介護現場における介護事故は、転倒・転落事故や誤嚥事故などさまざまです。この記事では、起こりやすい介護事故の事例集をまとめています。あわせて、介護事故が起こる原因や起きた際の対応についても紹介しますので、介護事故対策や防止に役立ててみてください。
目次
介護事故が起こる原因
介護事故が起こる原因として考えられるのは、主に職員・事業所側に原因がある場合と利用者側に原因がある場合の2パターンです。まずは介護事故がなぜ起きるのか、その原因について見ていきましょう。
職員・事業所側に原因がある場合
職員の人員不足や訓練不足が原因で事故につながるケースです。
たとえば、人手不足が原因で職員に疲労が溜まって判断が鈍ったり、職員同士の連絡が密に取れていなかったりするなどが原因で事故が発生することがあります。また、介助技術が不足していて、車いすへの移乗時などに利用者を転倒させてしまうケースなどもあります。
利用者側に原因がある場合
利用者に認知症の症状や身体機能の障害などがあり、動作に何らかの制約があることで介護事故につながるケースです。
身体的制約がある利用者は基本的に介助が必要ですが、中には自力で対応しようとする人もいます。その結果、無理な動作をして転倒や誤嚥などの事故につながってしまうことがあります。
介護事故の種類と事例
介護事故で起こりがちな事故の種類と事例を紹介します。主な種類は次のとおりです。
- 転倒・転落事故
- 誤嚥事故
- 誤薬事故
- 誤飲・誤食
- 無断外出
- その他の事故
それぞれ詳しく見ていきましょう。
転倒・転落事故
転倒事故とは、利用者が介護施設内または介護施設外で、つまずいたりバランスを崩したりして転倒する事故のことです。全身の筋力やバランス能力などは年齢によって衰えていくため、転倒・転落事故は高齢者に起こりやすい事故のひとつです。
転倒・転落事故の事例①:歩行中の転倒
利用者のAさんは、身体機能の衰えもあり、歩行中にふらつくようになっていました。あるとき、職員が背後からAさんに声をかけたところ、Aさんは振り向いた際にバランスを崩して転倒してしまいました。
この事故を防ぐためには、次のようなことが求められます。
- Aさんがふらつくようになったという情報を職員間で共有しておく
- 高齢者に背後から声をかけるのは転倒の危険性を高める原因になることを理解しておく
できるだけ利用者に近づいて、視界に入った位置で声をかけるようにすることが事故予防につながります。
転倒・転落事故の事例②:車いすからの転落
Bさんは、車いすからベッドへ戻る際に床に落ちた物を拾おうとしたところ、視力低下の影響もあり車いすから転落し、右足を骨折してしまいました。職員が居室を巡回中、車いすから転落して仰向けになっているBさんを発見しました。
この事故を防ぐためには、次のようなことが求められます。
- 必要なときはコールを押してもらうよう説明しておく
- ベッドへ戻るまでの誘導と、見守りの徹底を行う
転倒・転落事故の事例③:車いすからの移乗における立ち上がり時の転倒
Cさんは、食堂のいすに車いすから移動して座る際に、バランスを崩して転倒し左足骨折のケガを負いました。いすへ移動する際、Cさんが座りやすいように職員がいすを引きましたが、Cさんがすぐに移動しようとしたことでタイミングが合わず、バランスを崩してしまいました。
この事故は、職員による利用者の観察が不十分であったこと、立ち位置が不適切であったことが原因として挙げられます。こういった事故を防ぐためには、本人の観察をしっかり行いつつ、適切な立ち位置から声がけを行い、介助を行うことが重要です。
転倒・転落事故の事例④:機能訓練(リハビリ)時の転落
自主訓練の申し出をしたDさんは、職員による見守りのもと、階段昇降の訓練を行っていました。しかし、降りる訓練中にバランスを崩して転落し、ケガをしてしまいました。
この事故は、訓練中の別の利用者の安全を確保した職員がDさんの介助に入ろうとし、その直後に転落が起こっています。
この事故を防ぐためには、自主訓練の申し出があっても、他の利用者の機能訓練などで十分な見守りができない可能性がある場合は、時間帯の変更や安全性の高いメニューに変更するなどの対応が必要です。
誤嚥事故
誤嚥事故とは、食べ物や飲み物などが誤って気管に入ってしまう事故のことで、高齢者に多くみられます。口の中で噛んだ食べ物を飲み込む嚥下機能や、筋力が低下していることが原因です。適切な方法で食事介助をしないと誤嚥性肺炎を発症する恐れが高まり、注意しなければなりません。
誤嚥事故の事例①:食事中の事故
Eさんは嚥下機能が低下しており、普段から誤嚥を引き起こしやすくなっていました。そのことを知らない職員が食事介助をしたところ、誤嚥を引き起こしてしまいました。
この事故を防ぐためには、次のようなことが求められます。
- Eさんの状態を共有しておく
- ひと口の大きさや量を小さくする
- 全部飲み込んでから新しい食べ物を口に運ぶようにする
誤嚥事故の事例②:口腔ケア中の事故
Fさんは、昼食後のベッドの上での口腔ケア中、うがいのための水でむせ込んで誤嚥を起こしてしまいました。口腔ケアの際、うがいをした水が口腔内に残っており、気管へ入ったことが原因と考えられます。また、ベッドを起こす角度も不十分でした。
この事故を防ぐためには、次のようなことが求められます。
- 口腔ケア後、食べ物の残りや水の有無を確認する
- 口腔ケア時の体勢が適切か確認する
誤嚥事故の事例③:体調急変による嘔吐物による誤嚥事故
体調急変によって嘔吐したGさんが、自身の嘔吐物を誤嚥し喉に詰まらせてしまいました。施設では、事故発生時の対応として医療・介護の連携体制は整備されていましたが、急な体調変化までは見極められませんでした。
こういった事故の対策として、状態観察で体調や行動が普段と違うと思われる場合には、医療者と連携を図り、早期の受診を実施するなどの対応を行うことが挙げられます。
誤薬事故
誤薬事故とは、本来投与すべき薬とは別の薬を投与したり、本来投与すべき時間とは別の時間に薬を投与したりする事故のことです。誤薬事故は、介護施設または職員による薬の管理が不十分な場合や、記録の付け忘れ、情報共有の不備などが原因とされます。
誤薬事故の事例
Hさんは、夕食後に同じテーブルの他の利用者の薬をもらって服用してしまいました。事故の原因は、薬を配ったあとに職員が服用の確認を怠ったこと、Hさんが他の利用者の薬をもらうという行為を想定していなかったことが挙げられます。
この事故を防ぐためには、服用の確認や、他の利用者から薬をもらうこと・他の利用者に薬をあげないよう伝えることが重要です。
誤飲・誤食
誤飲・誤食事故とは、高齢者が食品や医薬品以外のものを間違えて口にする事故のことです。自分では気づかないケースが多いため、周囲の家族や介護職員らが気を配ることが求められます。
誤飲・誤食の事例①:手洗い用液体石けんを飲料と間違えた事例
Iさんは、洗面所で手洗い用液体石けんを飲料と間違えて飲んでしまい、嘔吐してしまいました。
この事故は誤認が原因であるため、手洗い用液体石けんの容器に「石けん」「飲めません」などとわかりやすく記載する必要があります。また、洗面所内の見守りを強化する方法も有効です。
誤飲・誤食の事例②:ものを口に入れてしまう傾向がある利用者による誤食事故
Jさんは、普段から食べられないものを口に入れてしまう傾向があり、使い捨てカイロの袋を開けて中身を口に入れていました。
この事故は、ゴミ箱に捨ててあったカイロを取り出して中身を口に入れていたため、見回りを強化するだけでなく、ゴミ箱内のゴミを利用者が取り出せないように工夫するなど、何重もの対策が必要です。
無断外出
施設では、無断外出にも注意が必要です。
無断外出の事例①:担当者が席を外したことによる事故
施設の玄関を監視する日直者が、他の用務で席を外していたことが原因で、利用者が施設から抜け出して自宅へ自力で帰ってしまった事例です。
この事故では、席を外すことを他の職員へ声がけしていませんでした。緊急時以外、他の用務を日直者が行わないようにし、席を外す際は、必ず他の職員に声がけを行うことが求められます。
無断外出の事例②:送迎時の所在確認が徹底されていないことによる事故
施設から自宅へ送る際、施設の玄関から車両へ誘導するときに利用者の行方不明が判明した事例です。送迎時の混雑で所在確認が徹底されていなかったことや、職員の見守りが適切に行われていないことが原因として挙げられます。
改善策としては、送迎時間帯に利用者を確認する方法を見直すほか、利用者の行動把握に努めることが有効です。
その他の事故
その他の事故事例としては、次のようなものが挙げられます。
その他の事故①:処置後の確認ミスによる事故
胃ろうの入所者へ栄養剤投与を行ったあと、車いすからベッドへの移乗の際に、胃ろうカテーテルが抜けてしまった事例です。胃ろうカテーテルの位置をしっかりと確認せずに移乗介助を行ったことが原因でした。
改善策としては、カテーテルを適切に収納する、移乗の際にカテーテルの位置の確認を徹底することが挙げられます。
その他の事故②:湯たんぽにより低温火傷を起こした事故
麻痺側の足に湯たんぽが当たっていて、低温火傷を起こしていた事例です。湯たんぽには専用カバーではなくバスタオルを巻いており、体動によりずれてしまっていました。
麻痺などで熱感のない利用者の場合、湯たんぽで保温するのではなく、電気毛布などに代替することが求められます。
介護事故が起きたときの対応
介護事故が起きた際は、速やかに対処することが大切です。ここでは、対応方法を紹介します。
利用者の安全確保
まずは、利用者の安全を確保することが大事です。必要があれば適切な処置をとりましょう。利用者の状態によっては救急車を手配する必要もあります。
1人で対処できないと判断した場合は、すぐに上司に連絡・報告して指示を仰いでください。
家族への連絡
初期対応が終わったあと、利用者の家族に連絡します。その際には、次の内容を家族へ説明します。
- 介護事故が起こったこと
- 事故の内容と利用者の現在の状況
- その後の対応について
事故が発生したと分かれば気が動転する可能性が高いため、内容がしっかりと伝わるように丁寧に伝えることを心がけましょう。
関連機関への報告
介護事故の内容に応じて、自治体や警察などの関連機関に報告を行います。たとえば感染症の場合は、保健所や自治体などが当てはまります。
その際は、「いつ」「どこで」「誰が」「どのようなときに」事故が起こったのかを詳しく報告するようにしましょう。
介護事故が発生したときに負う責任
介護事故が発生したときに負う責任について、事業所・職員それぞれの観点で見ていきましょう。
事業所の責任
事業所の責任には、民事上の責任(損害賠償)と行政上の責任(指定取消)の2つがあります。
民事上の責任とは、介護事業所が、利用者と締結した契約にしたがって負う債務を履行しなかった際に負う、金銭賠償の責任です(※1)。各事案でどのような注意義務を施設が負うべきであったのか、という点が重要になってきます。
一方の行政上の責任とは、指定の取消しや指定の効力の一時停止などの処分です(※2)。
介護事業所は介護保険を利用した介護事業を運営するために、都道府県または市町村からの指定のもと、行政監督を受けています。そのため、介護事故を通じて、都道府県の条例で定める基準などを満たせなくなったときには、重い処分が下されることを覚悟しなければなりません。
職員の責任
職員の責任は、刑事上の責任(業務上過失致傷罪)です。業務上過失致死罪では、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処するものとされています(※3)。
介護事故を防ぐための方法
介護事故を防ぐためには、事故の要因を分析して対策を考える方法と、既存対策を見直す方法の2つが考えられます。
事故の要因を分析し対策を考える
介護事故が起こる要因としては、次のようなことが挙げられます。
- 職場の人員配置
- 業務手順
- 職員の注意不足・確認不足
- 職員の知識・経験不足
- 設備の不具合
- 設備の誤使用
対策を検討する場合には、要因ごとに対策を考えて確実に実施することが重要です。たとえば、介助方法を職員が理解していないことで事故が発生したのであれば、職員の知識・経験不足が原因であるため、「介助方法の研修を開く」「業務マニュアルを作成する」などの対策が考えられます。
設備が要因であれば、定期的な設備点検の実施や設備の刷新などがあるでしょう。
新たな設備の導入を検討する場合、介護事故防止にはクラウドカメラの設置が有効です。クラウドカメラがあれば、施設内における転倒や誤飲・誤食、無断外出といった介護事故の経緯を映像で確認できます。
クラウドカメラサービスは多く存在しますが、おすすめはクラウド録画サービス「Safie(セーフィー)」です。撮影した映像はクラウド上に録画されるため、24時間、いつでもどこでも映像を振り返れます。次章では実際にSafieを介護現場に導入した事例を紹介していますので、ぜひご覧ください。
対策を見直す
対策自体は既にあるものの、そのうえで介護事故が起きたのであれば、その内容が不十分である可能性があります。その場合は既存の対策を見直すことが大切です。
たとえば、現在の見回り担当者が1人で、それでも介護事故が起こるようであれば、担当者を2人にするなどです。
介護事故にはクラウドカメラの活用が効果的
先にも紹介した通り、介護事故の防止には、クラウドカメラの活用が効果的です。ここでは、Safieのクラウドカメラを導入した事例を紹介します。
より良い介護サービスの実現に活用している例
愛知県内で介護施設や保育園を運営している「株式会社メグラス」では、介護の現場にICTツールを積極的に導入し、職員が安心して働ける環境づくりを進めています。
同社では、インシデント発生時の客観的な状況把握のために、Safieのクラウドカメラを導入しました。クラウドカメラを導入したことで、何が起きたのかを客観的に映像で確認できるようになり、利用者と家族に安心感を提供できているそうです。また、映像で説明できる体制が整備されたことで、職員の安心にもつながっています。
さらに、映像を事故現場の確認として利用するだけでなく、映像の確認過程で見つかったケア方法の注意点などを職員と共有することで、質の高いサービス提供にも活かせているそうです。
転倒やひとり歩きのリスクマネジメントに活用している例
在宅医療・介護を中心に多角的な事業を展開する「HYUGA PRIMARY CARE(ヒュウガプライマリケア)株式会社」では、運営する住宅型有料老人ホームにクラウドカメラを導入しています。
介護施設の入館者を確認する目的としてクラウドカメラを導入し、館内における転倒事故の経緯確認や、認知症の方のひとり歩き、迷子のケア確認といったリスクマネジメントにも役立っているそうです。
また、利用者と職員の双方が、クラウドカメラの導入で「何かが起こっても映像で確認できる」と感じており安心感が高まっている、とも話していました。
インシデントの検証&省人化
介護施設の共用部に加えて、クラウドカメラを居室へ導入した事例もあります。ある施設では、トラブルの事実確認のためにクラウドカメラを導入し活用していましたが、居室へも導入し、夜間見回り業務にて活用しています。
クラウドカメラ導入により、夜間見回りのための宿直人員の省人化に成功したほか、インシデント経緯を映像に記録できるため、家族への説明や施設用の振り返りとしても有効活用できているとのことでした。
介護現場でSafieを活用するポイントについては、こちらのページをご覧ください。
クラウドカメラを活用して介護事故に役立てよう
介護事故が起こる原因としては、職員・事業所側に原因がある場合と利用者側に原因がある場合が考えられます。事例を見てもわかるように、対策をしたからといって簡単に防げるわけではありません。
職員・利用者がともに安心して過ごせる空間に施設をするためには、介護事故のリスクマネジメントに努めることが求められます。そこで有効なのが、クラウドカメラの導入です。クラウドカメラを導入することで施設に対する安心感が生まれ、施設がより良い空間になることでしょう。介護事故対策として、クラウドカメラの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
- 介護業界向けクラウドカメラ活用ガイド
- 利用者”も“その家族”も“スタッフ”も笑顔でいるための事例を紹介。課題に合った活用方法についてお気軽にご相談ください。
※1 出典:“e-GOV 民法(415条1項)”. e-GOV. 2024-5-24(参照 2024-10-17)
※2 出典:“e-GOV 介護保険法(77条1項)”. e-GOV. 2024-4-1(参照 2024-10-17)
※3 出典:“e-GOV 刑法(211条)”. e-GOV. 2024-5-24(参照 2024-10-17)
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