「日本DX大賞」受賞企業 グッデイに聞く“現場DX”。クラウドカメラを軸にした「課題ドリブン」な小売DXを推進

特集

九州北部、山口県を中心に64店舗※1を展開するホームセンターのグッデイ。同社は2016年以降、データドリブン経営の取り組みを強化し、5年間で売上高26%アップという急成長を実現した。活動は外部からも評価され、「第1回日本DX大賞」の大規模法人部門大賞を受賞※2。今最も注目されるDX企業の1社となっている。ここまでの取り組みや、映像とAIを活用する今後の展開について、同社の柳瀬 隆志氏、クラウドカメラを提供するITパートナー、セーフィーの佐渡島 隆平氏に聞いた。

※こちらの記事は「日経ビジネス 2022年12月5日号」に掲載されたインタビュー記事を転載したものです。

株式会社グッデイ
代表取締役社長
柳瀬 隆志

セーフィー株式会社
代表取締役社長CEO
佐渡島 隆平

急成長の源泉はデータ活用 
現場の使いやすさを徹底的に考えた

―2016年に柳瀬さんが社長に就任されて以来、グッデイは急成長を遂げています。背景にはどのようなことがあったのでしょうか。

柳瀬デジタルの力が大きいと思います。もっと言うと、デジタル活用やデータ分析がうまくいったのは、既存のシステムやアプリケーションをすべてクラウド化したことが大きい。その過程では私自身もたくさん勉強しましたが、得たシステムの知識が経営にも役立っています。

佐渡島莫大なコストをかけてシステムを構築せずとも、素早く最終課題の解決につなげているグッデイ様の取り組みは素晴らしいと思います。「現場ドリブン」で、現場の人が使いやすいシステムを実現していくアプローチですね。

柳瀬セーフィーの導入も、全社横断でクラウド化を進めるプロセスの一環で取り組みました。実際、既存の防犯カメラは多額の投資をして設置しているにもかかわらず、その非効率さ故にほとんど誰も見ていませんでした。セーフィーのクラウドカメラはシンプルなソリューションだけど、防犯カメラがWebベースの仕組みになったことで、これまでとは違った使い方ができるようになりましたね。

―クラウドカメラは2018年から活用されているそうですね。現在までの成果を教えてください。

柳瀬元々は防犯カメラ用途で、数店舗で活用していました。非常に操作性が良く、見たいシーンを素早く表示したり、切り出して保存したりできます。また、映像がクラウド上に保管されるため、PCやスマートフォンがあればどこにいても閲覧できます。さらに、ある店舗の映像をほかの店舗のスタッフが確認することもできる。

例えば、地震発生時に店舗の什器などがどの程度揺れるのかといった映像を共有し、災害に備えた陳列方法を検討することができます。また、店内での事故や万引きなどの映像を共有すれば、再発予防に役立てることも可能です。

佐渡島ありがとうございます。効果を引き出していただき嬉しい限りです。

柳瀬その後、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに全店導入しました。目的は“密”の回避です。離れた場所にいる私は、現場の状況が分かりません。

店舗の担当者に聞いても「結構混んでいます」とか「並んでいます」といった定性的な表現で、状況を具体的に把握できないんですよね。その点、一足先にセーフィーのカメラを導入していた店舗では、遠隔から現場を見ることができました。全店導入によって、実際の状況を見て判断できるようになったほか、外部から何か指摘があった場合も、映像を基に事実確認が行えるようになりました。

店舗運営に欠かせないBCP対策や、トラブルシューティングに使える映像も勝手に記録されていきます。意識しなくても貴重なデータが蓄積できる。これは大きな財産だと考えています。

POSレジとチャット、カメラを連携 
混雑を映像と併せて通知する

柳瀬現在は、一歩進んだ取り組みにもチャレンジしています。POSレジとGoogle Chat、セーフィーのクラウドカメラを連携し、レジ混雑時の通知を映像と併せて店長に送る仕組みをつくりました。通知だけでなく現場の映像を一緒に確認できるようにすることで、店長がより的確な判断を行えるようにしています。レジ混雑の緩和でお客様をお待たせすることがなくなり、満足度向上にもつながっていると思います。

佐渡島この連携はすごいと思いました。恐らく、システム開発会社に頼んだら大掛かりなシステム構築になるところを、現場の使い勝手を追求したシンプルかつシームレスな連携を実現しています。まさに、現場の課題を起点に発想したものといえますね。

当社はエンジニアが中心になって創業した会社なので、かつては「こんなことできますが一緒にPoCやりませんか」という技術ドリブンな視点で提案していました。でも、現場に行けば行くほど、技術で解決できることとお客様が抱えている課題の間には乖離があると気付いたんです。今では、とにかくお客様のところに行って、現場の人が使いやすいUX(ユーザー体験)を実現することに力を入れています。

柳瀬なるほど、それは活用していて感じます。そのほかの取り組みとして、これは一部の店舗ではありますが、例えばニュースや気象の関係により突発的に需要が高まった商品がきちんと店頭に品出しされているかを確認したりと、売り場づくりなどにも映像を活用しています。

店内の各所の様子を確認できるほか、システム間連携により、レジ混雑時の状況が映像とともに通知される仕組みも実現している

リモートから店内の様子を確認

映像を基にした動線分析など
売上につながる効果を目指す

―今後はクラウドカメラをどのように活用していく計画ですか。

柳瀬結局、売上につながるのは接客業務の最適化です。過去に行った実証実験で効果が上がったのが、従業員の動線分析でした。それまでお客様の見えるところに立っていなかったことが可視化でき、配置を変えたところ売上が5~10%ほど増えたのです。セーフィーのクラウドカメラを使い、このような効果を生む動線分析が行えればと思います。

佐渡島当社が小売業のお客様と行った実証実験でも同様の効果が出ました。迷っているお客様にいち早く気付き、声がけできる体制のお店は、売上も良い傾向があります。

クラウドカメラの映像データは、まずは「どう見るか」が勘所だと私は考えています。現場スタッフの第2、第3の目として使うことで、お客様が「今一番求めていること」に素早く対応できるようになる。接客を映像でアシストすることで、従業員の生産性が上がるのです。

そもそも映像データの活用では、業種や立場によって見たいもの、やりたいことが大きく異なります。グッデイ様の社内でも、小物売場と園芸コーナーではやりたいことが全然違うはず。

このようなユーザー側が求めていることと、システム側が提供するサービスとのギャップを埋めるには、やはり我々は現場に入り込んで、本質的な課題ドリブンを図っていく必要があると感じます。小売のイノベーターであるグッデイ様には、実店舗を持っている強みがあります。課題ドリブンなサービスを一緒につくっていきたいですね。

柳瀬こちらこそよろしくお願いします。現場視点から映像で何ができるのかを考え、新たなソリューションの開発などを共に進められればと思います。

※1 2022年10月現在
※2 主催:日本DX大賞実行委員会、2022年6月20日

※こちらの記事は「日経ビジネス 2022年12月5日号」に掲載されたインタビュー記事を転載したものです。

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