点が便利で、映像の質も良く音もクリアに視聴できるということです。
ホステル UNPLAN Kagurazaka の導入事例
神楽坂にあるホステル＆ラウンジ「UNPLAN Kagurazaka」は、外国人観光客が多く利用する宿泊施設です。宿泊客とスタッフの垣根をなくすというコンセプトから、受付はカフェスペースやエントランスと境界のない、オープンな造りになっています。
施設ではセーフィーのクラウドカメラを5台導入し、夜間の入館者の確認などに活用している状況です。
ホステルは宿泊費が安く、日々の運営コストを下げなければなりません。 セーフィーのカメラを導入したことで、夜間はスタッフが1人でも安全に運営ができるようになり、同時に宿泊客の安心・安全な滞在環境の確保にも貢献しています。クラウドカメラを活用して1階の受付から3フロアの状況を確認できるほか、セキュリティ上重要な場所の安全管理にも役立てており、業務の効率化につながっています。
導入時には他社の製品とも比較し、セーフィーのカメラが安価であったことや、映像を観る端末がパソコンに限定されず、スマートフォンやタブレットなどに幅広く対応している点が導入の決め手となりました。アップデートが簡単にできることも、選んだポイントだとしています。
クラウドカメラは顧客がホステル内で安全に過ごせる防犯の役割に加え、共用スペースの利用状況や設備の稼働状況など、施設運営の改善に役立つ情報を得られることが新たな発見だったということです。
また、遠隔地から施設の様子をチェックし、スタッフから連絡が来たときに状況をすぐ映像で確認するといった使い方もしています。（映像の閲覧は管理者および必要な権限を持つ担当者のみに制限しています。映像データは適切に暗号化され、法令に基づく保存期間の設定と厳格なアクセス管理のもとで運用されています。）
ホテルの業務効率化で生産性を高めよう
ホテルでは人手不足の解消のため、業務効率化が求められています。業務負担を増大させるプロセスを効率化することにより、ヒューマンエラーやコストを削減でき、サービスの質を高めて顧客満足度の向上を図れることがメリットです。
自社のホテル運営における課題を洗い出し、適切な効率化施策に取り組むことで、人手不足の解消とサービス品質の向上を実現しましょう。クラウドカメラをはじめとする最新技術の導入については、専門家への相談も検討されることをおすすめします。
- いつでもどこでも映像が見られるクラウドカメラ
- スマホやパソコンから店舗・現場を見える化
※1 出典： “人手不足に対する企業の動向調査（2025年1月）”.帝国データバンク.2025-2-21（参照 2025-4-20）
※2 出典： “令和5年 雇用動向調査結果”.厚生労働省.（参照 2025-4-20）
※3 出典： “宿泊業の生産性向上事例集2”.観光庁.（参照 2025-4-20）
※ セーフィーは「セーフィー データ憲章」に基づき、カメラの利用目的別通知の必要性から、設置事業者への依頼や運用整備を逐次行っております。
※当社は、本ウェブサイトの正確性、完全性、的確性、信頼性等につきまして細心の注意を払っておりますが、いかなる保証をするものではありません。そのため、当社は本ウェブサイトまたは本ウェブサイト掲載の情報の利用によって利用者等に何らかの損害が発生したとしても、かかる損害については一切の責任を負いません。
