製造業や工事業などで使用する間接資材2,000万点以上を取り扱うECサイト「monotaro.com」。登録顧客数857万件超(2023年6月末時点)、13年連続で最高益を更新するなど勢いが止まらない同サイトを運営するのが、株式会社MonotaROです。全国に複数の主要物流拠点を持つ同社では、施設内やラインの稼働状況を定点監視するためにカメラを設置。防犯以外にも、生産性向上や業務効率化、作業者の安全性担保といった用途に活用しています。本記事では小売と物流における「映像による現場の課題解決」についてお話をうかがいました。
出庫拠点に定点カメラを設置、オペレーション業務の最適化を図る
モノタロウの出庫拠点からは、1日に数万ケースの商品が出庫されます。万が一出庫拠点でスタック(滞留)が発生すると、お客様への荷物の到着が遅れてしまいかねません。そのようなことを防ぐため、映像で確認して管理することで、日々のオペレーション業務改善に生かしています。
一例を挙げると、物流の工程は主に、入荷・棚入れ・梱包・出荷があります。その日のセールの予定に応じて人員の配置を計画しますが、実際に業務が始まると、まず映像で現場の状況を確認し、必要があれば倉庫の現場担当とすぐに連絡を取って応援人員を送るなど、映像を活用して工程の作業が滞らないよう柔軟に対応しています。
物流センターの管理本部では、倉庫内のカメラの映像を、全社員がみられるようにしています。当社の物流拠点は広大なので、映像で確認することで現場に行く手間を省いています。
設備の「チョコ停」が商品の出荷に大きな影響を及ぼす
物流倉庫内では、安全管理にカメラを利用するケースもあります。倉庫内でトラブルが起きた際の検証・解決・改善に動画を活用。特に「チョコ停」の原因を特定し、解決するためにカメラの映像が役立っています。
「チョコ停」とは一時的に設備が停止するトラブルを指します。中でも多いのは、コンベアの異常停止トラブルです。
たとえば、商品はコンテナに納められコンベアで運ばれていくのですが、重心が悪かったり偏っていたりするとコンテナが傾いてしまうことがあります。その異常をセンサーが感知すると、ラインが停止します。その場合、傾いたコンテナを元に戻すなどすれば、比較的短時間で復旧できます。
機械の故障やシステムがダウンして数時間動かなくなるような大きな停止ではなく、数分のあいだ機械やシステムが停止することを「チョコ停」と呼んでいます。
「チョコ停」は、1日のうちに何度か発生することもあれば、まったく発生しないこともあります。発生頻度が出荷量に比例するというわけでもなく、トラブルが起こる場所もまちまちという厄介な存在です。
1つひとつの「チョコ停」は小さなものだったとしても、コンテナは絶えず流れているので、他の工程への影響は免れません。設備が停止し滞留が発生すると出荷に大きな影響を与えることもあり、物流の効率性を阻害する大きな要因となります。
「チョコ停」は発生時間も場所もバラバラです。それを人が絶えず見守ることは非効率なため、カメラを設置して設備の稼働を見守ります。ただし、物流センターは面積が広大なので、すべて網羅できるようカメラを設置すると膨大な数になってしまいます。そこで、ラインの合流点などの重要箇所や人の目が届きにくい箇所などに絞って定点カメラを導入しています。
さらに、定点カメラとは別にコンパクトなウェアラブルカメラも併用しています。ウェアラブルカメラ「Safie Pocket2(セーフィー ポケット ツー)」はコンパクトで画質がよく、バッテリー内蔵で電源も不要なため、どこにでも簡単に設置が可能です。設備の稼働状況を見守るというよりは、チョコ停の発生原因を探るためにウェアラブルカメラを活用しています。
カメラを活用し、「起こりやすい箇所」でのチョコ停を未然に防止
設備管理担当の使命は、ラインを「止めない」「すぐに復旧させる」「次に同じトラブルを起こさない」ことです。万が一「チョコ停」が発生した場合には、可能な限り早く復旧させなければなりません。また、同じ原因で「チョコ停」が起こらないよう防止する必要があります。チョコ停は同じ事象によって引き起こされることが多いので、トラブルが起きた箇所にウェアラブルカメラを設置し、「チョコ停」が発生した前後の映像を捉えることによって原因を探ります。
ウェアラブルカメラは、設置のための特別な設備が不要で、ラインに影響を与えることもなく、撮りたいところを撮影できます。
実際にカメラを活用して「チョコ停」を防止した次のような例があります。ある時、装置のエレベーターにコンテナが流れず、自動停止するトラブルがありました。この現象は常に起きるわけではなく、時々発生する程度で原因がつかめません。そこで、定点カメラの映像をもとに該当箇所にウェアラブルカメラを設置。しばらくして同じ現象が発生した際、その瞬間を映像に収めることに成功しました。この映像を装置のメーカーにも見てもらい検証を重ねた結果、冬の寒さで装置の金属やゴムがわずかに縮み、装置にズレが生じたことでセンサーが異常を感知したことがわかりました。
「モノの流れ方が悪かった」「装置そのものに不具合があった」「プログラム上問題があった」など、トラブルの原因は多岐にわたります。モノタロウではこれまで、そうした原因の特定を「恐らくこうだろう」という予測で行っていました。ウェアラブルカメラの設置後は、トラブルが起きたときの一部始終が映像で記録できるようになったため、しっかりと証拠をもって原因の特定が行えるようになりました。メーカーとのやりとりもスムーズになるなど、ウェアラブルカメラは今やトラブルの原因追求に欠かせないツールとなっています。
「チョコ停」に限りませんが、映像によって原因が突き止められたトラブルはこれまで20件ほどあります。あくまで試算ではありますが、トラブルによってラインが止まっていた時間の作業ロスを金額換算すると80万円程の損害が生じていたと考えられます。もしもカメラの映像がなく、トラブルの原因が突き止められなかった場合には、さらに作業ロスが発生していたはずです。それを防止できたことでより大きな損害を食い止めることができました。
なお、カメラの用途は物流施設のトラブル監視・防止だけにとどまりません。防犯対策としても使用しています。モノタロウでは、物流拠点のエントランスをはじめ、危険物保管庫や各種設備やエリアにカメラを設置。本社や各拠点のオフィスでも、エントランスなどの出入り口には必ず設置しています。
労働災害など安全面での活用も視野に。「映像」が持つ可能性
モノタロウでは今後、カメラを労働災害など安全面でも活用できるのではないかと考えています。笠間ディストリビューションセンターでは、ここで働く作業員を対象に「安全道場」という研修を行い、労働災害の防止に努めています。実際に起きてしまった事故の映像などを、生の教材として使うことができれば、より安全な作業への教育につながります。また、他の拠点に事例を共有することで、より高い安全意識を保つことができるようになると考えています。
笠間ディストリビューションセンターの橋本さんは以前、地震が発生した際に、センターに設置した定点カメラの映像を自宅から確認したそうです。このとき、リアルタイムな映像をリモートで確認することで、現場に行かずともトラブルを把握し、指示を出せるのではないかと考えました。センターは夜中も稼働しており、社員が出勤していないときにトラブルが起こることもあります。その際リモートで状況を確認できれば、センターに駆けつける頻度が減り、何より、タイムリーな対応が取れるよう改善できるのではないか。そんな可能性を感じています。
取材協力
株式会社MonotaRO
笠間ディストリビューションセンター 物流部門
設備管理グループ グループ長 齋藤数人さん
設備管理グループ 橋本正美さん