話者紹介
持続可能な医療の提供に対する使命感
モデレーター:安藤先生が仙台市医師会において、診療カーによるオンライン診療サービスを自ら旗振り役として推進されている背景を教えてください。
安藤:今後、日本の人口が減少すれば医師の不足と偏在が進み、現状のままでは医療サービスを安定して供給することができなくなります。特に非都市部は医療へのアクセスが困難になり医療格差が生じる恐れがあります。医師もこれまでの伝統的な手法に囚われず新しいことに挑戦するべきだと考えており、セミナーなどを通じて日本医師会の若い世代から将来の医療はどうしていくべきか意見を集めるようにしています。今から医療体制を整えて次の世代に渡していく責任が私たちにはあるのです。
髙野:仙台市としては、地域や分野を限定し大胆な規制改革に取り組む国家戦略特区の取り組みを進める中、オンライン診療が市内で未だ普及していない状況や規制の存在を認識し、平成30年くらいからオンライン診療の普及に向けた検討を開始しました。実は、ちょうどその頃に、こうした取り組みに非常に熱心な先生がいらっしゃるということでご紹介いただいたのが安藤先生です。
仙台市は東北唯一の政令指定都市で、ある程度の人口規模もあり、そんなに医療提供については大変な状況ではないと思われがちなのですが、市域が広い本市においては、中山間部でそのエリアの医療を担っていた病院の医師がご高齢になって閉院してしまうといったことも現に起こり始めています。
こうしたことは東北の他の自治体でも既に顕在化している課題ですが、課題先進地域ともいわれる東北の中枢に位置する仙台市は、そのような課題の解決にリードして取り組み、持続可能な医療提供体制のあり方を考えていくべきだという使命感をずっと持っており、安藤先生ともその部分を共有できていると実感しています。
安藤先生とともに、少しずつオンライン診療の実証、国家戦略特区の枠組を活用した規制改革の提案を重ね、令和5年度からはより質の高いオンライン診療の実現を目指して、診療カーの活用を進めています。こちらは、全国のモデルケースとして国のデジタル田園都市国家構想交付金の採択を受け、「防災環境“周遊”都市・仙台モデル推進事業」の一つに位置付けて取り組んでいるものです。
震災後、沿岸部などにもにぎわい施設が増える中、市民・来街者を問わず、市内を周遊していただくにはということを主眼において、デジタルを活用した情報発信、モビリティの導入に取り組んでいますが、一方で、そのような周遊に生活の時間を当てるためには、遠方の市役所や病院などに行かなければいけない状況を改善する必要があると考えています。オンライン診療は、持続可能な医療提供体制の確保のための有効な対策の一つであり、かつ市民の方々からすれば「行かなくてもよい」を実現できるものだとも考えています。
民間企業が地域課題の解決に向き合う意義
モデレーター:本事業において民間企業のNTT東日本様が参画された理由を教えてください。
中野:当社が生業としてきた固定通信事業は、今後の市場拡大が難しい事業であると捉えております。そのため、新しい事業領域の可能性を探る中で、NTT東日本は東日本エリアの都道県に営業拠点を置いており、地域に根ざしている強みがあります。
ここ数年、地域の活性化やまちづくりを進めてきた中で感じたのが、東北は日本全国が今後直面していく地域課題が真っ先に発生するエリアだということです。東北で今起きていることが東京で10年、15年先に起こる。そこで私達としては、東北をモデルにして新しいビジネスを作り、将来的に東京やその他全国で展開するということを考えています。今回は同様の課題感をもつ安藤先生、髙野課長と接点を持つことができ、地域課題を解決できる大きな可能性を持つオンライン診療に関わらせていただきました。
安藤:NTT東日本さんは次世代の通信はもちろん、センサーを使って身体情報を得るといった非常に先進的な研究もしていらっしゃるので、医療をやっている側としては非常に頼り甲斐があります。
髙野:それに加えて、地域事業におけるパートナー選びでは地域貢献のマインドはとても重要な要素だと思います。NTT東日本さんは「地域のために」という想いが至る所で見えて非常に心強いです。
中野:ありがとうございます。当社ができる地域貢献の一つに様々な会社・団体を束ねて繋げていくというミッションがあると考えておりまして、今回はプロジェクトマネジメントを担当させていただきました。
ご一読いただき有難うございました。後編では、「仙台モデル」が切り開くオンライン診療の価値と未来についてお話しておりますので、乞うご期待くださいませ。
後編はこちらからご確認いただけます。
仙台から切り開くオンライン診療の未来。産学官が一つになった挑戦で「窓」が生み出す価値とは(後編)