建設業界は多くの課題を抱えており、働きやすい環境の整備や業務効率化に向けた取り組みが急務です。特に、2024年問題への対応が求められています。
今回は、建設業界の課題や2024年問題の詳細と、課題解決のために取り組むべき具体的な対策、建設業が導入したいITツールを解説します。ぜひ自社の課題解決にお役立てください。
目次
建設業が抱える課題
少子高齢化や原材料価格の高騰が進んでいる昨今、建設業を取り巻く状況は悪化しています。帝国データバンクの調査によると、2023年に発生した建設業者の倒産件数は1,671件でした(※1)。
前年より38.8%増加しており、増加率が30%を超えるのは2000年以降初とのことです。まずは、建設業が抱える大きな3つの課題について見ていきましょう。
- 人手不足
- 長時間労働の常態化
- 建設資材価格の高騰
※1 出典:”帝国データバンク「『建設業』倒産動向調査(2023年)」”.株式会社帝国データバンク 情報統括部.2024-1-10(参照 2024-5-16)
人手不足
建設業では、人手不足問題が深刻化しています。国土交通省によると、建設業就業者数は1997年には685万人であったものの、2021年には482万人まで減少しました(※2)。
また、建設業就業者のうち55歳以上が35.5%、29歳以下が12.0%と、高齢化が深刻化しています。建設業で人手不足が起こっている背景の1つとして、若年入職者の減少が挙げられます。
建設業はどうしても「労働時間が長くきつい」というイメージを持たれやすく、建設業に興味を持つ若者が減っているのは現状です。離職率の高さも見逃せません。
厚生労働省によると、2020年3月卒の若者について、新卒3年以内の離職率は以下のとおりでした。
新規大卒就職者 | 新規高卒就職者 | |
建設業 | 30.1% | 42.4% |
製造業 | 19.0% | 27.6% |
※2 出典:”厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します~就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者 37.0%、新規大卒就職者 32.3%~」“.厚生労働省 人材開発統括官付 若年者・キャリア形成支援担当参事官室.2024-10-20(参照 2024-5-16)
このように、製造業に比べて建設業の新卒3年以内離職率は高いことがわかります。人手不足解消のためには、若者の就業者を確保・育成する必要があります。
そして、就業者の処遇改善や働き方改革、生産性向上に向けた取り組みを一体として進めることが大切です。
長時間労働の常態化
建設業では、長時間労働が常態化していることも課題です。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、建設業の1ヶ月あたり総実労働時間は162.9時間でした(※3)。
運輸業・郵便業の164.6時間に次いで、全産業の中で2番目に多いという結果です。
長時間労働の常態化を改善しなければ、離職率が高まって人手不足問題が深刻化し、さらに長時間労働問題が悪化する、という悪循環に陥ってしまうでしょう。
※3 出典:”厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年2月分結果速報等」“.厚生労働省 政策統括官付参事官付雇用・賃金福祉統計室.2024-4-5(参照 2024-5-16)
建設資材価格の高騰
建設業では、建設資材価格の高騰も問題視されています。2021年後半から原材料費やエネルギーコストが高騰し、建設資材価格も高騰しているのが現状です。
背景には、コロナ禍によるウッドショックやアイアンショック、ウクライナ情勢や円安の進行などが挙げられます。
たとえば、生コンクリートは2022年4月から2023年4月の間に20.3%、セメントは18.2%、厚板は10.0%価格が高騰しました(※4)。
価格が高騰することで、利益を圧迫して採算性は悪化してしまうことが危惧されています。
※4 出典:”国土交通省「最近の建設業を巡る状況について【報告】」“.国土交通省 不動産・建設経済局.2024-4-18(参照 2024-5-16)
建設業の2024年問題とは
建設業の2024年問題とは、「働き方改革関連法」の適用に伴い発生すると考えられる問題のことです。建設業や物流業界などでは、人手不足や長時間労働の問題が深刻化していたことから、働き方改革関連法の適用が猶予されていました。
しかし、2024年3月で猶予期間が終了し、4月1日からはほかの業界と同様に働き方改革への対応が求められています。
働き方改革への対応は、人手不足や長時間労働の常態化といった課題を解決するためには欠かせない取り組みです。しかし、同時に新たな問題が発生しうることも理解しておく必要があります。
以下では、建設業の働き方改革について理解しておきたい2つのポイントを解説します。
- 時間外労働の上限規制
- 時間外労働の割増賃金率引き上げ
時間外労働の上限規制
1点目は、時間外労働の上限規制です。そもそも時間外労働とは、労働基準法で定められた法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超過した労働時間のことを指します。
上限規制の時間は原則月45時間、年360時間です。超過した場合は労働基準法違反として「6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金」という罰則を課せられる恐れがあります。
これまで従業員の長時間労働によって人手不足を補っていた企業は、時間外労働の上限規制適用によって、さらなる労働力不足問題に直面するでしょう。
時間外労働の割増賃金率引き上げ
2点目は、時間外労働の割増賃金率引き上げです。2023年4月1日より、中小企業について、月60時間を超える時間外労働に対する割増率が25%から50%へと引き上げられました。
この割増賃金率引き上げは、2010年の労働基準法改正によって始まり、大企業のみに適用されていました。中小企業に対しては猶予期間が設けられていましたが、2023年4月1日から適用が開始されたのは大きなポイントです。
時間外労働が常態化している企業では、残業代負担が増加する、つまり人件費負担が増加し、経営を圧迫してしまう恐れがあります。
建設業が課題解決のための対策
建設業には、人手不足問題や長時間労働の常態化といった問題の解決に加え、2024年問題への対応が求められています。
建設業が2024年問題やそのほかの課題解決に向けた対策は、以下のとおりです。できることから着実に進めましょう。
- 労働時間を正しく把握・管理する
- 週休2日制を導入する
- 適切な工期を設定する
- 社会保険に加入する
- ITツールを活用する
- 現場のIoT化を進める
それぞれの対策について解説します。
労働時間を正しく把握・管理する
長時間労働を是正するためには、まずは労働時間を正しく把握・管理することが欠かせません。2019年4月の改正労働安全衛生法により、労働時間を客観的に把握することが義務化されました。従業員による自己申告は原則として認められていません。
タイムカードやICカード、パソコンなどを活用し、労働時間を正しく把握する必要があります。タイムカードやICカードなどの使用が難しい場合は、使用者や管理者が始業時刻・終業時刻を直接確認し、記録しましょう。
労働時間の記録に関する書類は、労働基準法で3年間の保存が義務付けられています(※5)。また、労務管理を行う部署の責任者については、長時間労働が常態化していないか、労働時間管理において問題が発生していないかなどを把握し、問題の解消を図ることが必要です。
※5 出典:”厚生労働省「労働時間の適正な把握のために 使用者が講ずべき措置に関する基準」“.厚生労働省 県労働局 労働基準監督署.2007-6-14(参照 2024-5-16)
週休2日制を導入する
従業員にとって働きやすい環境を整えるためには、週休2日制の導入も効果的です。建設業において、週休2日制は義務付けられていません。
国土交通省によると、2021年度における週休2日の取り組み状況は、全国平均で30.7%と達成率が高いとは言えない状況です。しかし、国土交通省は週休2日の確保を推進しています(※6)。
週休2日制を導入することで、従業員の長時間労働を是正でき、休息時間が増加するのはメリットです。その結果、業務効率化やモチベーション向上といった効果も期待できるでしょう。また、労働環境が改善して魅力的な職場になれば、人材確保にもつながります。
※6 出典:”国土交通省「建設業の働き方改革の推進」“.国土交通省 関東地方整備局 建政部 建設産業第一課.2024-6(参照 2024-5-16)
適切な工期を設定する
適切な工期を設定することも重要です。建設業における長時間労働の原因の1つが、不適正な工期です。建設工事では、工期内に工事を完了させる必要があります。
しかし、工期の設定に余裕がなく、どうにかして間に合わせようとした結果、長時間労働が発生してしまっているケースは少なくありません。長時間労働を是正するためには、受注者と発注者の双方が適切な工期を設定しましょう。
受注側は、適切な工期を算出したうえで、請負契約を締結する必要があります。また、発注側にも適正な工期の設定や施工条件の明確化が求められます。予定どおりの竣工が不可能な場合は、受発注者双方で協議し、工期を設定し直さなければなりません。
適切な工期を設定するためには、国土交通省が発表している以下の資料が参考になるでしょう(※7)。
※7 出典:”国土交通省「建設工事における適正な工期の確保に向けて」”.国土交通省 不動産・建設経済局建設業課.2023-6-21(参照 2024-5-16)
社会保険に加入する
労働環境改善のためには、社会保険への加入も進めましょう。建設業では、健康保険や厚生年金保険、雇用保険、労災保険などの社会保険に未加入の企業も多数存在するとされています。
社会保険未加入は、従業員の処遇の低下や建設業の労働環境の悪化を招き、若者の就業者減少につながりかねません。建設業の社会保険未加入対策については、国土交通省も注力している取り組みです(※8)。
「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」によると、2017年以降、社会保険に未加入である建設企業を下請企業として選定しないよう、元請け企業に要請しています。
また、適切な社会保険に加入していることを確認できない作業員について、特段の理由がない限りは現場入場を認めない旨が記載されています。社会保険未加入の場合は、加入を進めることも重要な施策です。
※8 出典:”国土交通省「建設業における社会保険加入対策について」”.国土交通省(参照 2024-5-16)
ITツールを活用する
人手不足や長時間労働問題に対応するためには、ITツールを活用した業務効率化も効果的です。たとえば、設計図や図面をデータ化して管理することで、必要な情報をスムーズに参照できるようになります。円滑な情報共有も実現できるでしょう。
また、現場の動画をクラウドで共有できるシステムなら、遠隔で現場の状況を確認できたり、指示を出したりすることも可能です。建設業の課題解決に役立つITツールについては後述します。
現場のIoT化を進める
ITツールの活用と同時に重要なのが、現場のIoT化です。IoT(Internet of Things)化とは、現場にあるさまざまなものをインターネットに接続することで、データを取得したり、相互にデータ通信を行ったりすることです。
建設業でIoT化を進めることには、以下のようなメリットがあります。
- 現場業務が効率化する
- 安全性を確保できる
たとえば、現場にネットワークカメラを設置することで、遠隔で現場を管理できるようになります。監督がわざわざ現場を訪れることなく、離れた事業所や営業所から複数の現場を管理できるようになるため、業務効率化を実現できるのがメリットです。
また、従業員のヘルメットにセンサを装着して体のデータを収集できるようにすれば、異変に即座に気づいて労働災害を防止できるでしょう。
建設業の課題解決に役立つITシステム
最後に、建設業の課題解決に役立つITツールを5つ紹介します。
- 勤怠管理システム
- ビジネスチャットツール
- 施工管理システム
- ICT建機
- クラウド防犯カメラ
ITツールを活用した業務効率化を進めたい方はぜひ参考にしてください。また、一般社団法人日本建設業連合会のサイトでは、建設業に役立つICTツールを検索できます(※9)。併せてご覧ください。
※9 出典:”一般社団法人日本建設業連合会「お手軽便利なICTツール集」”.一般社団法人日本建設業連合会(参照 2024-5-16)
勤怠管理システム
労働時間を適切に管理するためには、勤怠管理システムの導入が効果的です。勤怠管理システムとは、出退勤時間の打刻や労働時間の集計、残業申請などの勤怠管理業務を効率化できるシステムです。
ワンタッチで打刻できるものも多く、打刻漏れや入力ミスを防止できます。労働時間も自動で集計してくれるため、従業員の労働時間や残業時間をリアルタイムで把握できます。
一定の残業時間を超えた従業員に対してアラートを出せるシステムもあり、長時間労働の防止にも役立つでしょう。
ビジネスチャットツール
社内での情報共有やトラブル報告などを効率化するためには、ビジネスチャットツールを活用しましょう。紙媒体や電話で連絡する場合に比べて、正確かつスピーディな情報共有を実現できます。
チャット履歴は記録として残せるため、「言った言わない」のトラブルを防げるほか、議事録作成にも役立ちます。ビジネスチャットツールの中でも、現場管理に特化した機能を搭載した建設業向けのものを選ぶのがおすすめです。
施工管理システム
建設業の一連の業務を効率化するためには、施工管理システムの導入を検討しましょう。施工管理システムとは、図面の管理・共有や施工の進捗管理、売上金の回収など、施工に関する一連のプロセスを管理できるシステムです。
案件ごとに図面や工程などのデータを管理し、必要なデータをすぐに参照できます。施工進捗をリアルタイムで共有・管理することも可能です。現場とのスムーズな連携により、施工品質の向上や納期の遵守につながるでしょう。
ICT建機
作業効率や安全性向上を実現するためには、ICT建機の活用がおすすめです。ICT建機とは、情報通信技術を取り入れた建設機械のことです。
あらかじめ入力した3次元設計データをもとに、建機内のモニターや音声などで設計ラインを確認しながら施工します。ICT建機は、技術によってさらに以下の2つのタイプに分けられます。
タイプ | 概要 | 適用できる建機 |
---|---|---|
マシンコントロール | 自動制御システムにより、動きが自動でコントロールされる | ブルドーザー油圧ショベルモーターグレーダー など |
マシンガイダンス | 測位技術で取得した位置情報をもとに、オペレーターが操縦する | ブルドーザー油圧ショベル など |
ICT建機のメリットは、無駄のない動作によって作業効率を高められることです。また、作業員が建機を乗り降りして施工箇所を何度も確認する必要がありません。
乗り降りの回数が減るため、安全性を高められます。さらに、補助作業員も不要になるため、人手不足に対応できるのもメリットです。
クラウド防犯カメラ
現場の遠隔管理を実現するためには、クラウド防犯カメラの導入も効果的です。クラウド防犯カメラとは、防犯カメラから撮影した映像をクラウドで録画・視聴できるシステムです。
パソコンやスマートフォンから現場の様子を確認できるため、遠隔での現場管理が実現します。夜間の現場管理も可能であり、建築資材の盗難防止にも役立つでしょう。
また、現場にいる若手の現場監督に対して、遠隔から熟練の現場監督が指示を出すことも可能です。さらに、従業員の作業の様子を撮影しクラウド上に保存すれば、教育資料としても活用できます。
国交省策定の遠隔臨場に適合したウェアラブルカメラについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
建設業の課題解決に向けてIT化を進めよう
建設業は、人手不足や長時間労働の常態化、資材価格の高騰などさまざまな課題を抱えている業界です。特に、2024年4月以降は働き方改革への対応が義務付けられるため、人手不足問題が深刻化することが予想されています。
建設業の課題を解決するためには、従業員にとって働きやすい環境を整え、業務効率化を進めることが大切です。業務効率化の実現には、勤怠管理システムや施工管理システムといったITツールの活用や、ICT建機を使った現場のIoT化など、IT化を推進しましょう。
ITツールの中でも、現場の遠隔管理によって人手不足問題の解決や安全管理体制の強化を進めたい方には、クラウド防犯カメラの導入がおすすめです。
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