交通量調査を「映像+AI」で解析 現場DXで省人化とコスト削減につなげる

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交通量調査を「映像+AI」で解析 現場DXで省人化とコスト削減につなげる

都市部の建設現場で、施工計画を立てるために欠かせないのが「交通量調査」だ。従来の目視による調査方法では、多くの時間と労力、費用を要するうえ、急な調査に対応しづらい。そこでゼネコンの奥村組は、カメラの映像をAIで解析することで、これらの課題を解決できないかと考えた。ソリューションパートナーのセーフィーと共に行ったPoC(概念実証)の内容からは、映像が建設現場にもたらす新たな可能性が見えてくる。

※こちらの記事は「日経コンストラクション 2023年7月号」に掲載されたインタビュー記事を転載したものです。

セーフィーのクラウドカメラを全現場標準のカメラとして採用

株式会社 奥村組
ICT統括センター イノベーション部戦略課 主任
増田 貴之

本社を大阪に構え全国に事業展開する奥村組。創業から115年を超える歴史を持ち、鉄道・トンネルなどの土木工事、ビルなどの建築工事の両面において技術力を高く評価されるゼネコンである。

建設業は労働集約型産業であり、生産性向上、働き方改革への取り組みは喫緊の課題となっている。そうしたなか、同社は2020年にICT統括センターを創設し、ICT活用による安全施工、生産性向上に向けた取り組みを展開している。

「ICTを活用することで、現場のリアルな課題とデジタルをどのようにつなぐことができるのかという視点を持って、我々ICT統括センターのメンバーはDXへの取り組みを進めています」と奥村組の増田 貴之氏は語る。

進めてきた取り組みの1つが、現場の遠隔確認・録画に用いるネットワークカメラの管理方法の見直しだ。これまでは現場に製品選定・導入を一任してきたため、管理・運用方法が現場ごとに異なっていたうえ、現場を支援する内勤部門からカメラ映像を確認することを想定した製品選定がされておらず、支援しづらいといった課題があった。そこでICT統括センターが、自社の運用に適した製品の選定から全社標準導入に至るまでを担った。これにより運用・活用手順を平準化するとともに、全体コストの削減にもつなげている。

全社標準の製品には、現場からの評価が高かったセーフィーのクラウドカメラを採用。映像がクリアで設置が容易なこと、直感的に操作できるユーザーインタフェースであることなどが決め手になったという。

「製品導入を進めていく過程で、『この映像を別のことにも使えないか』という声が現場から挙がりました。そこで現場でのさらなる活用方法を検討する中で見えてきたのが、交通量調査業務での活用でした」と増田氏は話す。

交通量調査をデジタル化してコストを約3分の1に圧縮

株式会社 奥村組
大阪駅前地下東広場JV工事所 監理技術者・副所長
津田 晃宏

交通量調査とは、道路周辺での作業やそれに付帯する設備の移動が発生する現場において、工事前に行う調査のこと。ゼネコン各社は、この調査を基に、工事に必要な交通規制の形態を検討し、工事全体の計画を策定するため、できるだけ精度の高い調査結果を得ることがカギになる。

「たとえば、私が携わっている現場では、夜間に工事する際に大規模な交通規制が必要です。その準備のために、従来は調査員を手配し、目視によってカウントされた通行車両台数を、集計のうえレポート化していましたので、多くの時間と労力、費用がかかっていました。また、調査員がすぐに手配できるとは限らず、急な調査ニーズに対応しづらいほか、費用を考えると調査回数を簡単に増やすこともできません。これらの課題を解決するため、クラウドカメラの映像を活用できないかICT統括センターに相談しました」と同社の津田 晃宏氏は述べる。

そこで同社は、セーフィーと共同で、実際の工事現場でのPoC(概念実証)を実施した。

津田氏が携わる工事現場は、大阪最大級の繁華街である梅田の中心に位置している。この現場には、既に据え置き型クラウドカメラ「Safie GO(セーフィー ゴー)」が2台設置してあったため、画角を交通量調査用に調整した。撮影した映像をAIによる画像解析にかけ、車の台数を自動でカウントし、その結果を人が映像を見てカウントした台数と突き合わせることで、AIのカウント精度を検証したという。

「カメラの画角調整、複数のカメラの映像をどうAIに読み込ませるか、精度のチューニングといった技術的な部分はセーフィーの担当者がコンサルティングを行ってくれました」(津田氏)。技術の理解や、精度向上に向けた試行錯誤の難しさはAI活用のハードルになる部分といえる。その点、今回のPoCでは、専門家とのコラボレーションでスムーズに精度を高めることができたようだ。

PoCの結果から、大きなコスト削減効果が狙えると奥村組は考えている。今回のPoCは車のカウントのみを対象としたものだが、その作業にかかるコストは従来の3分の1程度まで圧縮できる見込みだという。

「調査で得た結果は次の施工計画に生かすことができます。たとえば、より適切な交通規制を設けることができれば、以前は作業できなかった期間・時間に工事が行える可能性が出てきます。よりよい施工計画を立てるためにも積極的に活用したいと思いました」(津田氏)

また、工事の発注者などから別の日の交通量を知りたいと要請された場合も、録画済みの映像から調査が行える。これらはまさしく「映像+AI」で開ける新たな可能性といえるだろう。

AIによる交通量調査(イメージ)
AIが映像内の車の台数を自動でカウントする。カメラの画角調整や、画像認識精度のチューニングなどはセーフィーが支援した

奥村組とのPoCで得た知見を生かし交通量調査サービスをリリース

加えて、今回の取り組みはセーフィー側にもメリットをもたらした。PoCの経験を基に、新たに「Safie Traffic Survey(BPO)」のテスト販売を開始したのである。

セーフィーが有する多彩なカメラ製品と、データ解析用のAIエンジンを組み合わせたBPOサービスだ。ポイントは、データ解析に向けた映像の切り出しや加工、解析結果の出力、必要な形式に変換して集計するまでの一連のプロセスを、まとめてセーフィーが代行する点にある。

先に紹介した通り、AI活用のハードルになりがちな作業をサービス提供側が巻き取ることで、簡単・迅速にユーザーが成果を得られるようにする仕組みを目指している。また、セーフィーのユーザーは既存のカメラをそのまま使うこともできる。このように、奥村組とのPoCで得た知見が随所に生かされたソリューションを検討している。

奥村組とセーフィーは、今後も交通量調査を軸としたさらなるAI活用方法を模索していく予定だ。検討中のキーワードの1つが「交通影響検討」である。

「交差点内の交通量だけでなく、信号待ちの車の台数なども映像で可視化して分析できれば、さらに効率的な工事計画の立案が可能になります。都市部の現場では大きなニーズがある使い方だと思います。ぜひ、セーフィーの新たな提案に期待したいですね」と津田氏は言う。

「映像+AI」で、現場の課題解決を目指す奥村組。セーフィーにとっても、奥村組との取り組みは新たなビジネスの扉を開くきっかけの1つになるだろう。建設現場での映像活用は、まだ大きな可能性に満ちている。

※こちらの記事は「日経コンストラクション 2023年7月号」に掲載されたインタビュー記事を転載したものです。

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