農作物を荒らす動物による被害は、年間で155億円にのぼるとも言われており、農家の収益や営農意欲に大きな影響を与える深刻な問題です。その一方で、地域内での対策やデジタル技術の活用による被害の抑制についても進んでおり、ある地域では年間の被害がゼロになるほどの驚くべき効果をあげています。
実際に動物の被害から畑をどのように守れば良いのか、この記事で最新テクノロジーを用いた課題解決法について解説します。
目次
畑を荒らす動物と被害の実態
畑を荒らす動物からの被害を減らすには、実際にどのような動物が害を起こしているのか正しく知らなければなりません。まずは畑を荒らす動物の主な種類と被害の実態について把握しましょう。
農作物被害の現状
日本での野生生物による畑の被害として、「シカ」「イノシシ」「サル」などが挙げられます。農林水産省が発表した被害の実態(※1)は、次の表のとおりです。
動物の種類 | 被害額 | 被害の割合 |
---|---|---|
シカ | 約 65.0 億 円 | 約 41.8 % |
イノシシ | 約 36.4 億 円 | 約 23.4% |
サル | 約 7.1 億 円 | 約 4.6 % |
合計 | 約 155.6 億 円 | – % |
※1 出典:“全国の野生鳥獣による農作物被害状況(令和4年度)”.農林水産省.(参照 2024-07-25)
これらの野生生物が野菜や果樹などの作物を食べたり、踏みつけたりすることで、廃棄しなければならない農作物が発生します。収穫量の減少は、農家の収入の不安定化にもつながるため、営農意欲の低下や耕作地の放棄の増加など、連鎖的な問題に発展する危険性があります。
鳥獣被害は減少傾向にある
農林水産省の調査(※2)によると、鳥獣被害は2010年(約239億円)をピークに減少傾向にあります。
※2 出典:“第5節 鳥獣被害対策とジビエ利活用の推進”.農林水産省.2022-05-27(参照 2024-07-25)
ただし、これは野生生物の対策に成功していることを示しているわけではなく、シカやイノシシなどの獣害は依然として多く発生しています。加えて、ハクビシンやアライグマといった中型獣類の被害も、新たに拡大している傾向にあります。
害獣が発生する原因と動物の生態
獣害を防ぐには、電気柵を設置するといったリアクティブな対策だけでは堂々巡りになってしまう危険性があります。そのため、なぜ獣害が発生するのか正しく理解して、積極的な対策を打ち出さなければなりません。まず、獣害が発生する原因について把握しましょう。
耕作放棄地により隠れ家が増えたから
獣害が発生する原因として、耕作放棄地が野生動物の隠れ家となり、人里に近づく鳥獣の生息域が拡大することが一つです。人の手が入らなくなった農地は、草や木が生い茂り、動物の隠れ家や新たなエサ場となるためです。
耕作放棄地により動物の個体数が増加し、さらなる農作物被害につながる悪循環が生まれてしまいます。農林水産省の調査では、全国の耕作放棄地の合計面積は平成27年に42万3千ヘクタールであるとされており、野生生物と人里との距離感が徐々に縮まってきていることが伺えます。
餌付けによって野生動物が人慣れしたから
もう一つの獣害発生原因は、野生動物の人慣れです。本来、野生動物は人を恐れる習慣があり、「南アフリカの哺乳類は、ライオンの声を聴くよりも人間の声を聴いた時のほうが水場から離れる確率が2倍多かった」という研究論文もあります。
餌付けなどで人を恐れなくなった動物は、エサ場と認知した人里へ繰り返し訪れるようになります。生ゴミの放置やペットフードの外置きなど、一度エサがあると学習した動物は何度も集落に現れるようになり、しだいに農作物も荒らすようになる恐れがあります。
また、サルのような知能の高い動物の場合、人によってリアクションが異なると、「(ヒトは)自分たちに危害を加えない存在だ」と学習してしまうことがあります。地域内で野生生物を追い払う人がいる一方で、見て見ぬふりをするような人もいるという場合は要注意です。
自分の畑に近づいてきたときに追い払うだけでは、少しの間だけ隠れていればすぐにエサ場にありつける、とサルは学習してしまいます。そのため、地域が一丸となって結束し追い払うことによって、畑を動物の被害から守ることにつながります。
畑を荒らす動物への対応策
畑を守るためには、害獣が発生する原因を取り除き、それぞれの動物に適した対策を講じることが必要です。ここでは、具体的な対策について解説します。
【Step1】対象となる動物と特徴を理解する
獣害対策を考えるうえで重要なのは、対象となる動物を正しく理解することです。足跡やフンの形状などといった動物の痕跡から、種類やおおよその個体数などを把握できます。対象となる動物によって獣害対策は異なるため、畑を荒らす動物の種類について知りましょう。
動物の種類 | 足あとの特徴 | フンの形状 | 特徴 |
---|---|---|---|
シカ | 約5cm~8cm 2本並んだ蹄(ひづめ) | そら豆ほどの大きさフン同士がくっついている | 果物や野菜が好物低い柵を飛び越えるジャンプ力昼夜問わず活動 |
イノシシ | 約5cm~8cm 2本並んだ蹄かかとに小さな副蹄2本 | 大粒の大豆ほどの大きさフン同士はくっつかない | ドングリや芋類が好物柵を掘って侵入する昼夜問わず活動 |
サル | 約16cm親指が横に出る人の手に似ている | 人のフンに似ている | さまざまなものを食べる雑食性人に慣れると何度も訪れる日中帯に活動する |
【Step2-1】動物を近づけない「鳥獣忌避」を検討する
動物が嫌がる匂い・雑音などを利用して農地から遠ざける対策が「鳥獣忌避」です。たとえば、忌避植物を繁殖させる、天敵となる生物を呼び込む、肉食動物のフン尿の香りを撒く、音響刺激を出すなどがあります。
鳥獣忌避は低コストでできる可能性が高いですが、効果に時間がかかる点、ほかの生態系に悪影響を及ぼす可能性がある点などに注意しなければなりません。
【Step2-2】柵で囲む「物理的防除」を検討する
鳥獣対策において鳥獣忌避よりも効果が高いのは、動物の侵入を物理的に防ぐ防獣フェンスや防鳥ネットなどです。シカやイノシシ対策ではメッシュ柵・金網柵・電気柵などを設置し、カラス対策では防鳥ネットを設置します。
ただし、柵の隙間から侵入されたり、柵の下を掘り返されたりすることも少なくありません。定期的な見回りと侵入経路の特定、補強が求められる点、設置と補強にコストがかかる点には注意が必要です。
【Step2-3】罠を仕掛ける「捕獲」を検討する
農地への出没が多発し、被害が甚大な場合は、罠の設置による捕獲も検討しましょう。罠の種類には、トラップ式の檻罠、ワイヤーのくくり罠などがあり、効果的な誘引エサの選定も重要です。
ただし、罠の設置には法的な規制があり、専門的な知識とスキルが求められます。行政や猟友会などの専門家と連携して取り組むことも重要です。
【Step3】耕作地を管理する
鳥獣を寄せ付けない耕作地づくりも被害防止には欠かせません。たとえば、収穫残渣(ざんさ)の適切な処理、農地周辺の藪の刈り払いなど、エサ場や隠れ家を減らす対策も重要です。
また、休耕中の畑や耕作放棄地の解消や、農地と林緑の間に緩衝地帯を設けるのも効果的な手法の一つです。ただし、これらの対策は対象範囲が広大になりやすく、たくさんの人手や地域連携が求められる点に注意が必要です。
最新テクノロジーを用いた鳥獣対策
最新のICT機器を用いた鳥獣対策として、農林水産省が公開(※3)している機器情報の確認がオススメです。たとえば、センサーを搭載した自動捕獲器、通知システムを搭載したくくり罠、畑を遠隔監視できるクラウドカメラなど、さまざまな機器が紹介されています。
※3 出典:“全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和4年度)”.農村振興局鳥獣対策・農村環境課(担当:谷川、堀澤).2023-11-28(参照 2024-07-25)
畑を荒らす動物の行動監視に最適なクラウドカメラの活用
前々章の「【Step1】対象となる動物と特徴を理解する」にて、対象の動物や特徴についてを紹介しましたが、このStepでは特にクラウドカメラの活用が有効です。なぜクラウドカメラが最適なのか具体的に解説します。
獣害対策におけるモニタリングの重要性
獣害対策を効果的に進めるには、動物の行動をモニタリングし、その特性を把握することが第一歩です。動物の「出没時間帯」「頻度」「侵入経路」などを知ることで、適切な対策を講じることが可能になります。従来では熟練者の目視や痕跡の確認など属人的でしたが、最近ではトレイルカメラなどのカメラを用いたモニタリングが主流になっています。
遠隔でのリアルタイム監視
トレイルカメラのなかでも注目されているのが、クラウドカメラを用いた遠隔監視です。無線LAN接続やモバイル通信を用いたインターネット接続で、自宅や外出先からでもリアルタイムの映像を確認できるのが特長です。
また、動体検知機能で、管理者のスマートフォンへ動物が侵入したことを通知する機能もあります。うまく活用すれば、遠隔から動物を監視しながら、逃げ道になりそうな場所に即席で罠を仕掛ける、といったこともできるでしょう。
録画による被害の実態調査
クラウドカメラの録画機能は、被害発生状況の分析にも役立ちます。動物の個体による行動パターンの違い、仕掛けた罠に対しての反応など、対策の効果検証や新たな課題の発見などにつながるでしょう。また、録画データの切り抜きを共有することで、自治体や猟友会、研究機関とリモート連携で対策を検討することも可能です。
害獣対策の最新事例
実際に効果をあげた獣害対策の事例を知ることで、地域の獣害対策にも取り入れやすくなります。ぜひ参考にしてみてください。
センサーカメラの成功事例
クラウドカメラを活用した獣害対策の成功事例は各地で報告されています。たとえば、長野県安曇野市では、GISやセンサーカメラ、ドローンを活用し、カメラの撮影結果を踏まえて罠の微調整、捕獲場所の再検討などを行いました。その結果、イノシシの出没頭数がおよそ8割削減され、ニホンジカも同じ出没場所を避けるようになる効果(※4)を得られています。
※4 出典:“センサーカメラ等を活用した総合的な被害対策の取組 ー長野県ー”.長野県 林務部 森林づくり推進課 鳥獣対策室.(参照 2024-07-25)
自治体と地域住民の連携
長野県塩尻市では、ICTを活用した農業活性化において、深刻なイノシシ被害の問題に直面しました。試行錯誤の末、センサーでイノシシの出没情報をクラウドに記録し、地域住民にメール通知する取り組みを行いました。
地域が一丸となった鳥獣の追い払い、罠の設置などにより、結果として2年で被害がゼロになるほどの大きな効果を得られたのです。この取り組みにより、農家の耕作意欲も高まり、農業収入は対策前の6.5倍に増加(※5)しました。
※5 出典:“地域の“強み”を生かし、子どもたちの可能性を伸ばす”.地方創生「連携・交流ひろば」.(参照 2024-07-25)
AIやICTを活用した「スマート捕獲」が今後拡大に
農林水産省では、野生鳥獣がもたらす被害への対策として、デジタルツールを活用する「スマート捕獲」を推進していくことを決定(※6)しました。具体的には、スマート捕獲を推進する自治体に補助金を設けるため、2025年度の予算に盛り込む検討を始めています。
スマート捕獲の普及により、AIを搭載した罠やクラウドカメラによるスマートフォン通知など、ICTやAIを活用した鳥獣対策が今後はますます広がることが期待されています。
※6 出典:”センサーカメラ・AI搭載わな…鳥獣の「スマート捕獲」、農林水産省が来年度にも事業費補助へ“. 読売新聞オンライン. 2024-05-28(参照 2023-05-28)
畑を荒らす動物対策にはクラウドカメラ設置の検討を
畑を荒らす動物の対策には、動物を詳しく知るだけでなく、動物が避ける鳥獣忌避について検討したり、物理的な防除や罠で捕獲を検討したり、耕作地を管理したりすることも含まれます。これの対策にICTが用いられるようになっており、将来的には「スマート捕獲」に補助金が出される可能性があることも述べた通りです。
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