カメラのようなデジタル撮影機器のほとんどには、IRカットフィルターが搭載されています。IRカットフィルターという名前は聞いたことがあるという人、あるいはIRカットフィルターの役割は把握しているという人は多いかもしれませんが、その仕組みまで理解している人は少ないのではないでしょうか。
この記事では、まずIRカットフィルターとはどういうものなのか、そしてなぜデジタル撮影機器や防犯カメラの搭載機能としてIRカットフィルターが必要なのか防犯カメラ選びの参考になるよう解説します。その働きを具体的にイメージしていただけるよう、IRカットフィルターの付け外しで可能になる夜間撮影の仕組みと実際の撮影映像の違いを、動画付きでお伝えします。
目次
IRカットフィルターとは
IRカットフィルターの「IR」とは英語の「Infrared」の略で、赤外線を意味します。つまり、IRカットフィルターとは赤外線カットフィルターのことで、その名のとおり赤外光を遮断する特殊光学フィルターのことです。
人間の目が光として感知できる光、すなわち可視光線は、波長で言うと下限が約400ナノメートル弱(360nmから400nm)、上限が約800ナノメートル(760nmから830nm)の範囲内の電磁波です。IRカットフィルターはこの範囲内の光だけを透過させ、それ以外の波長の光は吸収または反射するように設計されており、一般的にカメラなど撮影機器のイメージセンサーとレンズの間に配置されています。
なお、太陽光や照明の光は様々な波長の光を発していますが、波長の長さの違いによって人間の目に与える色感覚は異なります。光の波長が短い方から順に、色と波長の対応関係をまとめると、次のようになります。
色 | 波長 |
---|---|
紫 | 380~430nm |
青 | 430~490nm |
緑 | 490~550nm |
黄 | 550~590nm |
橙 | 590~640nm |
赤 | 640~770nm |
赤外線とはこの赤の波長(640~770nm)よりも波長の長い電磁波の一部を指し、波長でいうと約770nmから1 mmくらいまでの範囲に相当します。同様に、紫の波長(380~430nm)よりも波長の短い電磁波の一部(波長で約1nmから380nmくらいまで)が紫外線と呼ばれます。
なお、光が電磁波の一種であるということを、この記事で初めて知った人もいるかもしれません。歴史を振り返ると、「光」とはもともと人間の目が感知できる可視光のことを指していました。その後、人間の目では見えないものの物理的には可視光と性質が変わらない電磁波が、紫よりも波長の短い側と赤よりも波長の長い側の両方に存在することがわかり、それぞれが「紫外」、「赤外」と名付けられたのです。
この時から、物理的エネルギーの観点で同じと見なせる紫外、可視、赤外の電磁波をまとめて「光」と呼ぶようになり、実質的に光の概念が拡張されたと言えます。
デジタル撮影機器にIRカットフィルターが必要な理由
それでは、なぜデジタル撮影機器にIRカットフィルターを付けて赤外線を遮断する必要があるのかというと、人間の目に見えている色と同じような色で写真や映像を撮影するためです。
赤外線は人間の目には見えないものの、デジタル撮影機器に搭載されているCCDセンサーやCMOSセンサーは1,100nm付近の波長にまで反応する感度を有しているため、赤外線の一部を検出してしまいます。したがって、IRカットフィルターがない場合、この範囲の赤外線も電気信号としてイメージセンサーに伝わってしまい、人間の目に見えている色とは違って、全体に赤みがかった映像が撮影されてしまうのです。
なお、デジタル撮影機器に搭載されているセンサーに関して、CCDとは英語のCharge Coupled Devicesの略称であり、「電荷結合素子」を意味します。光を電荷に変換し、さらに信号に換えて転送する機能を持つもので、当初はビデオカメラ用の撮像素子として製品化されました。もう一方のCMOSとは、英語のComplementary Metal Oxide Semiconductorの略称で、日本語では「相補性金属酸化膜半導体」と呼ばれます。どちらも基本的な仕組みは同じですが、CMOSセンサーは転送の過程でノイズの影響を受けにくいことが、CCDイメージセンサーとの最大の違いとされています。
このように、デジタル撮影機器のセンサーに赤外線が与える影響を排除して人間の目に見えている色を再現するために、IRカットフィルターはほとんどのデジタル撮影機器に搭載されています。携帯電話に搭載されているカメラはもちろんのこと、デジタルカメラやビデオカメラ、車載カメラ、さらには業務用カメラなどにも、基本的には必ず使用されています。
特に、昼夜の撮影の切り替えにはIRカットフィルターが欠かせません。IRカットフィルターの付け外しによってどのように暗闇での撮影が可能になるのかを、次のセクションで詳しく解説していきます。
IRカットフィルターを外すと夜間撮影可能に
ここまでで解説してきたとおり、一般的にデジタル撮影機器にはIRカットフィルターが搭載されていますが、これを外すことで暗闇での撮影が可能になります。
すべての撮影機器には最低被写体照度というものがあり、撮影を行うためには一定の明るさが必要です。明るさはlux(ルクス)という単位で表現され、晴れた日の屋外は10万lux、曇りの日の屋外は3万lux、上映中の映画館の客席が2~5 lux、満月の月明かりが2 lux、月のない星明りが0.02 lux程度とされます。これに対し、一般的に防犯カメラで人の顔を識別するためには0.5luxの最低照度が必要であると言われます。
IRカットフィルターの付け外しによる夜間撮影の方式は、主に次の2種類に分けられます。それぞれの撮影手法でどのようにしてこの最低被写体照度の問題を克服しているのかを、詳しく解説します。
デイ&ナイト機能
夜間でもわずかな光を高感度で感知して撮影する方式で、この方式を採用している防犯カメラは微光監視型とも呼ばれます。
夜間は照度が低いため最低被写体照度に届きませんが、IRカットフィルターを外すと、赤外線も含めて光を多く取り込むことができるようになります。このようにIRカットフィルターを外すことで撮影感度を上昇させ、暗闇での撮影を可能にする手法がナイトモードと呼ばれます。
カメラに搭載された明暗センサーなどが照度を感知し、暗くなると自動的にIRカットフィルターが外れてナイトモードに切り替わります。このように昼夜で撮影モードが切り替わるため、一般的にはデイ&ナイト機能と呼ばれます。
ただし、不可視光線である赤外線には色彩がないため、波長の強弱を白と黒で表現することしかできません。このため、ナイトモードで撮影した映像はモノクロになります。また、あくまでも高感度で光を感知することで撮影する機能であるため、完全な暗闇では撮影ができません。
赤外線照射機能
撮影機器に搭載された赤外線LEDライトで赤外線を照射することで、撮影を可能にする機能です。この方式で夜間の撮影を行う防犯カメラは、赤外線暗視型などと呼ばれます。
対象物に赤外線を照射する方式なので、完全な暗闇でも撮影が可能です。ただし、赤外線の照射距離はおおむね15メートルから30メートル程度と製品ごとに範囲が決まっているため、その範囲外は撮影することができません。撮影範囲内でも、中心部に比べると端の方は暗く映ります。実際に撮影できる範囲は、赤外線の最大照射範囲の半分程度と考えておくのがよいでしょう。
基本的にはモノクロ撮影ですが、新型の映像素子(CCD)が開発されたことを受けて、最近はカラー撮影が可能な赤外線カメラも登場しています。従来の赤外線照射による撮影では、被写体に反射した赤外線から光の濃淡や物体の形状、温度を読み取っていました。これに対し、新型のCCDを利用した赤外線撮影では、物体の色を読み取ることができるため、カラーでの撮影が可能になるのです。完全な暗闇でもカラーで撮影ができれば、映像活用の幅はさらに広がっていくでしょう。
IRカットフィルターのオン・オフでの夜間映像比較
実際に、暗闇でIRカットフィルターを外した場合と付けたままの場合で、撮影できる映像はどのくらい違うのでしょうか。ここでは、クラウド録画サービスでシェアNo.1※の「Safie」のクラウドカメラの実際の撮影映像を見比べてみましょう。
※テクノ・システム・リサーチ社調べ「ネットワークカメラのクラウド録画サービス市場調査(2023)」より、エンジン別カメラ登録台数ベースのシェア(54.1%)
こちらの映像は、ナイトビジョンモードをONにした状態とOFFにした状態の撮影映像を並べて比較したものです。
左側のナイトビジョンモードOFFの状態では、ほとんどが真っ黒に映っており、何が撮影されているのかを認識するのは難しいでしょう。これに対し、ナイトビジョンモードをONにした右側の映像では、靴や傘、スーツケースをはっきりと認識することができ、玄関が撮影されていることが一目でわかります。
なお、防犯カメラでは通常、撮影場所が暗くなった場合に自動でナイトビジョンモードに切り替わるように設定されています。Safieの防犯カメラの場合、設定画面からナイトビジョンモードを常時OFFに設定することで、暗くなってもナイトビジョンモードにならないようにすることができます。この設定で夜間に撮影を行うと、上の映像の左側のとおり、ほとんど真っ黒の映像になります。反対に、常時ONに設定すれば、日中の明るい時間帯でも常に白黒のナイトビジョンモードで撮影が行われます。
終わりに
IRカットフィルターは、デジタル撮影機器で人間の目に見えている色を再現するために欠かせない存在です。人間の目に見える可視光線の範囲は限られている一方で、撮影機器で使われるイメージセンサーでは赤外光も検出されるため、IRカットフィルターを使って赤外光を遮断する必要があるのです。
昼間はIRカットフィルターを付けて撮影することで人間の目に見える色を再現する一方で、夜間にはIRカットフィルターを外すことで、赤外線を利用した暗闇での撮影が可能になります。夜間撮影の方式には赤外線を感知して撮影するデイ&ナイト型と照射した赤外線を利用して撮影する赤外線照射型の2つがありますが、最近は完全な暗闇でもカラー撮影が可能になるなど、防犯カメラの性能は進化を続けています。
- クラウド録画サービス Safie(セーフィー)
- パソコンやスマートフォンでいつでもどこでも、インターネットで映像が見られる手軽なカメラ。