「不明ロスの原因を探り、効果的な対策を」 コンビニエンスストアにおける万引き対策【後編】

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年々増加する万引きの年間認知件数。ロスによる経営状況の悪化を防ぐため、コンビニエンスストアをはじめとする小売店はどのような対策をすればよいか。「コンビニエンスストアにおける万引き対策」前編では、被害の現状を把握し、万引きされにくい売り場作りをすることが万引き対策への第一歩と述べた。後編ではさらに、万引きなど不明ロスが発覚した後の対応策や従業員教育について、流通ジャーナリストの梅澤聡氏が、全国万引犯罪防止機構理事の近江元氏に話を聞く。

【前編】効果的な予防策と万引きされにくい売り場づくりの解説はこちら>>

この記事のポイント

  • 発見後の対応策による万引きロスの削減
  • 不明ロスの原因に応じた対策方法の選択
  • 防犯カメラ映像の共有による従業員の防犯意識向上
  • セルフレジ導入店舗向け特化型不正防止対策
  • 棚卸し後の数値検証による万引き対策効果の可視化
  • 全件警察通報による万引き再犯防止の徹底

対談者のご紹介

近江様

特定非営利活動法人 全国万引犯罪防止機構(万防機構)理事
近江 元氏

北海道釧路市出身。東北大学卒。エイジスグループで長年店舗運営やリスク管理などを含むリテールサービスに従事。マーチャンダイジングサービス会社社長、エイジスリテイルサポート研究所株式会社社長を経て、現在日本万引防止システム協会の副会長、特定非営利活動法人全国万引犯罪防止機構理事として、万引き対策技術の普及活動を推進する。

梅澤様

流通ジャーナリスト
梅澤 聡氏

北海道札幌市出身。早稲田大学卒業後、西武百貨店に入社し、ロフト業態の立ち上げに参画する。1989年に商業界に入社、「販売革新」編集部、「月刊コンビニ」編集長、「飲食店経営」編集長、編集担当取締役を経て2015年よりフリーランスに。現在は流通ジャーナリストとして、小売業界の最新動向を発信する。著書に『コンビニチェーン進化史』(イースト・プレス、2020年)。

不明ロスの「原因」に応じた対応策を

万引きと内部不正では対策方法が異なる

梅澤:さまざまな万引き予防策をお聞きしてきましたが、万引きを発見したあとの対応策に関してはどんな点に注目していますか?

近江:商品がなくなっていたり、数量が合わなくなったりといったことがあり、その次に来るのが「ではどうするか」という対応策のフェーズです。

同じ不正行為でも、万引きと内部不正とでは対応策の性質が異なります。たとえば、コンビニエンスストアでタバコのロスが発生しているとしたら、それはお客様による万引きというよりは、従業員による内部不正と考えられる。このように、きちんとロスの数値を把握したうえで、それが何によって引き起こされたのかを特定して、「あいさつの練習をしましょう」「バックルームの整理をしましょう」という形で対策をしていくべきだと考えます。

対応策を考えるうえで、必要になるのが「選択と集中」です。たとえば、ドラッグストアでは低単価商品から高額なものまで、さまざまな商品が万引き対象となります。ですが、すべての商品に対しまんべんなく万引き対策をするのは困難です。

万引きされやすい商品をカウンターからよく見える位置に配置するなどの対策を講じようとすると、すべてカウンターから見える位置に持ってこなければいけなくなりますね。だから、高額なカウンセリング化粧品のみに絞って万引き対策をするというように、選択と集中をする。店内のどこにレジを置くかも考慮する必要があります。

近江様と梅澤様

防犯カメラの映像を活用した情報共有

梅澤:コンビニエンスストアでは、出入り口近くにレジを設置する店舗が多いですね。店内を1周回ってレジに到達するという動線の工夫もされています。一方で、防犯カメラで不正を検出した場合はどういった対応策をとるべきでしょうか。

近江:犯行の瞬間を押さえたのであれば、それを全従業員に周知するべきでしょう。万引きの手口を従業員皆で共有することで、たとえばお客様がその売り場に行ったとき、注視するようになります。コンビニエンスストアは従業員数も少なく、24時間でシフトのローテーションをしています。情報共有は大変ですが、犯行現場の映像を見せることで同時に内部不正も防ぐことができますね。

梅澤:私が百貨店に勤めていたときに、新しくオープンした店舗でものすごい数の万引きロスが発生したことがありました。けれども、日々の営業の中で実際に目の当たりにすることはなかなかなく。実際に防犯カメラの映像を見せられれば、従業員の注意の仕方も変わってきそうですね。

近江:防犯カメラでは何件ほど万引きが発生しているか、定量化はできません。代わりに、映像に映し出された情報をどう使うかに着目してほしいですね。たとえば、防犯カメラの映像からワインがよく万引きされているならば、ワインに集中して毎日在庫を調べる。棚卸しなどであるカテゴリーに集中してロスが発生しているのであれば、そのカテゴリーに集中して万引き対策をすればいいのです。

セルフレジ運営における不正防止対策へのニーズは高い

従業員教育と資格取得でスキルアップを

梅澤:全国万引犯罪防止機構では、万引き防止に役立つ資格や教育に力を入れていると伺いました。

近江:私たちが提供するのは「ロス対策士検定試験」です。店長など、現場のマネージャーに資格を取得してほしいですね。そのノウハウを持って部下を指導したり、売り場を変えたりしていただきたいと考えています。

コンビニエンスストアの場合、アルバイト従業員が24時間体制でシフトに入っています。その人たちに教育を行き届かせようとすると大変ですよね。従業員への教育をいかに短時間で効果的に行うかがカギになります。

梅澤:日々のルーチンの仕事であれば教えようがあると思うのですが、防犯や万引き対策となると何をすればよいか、内容がわからないマネージャーもいると思います。

近江:特別なことをする必要はありません。新人従業員が知っていなければならない知識の中に防犯があればよいと考えています。たとえば、来客時のあいさつ1つとっても、「お客様の顔を見てあいさつをしましょう」と。それは接客の姿勢でもあり、防犯にもつながるわけです。

梅澤様

セルフレジ導入店舗での新たな対策技術

梅澤:従業員研修に対して、企業側から寄せられるニーズで多いものを教えてください。

近江:今ホットな話題として、セルフレジでの不正対策について聞かれることが多いですね。セルフレジ導入後、どう運用したらよいか、店長やチェッカーのマネージャーを集めて研修を行っています。

セルフレジの運用方法の1つに、AIカメラを搭載して不審な動きを検知する取り組みをしている企業もありますね。商品バーコードをスキャンして、その商品とカメラに映った画像が一致しているかどうかを確認します。商品をスキャンせずに袋に入れた場合はレジが停止するので、サービスアテンダントがお客様のもとを訪れて確認するという、お客様を犯人扱いしないオペレーションを組んでいます。

万引き対策の効果検証には棚卸し後の不明ロス検証が不可欠

数値による効果検証の成功事例

梅澤:これまで近江さんが見てきたなかで、万引き対策に成功している店舗の具体的な事例や取り組みがあれば教えてください。

近江:スーパーマーケット「トライアル」の店舗で、セルフレジでの不正防止対策をしたことで以前よりも万引きロスが減った例があります。トライアルではレジの待ち時間を短縮するため、カートにレジを搭載し、買い物をしながら精算を可能にしています。同社では不正行為を防止するために、レシートと商品が合っているか出口で確認したり、防犯カメラを使ったりしてスキャンし忘れや万引きを防ぎ、不明ロスを少なくしています。

ただし、セルフレジ対策をしただけでは不明ロスが0件になることはありません。売り場管理や内部不正なども一緒に対策しなければ、全体としての不明ロスは減らないでしょう。

梅澤:さまざまな万引き対策をしたなかで、効果を検証するために大切なポイントは何ですか?

近江:売上額2,000億円ほどのある中堅のスーパーマーケットで、万引きが多いという話になりました。実際に、今年出たロスと昨年のロスとを比べてどれくらい差があるのか聞くと、「昨年の数字はわからない」と。それだと、昨年と今年でロスが増えているか、減っているかが比較できません。数値の管理は大変かもしれませんが、前年と比較して良くなっているか、悪くなっているかを明確にすることは大切ですね。万引きロスがどれだけ出ているか、何がなくなっているか推定できれば、何らかの対策が打てます。

ただ、そこまで踏み込んでいる企業は、非常に少ない。日本リテイリングセンターが「棚卸し後、ロスの原因調査をしているかどうか」を調査したところ、「している」と回答したのは3割に満たなかったといいます。つまり、7割の企業は棚卸しが済んだらそこで「おしまい」にしているのです。

近江様

再犯防止には全件通報が効果的

梅澤:不明ロスの数値の管理と、それに基づく原因の特定が重要なのですね。万引きは再犯率が高いと聞きます。最後に、再犯を防ぐにはどういった対策をすればよいか、教えてください。

近江:そうですね。一度成功すると、繰り返す傾向にあります。特に、家電や書籍など、あとは換金目的の場合も同様です。コンビニエンスストアでも同じく、一度成功すればまた繰り返す。抑止力となるのは、防犯カメラを設置したり、顔を見てあいさつをしたりといった、「この店では万引きしにくい」という環境を作ることです。

もう1つ、これはコンビニエンスストアに限りませんが、私たちは小売業の方に対し、100円でも200円でも、万引きされたら必ず警察に届けるようにお願いしています。その後の手続きが煩雑で大変ですが、それが次の万引き機会の抑止効果になります。万引きを発見したら全件通報する。そんな意識を持っていただきたいですね。

コンビニ万引き対策の実践ポイント

万引き発見後の対応

  • 不明ロスの原因特定(万引きか内部不正か)
  • 防犯カメラ映像の従業員間共有
  • 万引きされた商品カテゴリーへの対策集中
  • セルフレジでの不正行為への技術的対応

効果検証の方法

  • 棚卸し後の不明ロス数値分析
  • 前年同期との比較による効果測定
  • 特定商品カテゴリーの継続監視
  • 万引き発見時の全件警察通報

※万引きは再犯率が高いため、対策の継続と効果検証が重要です。万引き対策に関するさらなる情報や「ロス対策士検定試験」については、全国万引犯罪防止機構のウェブサイトをご参照ください。

万引き対策の要点まとめ&実践リスト
【店舗共有用・保存版】万引き対策の要点まとめ&実践リスト
専門家による万引き対策の要点を、いつでも見返せるレポート形式でまとめています。

※1 出典: “令和6年の犯罪情勢”.警察庁.2025-02(参照 2025-7-10)
※2 出典: “刑法犯に関する統計資料”.警察庁.(参照 2025-7-10)

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