ハイブリッドワークが普及した現在、「実際にどれだけのスペースが必要なのか」「オフィスはどのように使われているのか」といった疑問に対して、感覚ではなくデータに基づいた判断が求められています。
前編の記事では、セーフィーが自社オフィス内の空きスペースをカメラの映像データと仮説検証によって分析し、利用者を17倍に増やした取り組みをご紹介しました。その過程で、「社内に設置した約30台の映像データをどう管理し、分析するか」といった新たな課題が見えてきました。
本記事では、この課題を解決するために開発した「管理者向けダッシュボード」について詳しくご紹介します。「席が足りない」という社内の声と実際のデータとの間にあるギャップが明らかになった事例など、オフィスづくりや施設管理に関わる総務・人事・経営企画の皆様にとって参考になるはずです。
▼前編の記事はこちらから
自社事例公開!オフィス×AIカメラで空きスペース利用者が17倍UP
目次
お話を伺った人:和田さん、澁谷さん
今回のプロジェクトを主導したのは、次の2名です。
※所属・肩書は2025年5月時点の情報です。
和田啓介(わだ・けいすけ)さん:経営管理本部 人事総務部 総務グループ所属。オフィス環境の最適化を担当し、今回のプロジェクトではユーザー視点での要件定義から方針決定、実運用までを主導しました。
澁谷海(しぶたに・うみ)さん:開発本部 ソリューション開発部 先行開発グループ所属。セーフィーのプロダクトやサービスを活用したソリューションの企画開発を行っており、今回のプロジェクトでは複数カメラのデータ統合システムやダッシュボードの設計・開発を担当した「技術側」のリーダーです。
これまでどのような課題があったのか?
セーフィーの総務部では「オフィス環境の効率的な管理」を目指しており、その一環から「座席の利用状況を正確に把握したい」という課題がありました。
もともと社内には約30台のカメラを設置していますが、和田さんによれば、各カメラ映像を個別に確認することは、時間も手間もかかって現実的ではなかったとのこと。そこで浮かんだのが、「すべての映像を一覧で見られる仕組み」でした。
しかし、そこから社内での議論を進めるうちに、「実際に必要なのは映像そのものではなく、座席利用の数値データの確認ではないか」という認識に至ったそうです。この気づきをもとに、社内における課題を改めて整理しました。
①すでに設置されている約30台のカメラから得られる「人数の数値データ(※)」を簡単に確認できる仕組みが必要
②感覚や印象ではなく、定量的な数値をもとにした議論を可能にするデータが必要
③カメラから収集される数値データを十分に分析できていない
これらの課題を解決するため、全カメラから得られるデータを一元管理して、手元で簡単に閲覧・分析できるダッシュボードの開発に着手することになりました。総務部が自らの業務で活用するだけでなく、経営層への報告資料作成にも対応できる、使いやすさを重視した設計が求められました。
※ここのページで示している「人数の数値データ」とは、性別・年齢・個人の特定などプライバシーに関わる情報は一切含まず、単に「いつ・どこに・何人いたか」という匿名化された統計情報のみを指します。
何についてのデータをとりたいのか?
ダッシュボード開発にあたって、まず取り組んだのは「どのようなデータを収集・分析すべきか」という点の明確化です。議論を重ね、最終的に以下3つのデータに焦点を当てることに決めました。
①オフィス全体の利用人数:1日の中で最大何人がオフィスを利用しているのか
②時間帯別の滞在人数:時間ごとの平均利用人数の推移(いつオフィスが混雑するか)
③座席の利用率:各テーブルの座席あたりの使用状況
データ収集にあたっては、「何をもって『席を使っている』と判断するか」という基準も重要でした。「単に通りがかりに立ち寄っただけの人をカウントしても意味がない」と考えた結果、「席に座っている人」だけを対象にすることに決め、次の2つの仮説を立て、より正確な座席利用の把握を目指しました。
①実質的な会議や作業は30分以上続くこと
②基本的に業務のまとまり(=業務単位)ごとに同じテーブルで作業すること
管理者向けダッシュボードに必要な要素
集めたデータを総務部が日常業務や経営層への報告に活用できる形で提示することは、ダッシュボード開発の成功を左右する要素といえます。
ダッシュボード開発にあたり、まず主なユーザーとなる総務部が具体的にどのような使い方をしたいのか、具体的にどのような場面で使うのかを詳しくヒアリングしました。その結果、日常業務での活用はもちろん、経営層への報告などにも役立つよう、前年比較や変化量などの「比較機能」へのニーズが特に高いことが明らかになりました。
これらのヒアリングを基に、ダッシュボードに盛り込むべき要素は「必須」と「あれば理想的」の2段階に整理されました。
必須要素(マスト要素)は、以下の4つです。
①期間選択と比較機能:任意の期間を選んで比較できること
②階層的な分析:全体・本部・部署別など、さまざまな粒度でデータを分析できること
③時間別推移の可視化:時間帯による利用傾向の違いを把握できること
④直感的なUI設計:使いやすい構成と配色の工夫があること
あると望ましい要素(ベター要素)は、以下の4つです。
⑤短期間での比較:異常値の迅速な発見のため
⑥座席マップの表示:視認性の向上のため
⑦多様なグラフ表示:データをより理解しやすくするため
⑧rawデータの閲覧機能:より詳細を確認できるようにするため
こうして完成したダッシュボードは、上記で挙げた必須要素(①~④)とベター要素(⑤~⑧)をすべて実装し、「座席の傾向を見る」だけでなく、「これからオフィスをどう改善していくか」を考えるための強力なツールとなりました。
次の章では、これらの機能がどのように実際のダッシュボード上で活用されているかをご紹介します。
【完成】執務室全体の利用人数を表すダッシュボード
上の画像は、完成したダッシュボードの一部です。さまざまな角度からオフィスの利用状況を直感的に把握できるよう、4つの視点でデータを可視化しています。
左上は「今月の平均利用人数」を表示し、先月との比較も一目でわかります(必須要素②階層的な分析を実装)。「先月比8.49%減」のように、変化の度合いがすぐに把握できます。
左下では、「昨年の同じ時期」「特定のイベント前後」などのように、任意の期間を選択して比較できます(必須要素①期間選択と比較機能を実装)。季節要因の分析、長期的な傾向を見るのに役立ちます。
右上は「時間帯別月平均滞在人数」です(必須要素③時間別推移の可視化/④直感的なUI設計を実装)。1日の中でいつ人が多いのか、時間帯ごとの滞在人数を色の濃淡で表現しています。昼休み休憩をとる人が多い12時~14時の時間帯、退社する人が増える19時以降は、人が減っていることが分かります。
右下は「本部別」による利用人数を、先月と今月で比較したグラフです(必須要素④直感的なUI設計、ベター要素⑦多様なグラフ表示を実装)。各本部を異なる色で表示することで、「どの部署がどれだけ増減したのか」が一目瞭然になっています。
営業本部テーブル別の使用率①
ダッシュボードでは、全部門での概観のみならず、特定部門の詳細データも分析できます。こちらの画像は営業本部に焦点を当てた画面です。
上段の左右の図は、各ビジネスユニット(BU)やマーケティング部など、全15テーブルの使用率が先月・今月で比較表示されています(必須要素④直感的なUI設計、ベター要素⑥座席マップの表示/⑦多様なグラフ表示を実装)。色分けされた折れ線グラフにより使用率の変化を直感的に把握できるほか、右側にテーブルの位置を示した社内マップを配置し、各テーブルの物理的な位置も把握できるようになっています。
そして、下段の左を占める図は、「データの粒度を細かく見たい」というニーズに応えています(ベター要素⑧rawデータの閲覧機能を実装)。各テーブル別のRAWデータが表示され、より詳細な分析が必要な場合に活用できます。
下段の右側を示すのは「短期間での部署別利用率」の比較で、部署ごとの利用パターンの違いを把握するのに役立ちます(ベター要素⑤短期間での比較を実装)。
営業本部テーブル別の使用率②
さまざまな切り口からデータを分析できるのがダッシュボードの強みで、この画像では、営業本部の利用パターンを時間帯別・期間別に詳しく掘り下げています。
左上段では、営業本部の全15テーブルの時間帯別滞在割合を示しています(必須要素③時間別推移の可視化/④直感的なUI設計を実装)。「どの時間帯に、どのテーブルが使われているのか」は、オフィスの最適な運用を考えるうえで重要です。色の濃淡で利用状況を表現しているのもポイントです。
左下段では先月との比較データが表示され、利用パターンの変化の確認も容易です(必須要素②階層的な分析を実装)。
右側では、任意期間で詳細分析が可能です(必須要素①期間選択と比較機能を実装)。自由に期間を選択して分析できるため、季節ごとの傾向やイベント前後の変化を見たい場合などに役立ちます。下段では選択した期間の部署別利用率を確認できるため、例えば「特定のプロジェクト期間中はどうだったか」といった分析などが可能です。
データの可視化を通して分かったこと
オフィスの座席データをダッシュボード化したことで、これまで「感覚」や「印象」に頼っていた座席利用の実態が、客観的な数値として明らかになりました。この可視化によって浮かび上がった発見をいくつか紹介します。
「席が足りない」という声の真相
総務部の和田さんによれば、ある部門から「となりの部署は空いている席が多いのに、自分たちは狭いから席を増やしてほしい」という要望が寄せられたことがあったそうです。
しかし、その要望を寄せてきた部門についてダッシュボードでデータを確認してみると、実際の座席利用率は80%にも達していませんでした。これは「狭くて席が足りない」という感覚と、データが示す実態との間にギャップがあったことを示しています。
データから見えたのは、単に席の数が足りないのではなく、使い方に課題があるケースもあったようです。
たとえば、ある部署では打ち合わせなどで席を長時間空けることが多いものの、荷物が置かれていて他の人が使えない状況になっていました。カメラ映像とデータを組み合わせて分析すると、「席は空いているが使えない」という状況が浮き彫りになったのです。
こういった発見により、単に「席を増やす」という対応ではなく、「出社頻度の高い部署のスペース拡充」など、より実態に即した解決策の検討につながっています。
部門別データから見えた利用パターン
企画本部内の4つの部門(企画①:エンタープライズ、企画②:デザインセンター、企画③:AIソリューション、企画④:IoTソリューション)のデータを分析したところ、ある傾向が見られました。
部門の中でも特に人数が多い、デザインセンターの利用率が最も高いことがわかったのです。このデータから、もしもデザインセンターに新しいメンバーが増えた場合には席不足が問題になる可能性が高いと予測できます。
また、企画本部全体のデータを時系列で見ると、すべてのテーブルで同時期に利用率が上下する傾向が見られました。これは季節的な要因や全社的なイベントなど、外的要因の影響があることを示唆しています。
新卒入社がもたらす影響
開発本部のデータからは、興味深い発見がありました。2024年1月~3月と4月~6月を比較したところ、後者の期間で利用率が増加していたのです。これは、4月に新卒社員が入社し、研修などのために出社する機会が増えたことに加え、先輩社員も指導のために通常より多く出社したためと考えられます。このように、開発本部全体の出社率が高まったことが、データから読み取れるでしょう。
「管理者向けダッシュボード」の仕組み
これまで紹介してきたダッシュボードは、どのような仕組みで動いているのでしょうか。基本的な仕組みを簡単に解説します。
シンプルな3ステップの流れ
こちらの図がオフィスデータ可視化の仕組みで、次の3つのステップで動作しています。
- データの収集:社内に設置した約30台のセーフィーのカメラが、オフィス内の人の動きを捉える
- データの整理:収集された情報が、裏側で自動的に処理・整理される
- 分かりやすく表示:整理されたデータが、管理者向けダッシュボードに見やすく表示される
※「Safie AI People Count」は個人の特定や追跡などの利用は行いません。
Looker Studioで直感的なデータ表示を実現
ダッシュボードの見た目と操作性を担当しているのが「Looker Studio(ルッカースタジオ)」というツールです。主な利点として、「数値データを見やすいグラフやチャートに自動変換」「管理者が必要な情報を直感的に把握できる画面設計」「プログラミング知識不要で、誰でも操作可能」といった点があります。
データ処理の裏側
ダッシュボードの裏側では、BigQueryというGoogleのサービスと、AWSというAmazonのクラウドサービスが連携して、データを効率的に処理しています。簡単に言えば、「複数のカメラから集まる大量のデータを裏側でうまく処理し、Looker Studioを通して管理者が見やすい形に整理する」という仕組みです。
このバックエンドシステム全体の主な機能として、以下の3つがあります。
- セーフィーのカメラ映像から人数データを自動的に収集・抽出
- 複数カメラのデータを統合し、部署別・時間帯別などに整理
- データを定期的に更新し、常に最新情報を提供
まとめ:データの可視化がもたらす価値
今回ご紹介したセーフィーの社内事例は、「複数台の映像データをどう管理し、分析するか」という課題から始まりました。個々のカメラ映像を一元管理し、直感的に理解できるダッシュボードに変換したことで、散在するデータの一元化・数値化による客観的判断・あらゆる切り口によるデータ分析が実現しました。
総務担当者の方をはじめ、映像データを統合・管理してオフィスの最適化を目指す方へ向けて、ポイントを2点お伝えします。
1つ目は、目的を明確にすることです。「何を知りたいのか」「どのような意思決定に活用するのか」を明確にして、そのために必要なデータの分析方法を決めましょう。2つ目は、使いやすさを優先することです。実際の利用者が使いこなせなければ意味がないので、直感的に操作できる設計を最優先しましょう。
セーフィーでは、今回の事例のように複数カメラのデータを統合し、さまざまなビジネス課題の解決に活用いただけるソリューションを提供しています。カメラの映像データの統合・管理・可視化に関心をお持ちの方は、ぜひお問い合わせください。
- いつでもどこでも映像が見られるクラウドカメラ
- スマホやパソコンから店舗・現場を見える化
※ セーフィーは「セーフィー データ憲章」に基づき、カメラの利用目的別通知の必要性から、設置事業者への依頼や運用整備を逐次行っております。
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