Writer:御代貴子
2026/02/06
衆議院議員小林史明氏、マネーフォワード辻庸介氏鼎談「日本の経済成長に向けた、あるべき連携の姿」:前編
2025年11月17日(月)、セーフィーをご利用いただいている企業様、パートナー企業様など、現場DXを推進されているリーダーやご担当者様をお招きして鼎談イベントを開催しました。
本イベントは、現場をもつ企業の最前線で活躍するリーダーを対象とした完全招待制のカンファレンス「Safie Future Resolution Summit(レゾサミ)」の続編となる「アフターレゾサミ」として実施したものです。
テーマは、日本の成長を実現するエコシステムのあり方。政府・大企業・スタートアップがどう連携し、世界で勝てるビジネスを育てていくのか。東京一極集中にとどまらず、地方創生の好循環をいかに生み出すのか。国としての成長戦略の描き方に注目が集まっています。
こうした問題意識のもと、前環境副大臣 自由民主党 衆議院議員の小林史明氏、株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 グループCEOの辻庸介氏、そしてセーフィー代表取締役社長CEOの佐渡島隆平の3名で行われたトークセッションの様子を、前編・後編にわたってお届けします。

「大企業×スタートアップ」で日本の成長をけん引する
——まず、日本政府が掲げる成⻑戦略について、小林先生から解説をお願いいたします。
小林
日本の成長戦略を進めるにあたって、皆さまが気になっていることの一つに、物価上昇と賃金の関係性があると思います。物価が緩やかに上昇するとともに、それ以上に賃金が上がって消費が回り、企業収益が伸び、設備投資をするサイクルが理想です。
ところが現実は、加速する円安によって物価が上昇し、賃金を上回る物価水準になってしまっています。同時に起きているのは、供給力不足です。コメを筆頭に生産する力が足りず、物価をさらに押し上げています。
メディアで多く報じられるのは所得税やガソリン税の減税といった需要側の政策ですが、政府としては、供給力不足への対策も十分に打たなければならないと考えています。
供給力を上げ、輸出を増やすことが必要です。輸出によって、お金を円に変えたい人が増えるほど、為替は円高方向に進みます。そのうえで消費も拡大するよう、需要側と供給側の政策をバランスよく進めなければなりません。

これらの基本方針は、岸田政権時代の「新しい資本主義」でも掲げていました。民間による投資を促し、当時80兆円ほどだった設備投資額は110〜120兆円まで伸びています。
岸田政権時代は「新しい資本主義」をはじめ、「マクロの経済環境を整える」政策が中心でした。その中で、投資すべき分野を判断しきれないという民間の声も聞こえてきました。この課題に応えるため、高市政権では「日本成長戦略会議」を立上げ、国家戦略として注力分野を決めました。AI・半導体や量子、造船など17分野を重点投資対象にし、岸田政権で進めたマクロの経済環境整備という「横軸」に、重点分野という「縦軸」を通した形です。
この17分野において、大企業やスタートアップ、そして金融や政府調達も含めてどう市場を作っていくかが今後の焦点になります。
——ありがとうございます。次に、スタートアップの立場で自社成長を目指しながら日本経済に貢献するために、どのようなことに向き合っているのか、辻さんからお話ください。
辻
マネーフォワードは創業からおよそ13年が経ち、約3,000名規模の会社になりました。これまでを振り返って思うのは、新たなプロダクトを作ったり、失敗するかもしれないチャレンジに挑んだりするのはスタートアップが適しているということ。人生を賭けて世の中を変えたいと思う人たちが、情熱とリスクマネーを持って行動するからです。
100社に数社しか生き残れないと言われる厳しい世界ですが、その数社が生み出したプロダクトやテクノロジーによって世の中を変えられる。ここにスタートアップの意義があると思います。

今日のテーマである大企業とスタートアップの連携についても、経営を通して感じることがあります。大企業でゼロからチャレンジしようとすると、どうしても経営陣から承認を得られにくい難しさがあります。そう考えると、成功したスタートアップと大企業が事業提携し、ビジネスの種を大きくすることが有用ではないでしょうか。種を育てるには資本や人、チャネルが必要です。大企業のリソースを活用して、スタートアップによって生み出されたプロダクトが社会実装されるスピードを上げていく関係性が理想だと考えています。
小林
スタートアップが資金調達をして独自でサービスを成長させることと、大企業と提携してマーケットを一気に取りに行くこと。この2つの戦略をどう考えていますか?
辻
一般的に大企業とスタートアップが協業する際は、役割分担を明確にし、意思決定をシンプルにできれば相性がよいと考えています。その協業の仕方は、業種によって異なります。
直近FinTech企業は、メガバンクによって買収されるケースが増えてきています。FinTechは新しい、イノベーティブなプロダクトを作って独自で成長させるものの、さらなる顧客獲得やコストを考えると、既存のチャネル、顧客を多くもつ会社と提携することは、有効な選択肢となります。その段階で、提携、さらにはM&Aという道を選ぶことになるのです。当社は単独で金融サービスを多くのユーザーに届けてきましたが、祖業である家計と資産の管理サービス『マネーフォワード ME』をさらに成長させるために、2024年に三井住友カード社とジョイントベンチャーを立ち上げました。
一方、セーフィーのような企業は、優れたプロダクトがあり、それをチャネルに流通させることで成長します。この場合、M&Aではなく大企業と事業提携してそれを実現されているかと思います。
スタートアップが大企業に買収された後、事業を閉じる残念なケースも見られますが、これはスタートアップ側に問題があるケースも多いと思っています。大企業の意思決定プロセスをきちんと理解していないのです。こうした事態にならないよう、大企業とスタートアップの人的交流を行い、お互いの理解を進める必要があると思います。
大企業も新規事業立ち上げに苦労しているので、以前より社会全体がスタートアップをリスペクトして関係を築く雰囲気になってきていると思います。
さらに今は、AIによって少ない資本で質の高い製品を作れるようになりました。となると、生産工程ではなく、アイデアやパッションの差で勝負が決まっていきます。この観点でも、大企業にとってスタートアップの価値はますます上がるでしょう。
「8掛け社会」における現場DXの未来像
——次に、セーフィーが日本の社会課題にどう向き合い、経済成長のためにどのような事業を展開しているか、佐渡島からお話しします。
佐渡島
日本は世界に先駆けて、2040年頃に15〜64歳の生産年齢人口が約2割減少する「8掛け社会」を迎えるといわれています。中でも課題感が深刻なのは、建設や小売、介護といった現場をもつ業界です。生産性を上げるために人的リソースを投入することが不可能なため、現場の労働力を補うDXは必ず広まっていくでしょう。
米エヌビディア社のジェンスン・フアンCEOは、「ジェネレーティブAI」の次に「エージェンティックAI」、さらに「フィジカルAI」の時代が訪れると述べています(※)。
※ジェネレーティブAI:学習したデータから新しいテキスト、画像、音声、動画などを自動生成するAI技術。
エージェンティックAI:自律的に判断し、目標達成に向けて能動的に行動するAI技術。
フィジカルAI:現実世界の物理的な環境を理解し、自律的に行動するAI技術。
現場の労働をAIが代替する際、現場スタッフと管理者のギャップを埋めることも考えなければなりません。そのために、現場の方々にセーフィーの製品を「武器」として渡すと、暗黙知も引き出しやすくなると考えています。現場の皆さんは、自分がもつ技術や知識を相手に伝わるように説明することが不得手な場合も多いので、映像で可視化したうえで対話すると、ギャップの解消につながります。さらに、映像データを蓄積してAIエージェント化できるといいですね。

AIエージェント化の一例として、ある海外の製造業の会社では、工場に360度カメラを設置し、AI同士が進捗会議をしています。人間が会議をすると30分〜1時間かかる内容が、AI同士で話すと3分ほどで終えられるのです。カメラ映像は3D化されていて位置情報もわかるので、点検もロボットが自動で行えます。現実世界とAI、データ、ロボットが一体化しているのです。課題先進国である日本は、こうした未来感のある技術をいち早く実装して供給を増やせると、将来他国で同じことが起きたときにも対応できます。
現場の課題感には、「人の熱量を遠隔で伝えること」もあります。オンライン会議ツールが普及するにつれ、人の思いを乗せたコミュニケーションをしにくくなっているのです。そこで、遠隔にいる相手が同じ空間にいるかのように設計されたテレプレゼンスシステム「窓」を開発したMUSVI社に出資をし協業を開始しました。「窓」はデジタル空間とリアル空間をシームレスにつなげるだけでなく、会話の内容に応じてAIが適切なデータを表示する機能もあります。
暗黙知になりがちなベテランの会話をデータ蓄積し、AIによって形式知化して、AIエージェントがベテランをアシストしながら若手にアドバイスをする。その結果、若手が生き生きと働ける。さらにフィジカルロボも活躍する。セーフィーは、そんな未来を見据えています。カメラや「窓」のようなツールをできる限り安価で広め、課題先進国である日本で実証を進めることで、世界で勝てると考えています。
日本全体で事業再編をどう促進するか?
小林
辻さんの話にあったM&Aに関しては、オープンイノベーション促進税制(※)を拡充する方向で動いています。辻さんが副代表幹事を務める経済同友会から、上場企業もオープンイノベーション促進税制の対象にしたいという提言をいただきましたね。
※オープンイノベーション促進税制:新規出資型とM&A型の2種類がある。新規出資型は、国内の対象法人等が、オープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業の株式を取得する場合、取得価額の25%を課税所得から控除できる制度。M&A型は、国内の対象法人等が、スタートアップ企業のM&A(議決権の過半数の取得)を行った場合、取得した発行済株式の取得価額の25%を課税所得から控除できる制度。
辻
オープンイノベーション促進税制は、是非企業の皆様に活用していただきたい税制です。改正のタイミングに伴って、経済同友会にて意見を公表しました。内容としてまず、時限措置ではなく恒久化が必要だと考えています。また、株式取得枠の上限拡大や、対象要件を緩和してもらいたいです。時価総額100億円程度の上場スタートアップの中には、上場後、必要な投資を受けられず苦しむ企業も少なくありません。そのような企業にM&Aを促し、再成長できれば、日本経済全体へのインパクトがもたらされると思います。
さらに対象スタートアップについても、科学技術によって社会課題解決を目指すディープテック企業は収益化までに10年以上かかることも多いです。10年以内の対象要件は短いため、15年以内までは引き上げていただきたいです。
また、買収側を整えていただいたため、加えて売却側に対しても、インセンティブがもたらされる税制にし、経済成長を加速させる人材を国内に止めることが日本の富を生むのではないでしょうか。
小林
大企業の事業再編を加速させる政策も必要だと考えています。多くの大企業はコングロマリットで、スタートアップが入り込む余地がありません。そこで、大企業が既存事業を売却した資金で他事業を買収する際のインセンティブを作れないかと模索しているところです。

辻
企業が特定事業を切り離して独立させた際に適応されるスピンオフ税制も促進できるといいですね。参入企業が多すぎる業界で再編が起こると、全体の生産性がアップするはず。それに、経営者は不採算事業を切り離すプレッシャーを投資家から受けているので、日本のM&Aを加速させるよいタイミングが訪れていると思います。
佐渡島
事業をうまく切り離せると、研究開発予算を増額させやすくなります。それに、独立した組織で働く人を見ていると、幸せそうだと感じるのです。大企業の一事業だった時は亜流だったとしても、独立して事業を飛躍させたら従業員にもインセンティブが入る設計も可能。日本は研究開発組織が大きい企業が多いので、大企業からうまくカーブアウトさせ、チャレンジする人にはリターンが得られる仕組みができると成功確率が上がると思います。
小林
国としても、カーブアウト(特定事業の切り離し)や、スピンオフ(親会社と資本関係を維持した状態での事業独立)を促進したいですね。企業同士のマッチングを加速させることも必要だと考えています。
辻
カーブアウトやスピンオフする前の段階で、事業に投資できる仕組みを国で作れるといいですよね。日本の大企業の研究所は、世界で戦えるポテンシャルをもっていますから。たとえば、大企業の内部でピッチイベントを行い、そこに社外の人も参加して事業化の可能性を探れるといいのかもしれません。
スタートアップより、大企業の方が圧倒的に規模を出せるのは明白です。大企業が収益をどう再投資し、さらなる社会的インパクトを生み出せるのか。リソースと知恵のかけどころですし、政府の後押しも必要です。
小林
設備投資減税や研究開発税制は、すみやかに拡充する予定です。大企業のイノベーションが加速する仕組みづくりを進めたいと思います。
※参考まで
設備投資減税、研究開発減税、スピンオフ税制の拡充は年末の税制改正で決定しました。https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2026/zeisei_k/index.html
<後編記事はこちら>
著者紹介 About Writer
- 御代貴子
- フリーライター。IT業界、人材業界、料理家のコンテンツ制作を経験した後、独立。執筆分野はビジネス全般、社会人のスキルアップやリスキリング、人事・組織など。経営者へのインタビューも多い。書籍『60分でわかる! 1on1ミーティング実践 超入門』執筆協力。書籍『一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略』共訳。
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