余剰在庫を抱えている方の中には欠品を減らすべく、在庫管理を徹底したいと考えている方もいるでしょう。欠品を防ぐうえでは、安全在庫についての理解を深めることが重要です。
今回の記事では安全在庫の基本的情報や安全在庫を持つメリット、設定する際の注意点などを解説します。
目次
安全在庫とは
安全在庫とは、不確定要素によって欠品が発生しないために、通常時に必要な在庫に加えて最低限保持しておく在庫のことです。安全在庫が確保されていないと、トラブルや需要の変動に対応できずに欠品が生じ、大事な販売機会を逃すことになるでしょう。そのため、安全在庫は常に保持できるようにすることが求められます。
欠品が発生する原因は、市場の変化や取引先からの仕入れ状況、季節要因や流行による需要の変動などさまざまです。安全在庫を設定する際は、これらの変動を想定する必要があります。
どの程度の在庫が必要かは、市場や取引先の状況によって変わるため一概にはいえません。その変動を加味したうえで、これだけ在庫があれば問題ないといえる量が、安全在庫です。
安全在庫と適正在庫の違い
安全在庫と似たワードとして「適正在庫」があります。ここでは、安全在庫と適正在庫の違いについて解説します。意味を混同しないように、しっかり理解しておきましょう。
適正在庫とは、販売や生産の予測に基づいて計画された、適正な量の在庫のことです。リードタイムや需要予測、顧客へ提供するサービスのレベルなどを考慮して計算されます。
安全在庫と適正在庫の違いは、以下のようなイメージです。
安全在庫:予測できない在庫リスクに備えるもの
適正在庫:計画的に在庫運用を行うためのもの
安全在庫が欠品防止を目的としているものであるのに対し、適正在庫の目的は商品や製品がそのお店(企業)にとって妥当な数の在庫を確保することです。安全在庫を把握しておけば、必要な在庫の下限数がわかるため欠品を防げます。
しかし、上限数はわからないため、余剰在庫と呼ばれる余分な在庫を抱えてしまう可能性があります。在庫を過剰に抱えることも、経営上はマイナスです。
小売業では、在庫コストを最小限に抑えつつ、顧客の需要を満たす適正な在庫管理が求められます。安全在庫と適正在庫は、必要不可欠な考え方といえるでしょう。
安全在庫を持つ3つのメリット
前述の通り、販売機会を逃さないためにも安全在庫の確保は欠かせません。ここでは、安全在庫を持つことで得られる3つのメリットを紹介します。
- 余剰在庫を生まずにすむ
- キャッシュフローを改善できる
- 販売機会の損失を防げる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
余剰在庫が出にくい
安全在庫を設定することで、欠品しない最低限の在庫量がわかります。余剰在庫が生まれにくいことは、大きなメリットといえるでしょう。
企業にとって、欠品は販売機会の逸失や顧客満足度の低下につながる大きなリスクです。そのため、欠品を回避すべく、企業は在庫を抱え込む傾向があります。
余剰在庫を抱えると、保管場所が余計に必要になり、保管費用もかさみます。「大量の在庫の中から商品を探す」となった場合には膨大な時間がかかり、作業効率の低下を招きかねません。在庫の保管期間が長引けば長引くほど、出荷の際に商品が劣化している可能性も高まるでしょう。
安全在庫がわかっていれば、欠品しない最低限の在庫量が把握できます。そのため、不要な在庫を抱えるリスクを減らすことが可能です。必要以上に欠品を恐れずにすむメリットも得られます。さらに、安全在庫を最適化できれば、余剰在庫保持にかかる保管場所の維持費用や在庫管理を行う人件費の軽減も可能です。
キャッシュフローを改善できる
健全な経営を行ううえでは、キャッシュフローを考慮することは欠かせません。安全在庫を設定すると余剰在庫を避けやすくなるため、キャッシュフロー改善にも役立ちます。
在庫は売れるまで在庫です。売上が発生しないにも関わらず、在庫保管の費用が発生します。そのため、余剰在庫を抱えすぎるとキャッシュフローが悪化し、経営の負担を招きかねません。余剰在庫が多いと、抱えている在庫を売り切るために安売りを行い、かえって利益を損ねるリスクもあるでしょう。
安全在庫を計算して必要最低限の在庫を把握すれば、在庫の増えすぎを避けることが可能です。その結果、実際に売れる商品の割合を高められ、確実に利益を確保できるようになります。ムダな仕入れや生産、在庫の安売りも減るため、キャッシュフロー改善につながっていくでしょう。
販売機会の損失を防げる
欠品が増えると、本来売れるはずだった商品が販売できなくなり、販売機会を逃してしまう恐れがあります。安全在庫を確保しておけば欠品を防止できるため、販売機会を損失するリスクを低減することが可能です。
欠品があると、単に利益を減少させるだけでなく、商品を購入できることを期待していた顧客からの信頼も失うことにつながりかねません。欠品を一時的な損失と捉えるのではなく、長期にわたって不利益をもたらすリスクと考えるようにしましょう。
安全在庫を維持して常に在庫がある状態をキープしておけば、商品を求める顧客に対していつでも商品を届けられるようになります。
安全在庫を設定する際の3つの注意点
欠品を防ぐうえで重要な安全在庫を設定する際には、注意したいポイントもあります。主な注意点は、以下の3点です。
- 在庫量の計算に手間がかかる
- 標準偏差が適切であるとは限らない
- 欠品を完全に防げるわけではない
安全在庫を設定すれば、すべてが解決するわけではありません。注意点をしっかり理解して、欠品対策に取り組むようにしましょう。
在庫量の計算に手間がかかる
1つめの注意点は、在庫量の計算には手間がかかるということです。安全在庫量は算出方法が複雑な構造になっています。
欠品許容率から求める「安全係数」、需要の変動を反映させた「標準偏差」、発注から納品までに要する時間を表す「リードタイム」の3つの数値を求める必要があります。
これらの数値をまず計算したうえで在庫量を算出するため、安全在庫量を把握することはすぐにできることではないことを理解しておきましょう。また、扱う商品が複数あってすべての商品について安全在庫量を算出する場合は、さらに時間と手間がかかります。
さらに、ある程度の予測も必要になってくるため、高い経験値があると、より正確な安全在庫量を算出可能です。
標準偏差が適切であるとは限らない
2つ目の注意点は、標準偏差が適切であるとは限らないということです。標準偏差は「正規分布に在庫使用量が従っている」という前提で算出されるため、例外となるケースが存在することには注意しましょう。
つまり、需要が大きく高まる時期があって、その期間の需要が正規分布から外れている場合、標準偏差では適切な在庫量を算出できません。
具体的には「夏に売れる商品」「冬にしか使わない商品」というような季節ものの商品が挙げられます。これらの商品は需要のばらつきが激しいため、正しい標準偏差を計算できません。時期を限定して売れる商品には、安全在庫の計算が必要ないことになります。
安全在庫を設定する場合には、設定すべき商品としなくてよい商品の見極めが重要です。
欠品を完全に防げるわけではない
3つめの注意点は、安全在庫量を把握してそのとおりに管理したとしても、欠品を100%防げるわけではないことです。安全在庫は、あくまで在庫量の下限を決める指標のため、余剰在庫が生じる可能性は否定できません。仮に欠品許容率が0.1%でも、0.1%の確率では欠品になる恐れがあるということです。
なかには、予測できない理由で需要数が急激に変化し、欠品が生じる可能性もあります。ただし、ムダに在庫数を増やすわけにはいきません。安全在庫を設定して可能な限り欠品しない在庫数を保持することが大切です。在庫管理システムなどを導入して、需要予測の精度を高めることを検討してもよいかもしれません。
安全在庫の計算方法
安全在庫量を求める計算式は、以下のようになっています。
- 安全係数 × 使用量の標準偏差 × √(「発注リードタイム」+「発注間隔」)
ここでは、実際に各係数の求め方を確認しつつ、エクセルを活用して安全在庫を計算する方法を紹介します。
1.安全係数を設定する
まずは、安全係数の算出から始めます。安全係数とは、欠品(注文に対して供給できなかった商品の割合)をどの程度までなら許せるるかを示した数値です。
安全係数は、エクセル関数「NORMSINV」を使い、以下の計算式で求めます。
- 安全係数=NORMSINV(1-欠品許容率)
ここで注意したいのは、欠品許容率はそのまま当てはめられないという点です。早見表を用いて、安全係数という指標に置き換えて使います。安全係数の早見表は以下のようになっています。
欠品許容率から安全係数への変換早見表
欠品許容率 | 安全係数 |
---|---|
0.1% | 3.10 |
1% | 2.33 |
2% | 2.06 |
5% | 1.65 |
10% | 1.29 |
20% | 0.85 |
欠品許容率は5%とすることが一般的です。たとえば、100回注文するうち10回欠品になることを許容するのであれば、10%になります。
2.標準偏差を求める
安全係数を設定したら、次に標準偏差を求めます。標準偏差とは、商品の需要変動を推測する値で、過去の使用量(出荷量/販売量)の標準値(平均値)のことです。過去の需要変動を把握できるため、欠品防止に貢献します。できるだけ多くのデータを用意しておくと、より正確な数値に近けることが可能です。
標準偏差は、エクセル関数「STDEV」を使って、以下の計算式で求められます。
- STDEV(1ヶ月あたりの出庫した数)
たとえば、10日分の在庫使用量の標準偏差を求めるとしましょう。過去の在庫使用量がそれぞれ1~4日目は平均10個、5~8日目はそれぞれ平均40個、9、10日目の平均を30個とした場合は、A1~A4セルに10、A5~A8セルに40、A9~A10セルに30を入力し、任意のセルに「=STDEV(A1:A10)」と入れると、標準偏差は約14となることがわかります。
3.発注リードタイムを計算する
発注リードタイムとは、商品を発注してから、手元に届くまでの日数のことです。発注から5日後に納品される場合は、発注リードタイムは5になります。リードタイムが長いほど仕入れに時間がかかるため、一度に多くの発注が必要です。
発注間隔とは、前回から次回までの発注の間の期間のことを指します。商品を定期的に発注してい場合に用いる数値です。発注を5日に1回しているのであれば、発注間隔は5として計算します。定期的に発注しないという場合は、ゼロです。
これらの数値を合計し、その平方根を算出して安全在庫を求める計算式に当てはめましょう。なお、平方根はエクセル関数「SQRT」で算出可能です。
4.安全在庫を算出する
上記の1〜3で算出した数値を用いて、安全在庫を算出します。算出した数値に小数点以下が出た場合は、切り上げて対応してください。
小数点の入った数の在庫を用意することは不可能です。52.2個となった場合は、切り上げて53個とします。
安全在庫の計算例
最後に、実際の数値をもとに安全在庫の計算をしてみましょう。以下の条件における、例を考えてみます。
- 欠品許容率:5%
- =安全係数: 1.65
- 標準偏差=20個
- 発注リードタイム=8日
- 発注間隔=8日
- 安全在庫 = 1.65 × 20 × √ (8 + 8) = 132個
安全在庫を132個保持しておけば、95%の確率で欠品を回避できる(=1 – 欠品許容率5% × 100)ことになります。
適切な安全在庫を設定するポイント
最後に、安全在庫を適切に設定するためのポイントを解説します。季節性のある商品の場合は、データに偏りが出てしまいます。そのため、データを季節によって分け、それぞれの安全在庫を設定するようにしましょう。
需要状況によって安全在庫量を定期的に見直すことで、そのタイミングに適した安全在庫量を維持できるようになります。
安全在庫を管理して最適化を図ろう
安全在庫とは、欠品が発生しないために最低限保持しておく在庫のことです。安全在庫が確保されていないと、欠品が生じ販売機会を逃すことになるでしょう。安全在庫を設定しておけば、余剰在庫を生まずにすみ、キャッシュフロー改善にも役立ちます。ただし、安全在庫を設定したからと言って欠品を完全に防げるわけではない点には注意しましょう。
在庫管理には、クラウドカメラの活用もおすすめです。セーフィーでは、小売の課題改善に役立つAIカメラやサービスを取り扱っています。AIカメラを導入すれば、防犯だけでなく、店舗の分析やマーケティングにも効果があるため、業務効率化も実現可能です。
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