意図しないプライバシー侵害や、個人情報保護法に違反するリスクを避けるため、防犯カメラの運用や撮影データの取り扱いで悩む事業者さまも多いでしょう。
この記事では、防犯カメラを運用する場合の基本的な注意事項として、遵守すべき法令やガイドライン、プライバシーへの配慮、そして必要となる各関係者とのコミュニケーションの方法についてお伝えします。カメラの運用やデータ管理をする場合の注意点をまとめたチェックリストも併せてご紹介しています。
防犯カメラの映像は個人情報にあたる場合があるため、プライバシーへの配慮が不可欠
事業者が防犯カメラの画像・映像を活用するときに気をつけなければいけないプライバシー対策について、カメラの導入前から活用まで段階を追って詳しく解説します。
プライバシーの保護に配慮した対応を行う
防犯カメラの運用は、導入前の企画から運用、管理や評価を行うところまで、常にプライバシー保護に配慮した検討を重ね、改善していくことが重要です。
具体的な配慮事項は、総務省と経済産業省、そしてIoT 推進コンソーシアムの3者が発行している「カメラ画像利活用ガイドブック」で詳述されていますが、その概要はこちらの記事(カメラ画像の取り扱いについて)でご確認いただけます。
また、どの段階でどのような配慮が求められるのか、企画、設計、運用、管理の各段階での細かな対応事項をまとめたカメラ設置におけるチェックリストを参考にするなど、まずは全体像を把握した上で、順を追って対応を進めていくとよいでしょう。
防犯カメラを設置する際は十分なコミュニケーションを
「カメラ画像利活用ガイドブック」では、プライバシーへの配慮として「カメラ画像利活用の目的の正当性、実施方法、生活者のプライバシーへの影響、適切な安全管理対策等について、生活者へ説明すること」が推奨されています。
防犯カメラを運用するときには、関係者と丁寧なコミュニケーションを行い、理解を得ることが大事です。なお、コミュニケーションの対象には、生活者だけでなく、自社の従業員や、データ活用などに携わるビジネスパートナーも含まれます。
対象者別に、上記ガイドブックの内容を踏まえてコミュニケーションのポイントを解説していきます。
(出典)カメラ画像利活用ガイドブック – 総務省・経済産業省・IoT 推進コンソーシアム
カメラに写る可能性のある生活者へのコミュニケーション
屋外や店舗内にカメラを設置する場合、通行人や近隣住民、顧客などの生活者がカメラに写り込みます。写り込む可能性のある集団全体の特性を分析し、その特性に応じた適切なコミュニケーションを図ることが重要です。
必ずしもその全員が自社のサービスの対象者とは限らないことに留意しましょう。
生活者が理解しやすい、客観的な表現でカメラ映像を活用することで生まれる生活者のメリットや社会的な意義について説明し、生活者の理解を得るよう努めます。
他にも、生活者が問い合わせをできるよう連絡先を公表することが大事です。苦情にも真摯に対応し、全従業員が一貫した説明や対応を行えるように教育をすること、生活者の反応を踏まえて改善を図ることなどが推奨されています。
カメラに写り込む従業員へのコミュニケーション
店舗や事業所の中にカメラを設置する場合、そこで働く従業員は「監視されている」と感じてしまう可能性があります。不安を感じさせたり誤解を生んだりすることがないよう、カメラ設置に際しては従業員への丁寧なコミュニケーションを行いましょう。
雇用者としての立場を利用して強制していないかに注意し、十分な説明をすることも大事です。
具体的には、「カメラを設置する目的が従業員の監視ではないこと」や、「現場の仕事ぶりに不満があるわけではないこと」をまずはしっかりと伝えてください。あくまでもカメラの導入はトラブルのすばやい解決のためであったり、従業員たちをトラブルから守るための記録のためであったりと、カメラの導入が従業員のためになるということを説明しましょう。
ビジネスパートナーとのコミュニケーション
カメラの運用や録画データの利用にあたっては、利用するサービスや技術の提供元と密にコミュニケーションを取ることも欠かせません。カメラの適切な運用方法を確認するだけでなく、生活者や従業員に十分な説明ができるように、必要な情報を提供してもらう必要があります。
また、録画データの加工や分析に携わる企業や、データの一部を利用する事業者、あるいはカメラの設置場所の管理者やカメラ自体の管理者など、カメラや録画データの管理運用に関わるすべてのビジネスパートナーと緊密なコミュニケーションを図り、プライバシーの侵害が起きないようにルールを徹底することも求められます。
防犯カメラ運用の前に必要な事前告知
防犯カメラの運用をはじめる前に、事業者は十分な期間をもって事前告知を行う必要があります。
告知方法
事前告知には下記の方法があります。
- ・撮影する場所でポスターやパンフレットの配布など、物理的に告知をする
- ・自社のウェブサイトなどのインターネット上で告知をする
- ・物理的にも電子的にも両方の手段で告知をする
スライドの例を参考に、生活者がきちんと情報を得られるように事業者は配慮しましょう。
(出典)カメラ画像利活用ガイドブック – 総務省・経済産業省・IoT 推進コンソーシアム
事前告知の内容
事前告知を行う場合に告知すべき内容については、下記を参考にしてください。
事前告知には、例えば以下の内容を記載する。
◼ カメラ画像の内容及び利用目的
(引用)カメラ画像利活用ガイドブック – 総務省・経済産業省・IoT 推進コンソーシアム
◼ 運用実施主体の名称及び一元的な連絡先
◼ カメラ画像の利活用によって生活者に生じるメリット
◼ カメラの設置位置及び撮影範囲
◼ カメラ画像から生成又は抽出等するデータの概要
◼ 生成又は抽出等したデータからの個人特定の可否
◼ 生成又は抽出等したデータを第三者への提供の有無、及び提供する
場合、その提供先
◼ カメラ画像やカメラ画像から生成又は抽出等するデータの安全管理
のために講じる措置
◼ データ利活用の開始時期
事前告知の通知内容例
カメラ利活用のケース別注意点とチェックリスト
ここまでは、法令遵守やプライバシーへの配慮、各種関係者との丁寧なコミュニケーションの必要性について説明してきました。これを踏まえて、ここでは2種類のカメラの活用シーンを想定して、それぞれの場合にどんなことに注意する必要があるかを解説します。
1つ目は一般的な防犯カメラの場合、2つ目は録画データを行動履歴と紐づけてリピート分析をする場合です。それぞれについて、データの取得、加工、保存という3つの段階に分けて考えていきましょう。
ケース①店舗内外で防犯カメラとして利用する場合
すでに触れたとおり、防犯カメラに写った映像から特定の個人を識別できる場合、そのカメラで個人情報を取得していることになります。
その上で、撮影した防犯カメラの映像データが個人情報データベース等にあたるかについては、ケースごとに判断が分かれるところです。特定の個人情報を検索できるように「体系的に構成」されたものでない限りは該当しないというのが、基本的な考え方になります。
個人情報保護委員会は、「記録した日時について検索することは可能であっても、特定の個人に係る映像情報について検索することができない場合には、個人情報データベース等には該当しない」という見解を示しています。
そのため、防犯カメラの録画データをそのまま保存している場合は、そのデータは基本的には「個人情報データベース等」に該当しないと考えられます。
※「個人情報データベース等」とは、個人情報を含む情報の集合物であって、① 特定の個人情報をコンピュータを用いて検索できるように体系的に構成したもの、又は② コンピュータを用いていない場合であっても、五十音順に索引を付して並べられた顧客カード等、個人情報を一定の規則に従って整理することにより特定の個人情報を容易に検索することができるよう体系的に構成したものであって、目次、索引、符号等により一般的に容易に検索可能な状態に置かれているものをいいます(個人情報保護法第 16 条第1項、通則ガイドライン 2-4))
つまり、単純に防犯目的でカメラを利用し、データベース化や加工を行わず一定期間の経過後に録画データを破棄する場合は、取得の段階でのみ個人情報を取り扱っていると考えられます。
したがって、取得に際しては個人情報保護法を遵守した対応が必須となります。
対策例
例えば、個人情報保護法第21条は、個人情報を取得する事業者は「あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない」と定めています。
これに従って、カメラに個人情報を取得されていることを本人が認識できるように、防犯カメラが作動中であることをカメラの設置場所や建物の入り口に掲示することが推奨されています。
ケース②行動履歴と紐づけてリピート分析をする場合
2つ目のケースは、カメラの録画映像を行動履歴と紐づけて分析に使う場合です。具体的には、店舗内に設置したカメラ映像から、来店者の属性の推定や、来店履歴や行動履歴の取得、購買履歴との紐づけなどを含む分析を行い、品揃えや棚割、店舗内レイアウト等の見直しに活用する場合などがこれにあたります。
この場合、データの取得、加工、保存までの全ての段階で個人情報保護法に準拠した対応が求められます。というのも、取得段階では、先のケースと同様、特定の個人を識別できる映像を取得しているため、個人情報を扱っていることになります。
続く加工の段階では、顔を含む全身画像から特徴量データを抽出し、人物属性の推定が行われます。特徴量データのうち個人の識別が可能なものは個人情報に該当しますので、ここでもやはり個人情報を取り扱っていることになります。
そして、このケースでは、特徴量データに紐づける形で、来店履歴や動線データ、推定属性、購買履歴といったデータが保存されますので、これは「個人情報データベース等」に該当し、特徴量データと同様の扱いが求められます。
取得、加工、保存までの全工程で個人情報を取り扱うこのようなケースでは、データの処理方法や管理体制などを含めて、対応しなければならないことが多岐にわたります。こちらのチェックリストやカメラ画像利活用ガイドブックをよく確認し、一つずつ対応を進めてください。
終わりに
防犯カメラを利用する際には、法令遵守やプライバシーへの配慮はもちろんのこと、カメラに写り込む顧客や従業員との丁寧なコミュニケーションで理解を得ることが重要です。導入に先立ち、企画、設計、運用、管理というそれぞれの段階でどのような対応が求められるのかを十分に検討し、対策を取る必要があります。
特に、最後に紹介した2つのケースからは、カメラの使用目的や録画データの利用方法によって、必要な対応が大きく変わることがおわかりいただけるかと思います。画像解析や顔認証の技術が日々進歩する中、カメラの利用目的も、防犯だけでなくサービス改善や業務改善へと広がりを見せていく中、事業者の適切な対応が求められています。