保育施設の運営には多くの課題があり、特に保育士不足や業務量の多さ、IT化の遅れが深刻な問題とされています。そのような中で注目されているのが、保育施設内の業務を省力化する方法の1つである「保育DX」です。保育DXとは、保育業務の効率化を目指したDX(デジタルトランスフォーメーション)のことです。
保育現場におけるDXの導入は、単に業務の省力化・効率化だけでなく、国・自治体・保護者・子どもたちに大きなメリットをもたらす可能性があります。本記事では、保育省力化の1つである保育DXの背景やメリット・デメリット、実際に取り入れたい施策について解説します。
目次
保育の省力化・保育DXが求められる背景
保育施設内の業務の省力化や保育DXが求められる背景として、3つの理由を説明します。
保育士が不足している
昨今、保育業界では保育士不足が問題となっています。日本では少子化が進む一方で、共働き世帯が増加し、それに伴い保育施設の需要も高まっているためです。
しかし保育士の数はそれに追いついておらず、多くの施設が人手不足に悩んでいます。この背景には、保育士の待遇や労働環境の問題が影響しているとされています。低賃金や長時間労働、過重な業務負担が保育士の離職を招き、保育士の確保が難しくなっているのです。
特に都市部では保育士の確保が難しく、待機児童問題も招いています。このような状況を打破するためには、保育士の待遇改善や働きやすい環境の整備が急務です。そこで注目されているのが、保育DXによる保育施設内の業務の省力化です。
保育士の業務量が多い
保育士の業務は多岐にわたり、子どもたちの保育活動に加え、日々の連絡帳の記入、保護者とのコミュニケーション、行事の準備などと多忙を極めます。特に日本の保育現場では季節ごとの行事やイベントが多く、それらの準備や片付けには多くの時間と労力が必要です。
たとえば、運動会・遠足・七夕・クリスマス会・入園式・卒園式など、保育施設では年間を通じてさまざまな行事が実施されます。これらの行事は子どもたちにとって貴重な経験となりますが、その準備は保育士にとって大きな負担です。
これらの行事の準備に加えて、毎日の保育活動や園内の清掃・整理整頓、事故やケガの対応など、日常業務も過密です。このように多岐にわたる業務をこなすためには、効率のよい業務遂行が必要です。
保育DXの導入により、事務作業の自動化などデジタルツールの活用が進めば、保育士の業務負担が軽減され、子どもたちと過ごす時間を増やすことにもつながるでしょう。
IT化・DX化が進んでいない
日本の保育現場は、まだまだIT化やDX化が進んでいないのが現状です。多くの保育施設では、手書きの書類や紙ベースの業務が主流であり、デジタルツールの活用は限られています。これにより事務作業が煩雑化し、業務効率が低下しているケースが多く存在します。
たとえば、子どもたちの日々の活動記録や連絡帳の記入、出席簿の管理など、多くの情報が紙媒体で管理されているケースは依然として多いです。また、情報共有やコミュニケーションの手段も限られるため、保護者との連携がスムーズに行われないこともあります。
デジタルツールの導入によって業務の効率化が実現すれば、保育士の負担軽減につながり、より質の高い保育を提供できるようになるでしょう。保育DXの推進は、保育現場の課題解決に向けて必須であり、今後の保育業界の発展に不可欠なものといえます。
保育DXがもたらすメリット
保育施設内の業務の省力化の1つである保育DXは、保育施設内だけでなく、保護者・子どもたち・国・自治体に対しても多くのメリットをもたらします。ここでは、各方面における保育DXの具体的なメリットについて見ていきましょう。
保育DXが保育施設にもたらすメリット
保育DXの導入は、保育施設にメリットをもたらします。まずは業務効率の向上です。デジタルツールを活用して日々の業務が自動化されれば、保育士の負担が軽減されます。保育士が保育業務に専念できて子どもたちとの時間が増えれば、質の高い保育が提供できるようになるでしょう。
次に、保育施設の運営管理を効率化できる点もメリットです。たとえば、出欠管理や保護者との連絡、行事の計画・実施などがデジタルツールによって一元管理されれば、業務の見える化が進み、トラブルやミスが減少するでしょう。保育施設の信頼性の向上が期待できます。
さらに、保育士が働きやすい環境が整う点もメリットでしょう。業務負担の軽減や効率化によって長時間労働が減少すれば、ワークライフバランスが向上します。保育士の離職率が低下し、安定した保育サービスを提供できる可能性が期待できます。
保育DXが保護者にもたらすメリット
保育DXの恩恵は、保護者にも波及します。まず、デジタルツールを活用することで、保育施設と保護者間でのコミュニケーションが円滑になるでしょう。連絡帳やお知らせがデジタル化され、スマートフォンやパソコンからいつでも確認できれば、情報の共有がスムーズになります。
また、保育DXは保護者の利便性を向上させる点もメリットです。たとえば、登園・降園の手続きがデジタル化されれば、送迎時に子どもを待つ時間をより短縮できるでしょう。加えて、オンラインでの保育相談や面談が可能になれば、わざわざ保育園まで出向くことなく保育士とコミュニケーションが行えるようになります。
保育DXが子どもにもたらすメリット
デジタルツールを活用した保育活動により、子どもたちの学びや成長が促進される点はメリットの1つです。たとえばデジタル教材や教育アプリを活用すれば、子どもたちが楽しみながら学ぶ機会が増え、興味や関心を引き出すきっかけになるかもしれません。
また、保育士の業務負担が減ることで、子どもたちに対してより時間をかけて丁寧に対応できるようになるでしょう。一人ひとりに対して時間をかけて接することができれば、個々のニーズに応じた保育が提供され、心身の健全な発達の促進につながる可能性が期待できます。
さらに、デジタルツールを活用した安全管理や防犯対策が進むことで、子どもたちの安全が確保されやすくなる点もあります。たとえば、防犯カメラの設置や出欠管理システムの導入があれば不審者の侵入を防ぎやすくなるため、保護者はより安心して預けられるようになります。
保育DXが国にもたらすメリット
保育DXの推進は、国全体にも大きなメリットをもたらします。保育DXにより保育施設運営の効率が改善され、保育士不足の問題が緩和されれば、待機児童問題の解消が期待できるでしょう。これにより、共働き家庭の増加に伴う育児支援が強化される可能性もあります。
また、保育DXの普及は国のIT化・デジタル化戦略の一環としても重要です。デジタル技術の導入により保育関連のデータが一元管理されれば、政策立案や施策の効果検証が容易になるでしょう。これにより、効果的な子育て支援政策が展開されるかもしれません。
さらに、保育DXは経済的なメリットもあります。保育業界のデジタル化は、新たな市場や雇用の創出につながり、経済を活性化させる可能性も期待できます。加えて、デジタルツールやシステムの開発・導入による産業の発展から、IT関連企業の成長も期待できるでしょう。
保育DXが自治体にもたらすメリット
保育施設の運営効率が向上すれば、自治体の財政負担が軽減されるでしょう。たとえば、デジタルツールの導入により保育施設の管理業務が効率化されると、運営コストが削減されます。これにより限られた予算を有効に活用し、他の重要な公共サービスに充てることが可能になります。
また、保育DXは地域の子育て支援ネットワークの強化にも影響を与えるでしょう。デジタル技術を活用して地域内の保育施設・子育て支援機関との情報共有が円滑に行われれば、効果的な支援体制が構築され、地域全体での子育て支援が強化される可能性があります。
さらに、自治体が保育DXを推進することで、地域のデジタル化の加速にも貢献するでしょう。保育施設のデジタル化は、地域全体のデジタルインフラの整備を促進し、他の行政サービスのデジタル化にも波及効果をもたらす可能性があります。これにより地域全体のデジタル化が進み、住民の生活の質が向上することが期待されます。
保育DXのデメリット
保育DXには多くのメリットがある一方、デメリットも存在します。保育DXの導入に伴う課題について詳しく見ていきましょう。
初期コストがかかる
保育DXの導入において、初期コストがかかる点はデメリットの1つです。デジタルツールやシステムの導入には、ハードウェアやソフトウェアの購入、設置工事、そしてシステムの使用方法を学ぶための研修などが必要です。これらの費用は、特に小規模な保育施設にとって大きな負担になり得るでしょう。
さらに、導入後も継続的なコストが発生します。システムの維持管理やアップデート、サポート費用などが定期的にかかるため、予算の確保が重要です。場合によっては、コストを抑えるための補助金・助成金の利用、リースの検討など、費用負担を軽減する方法を考慮する必要もあるでしょう。
セキュリティやプライバシーに関するリスクがある
保育DXの導入に伴うもう1つのデメリットは、セキュリティやプライバシーに関するリスクです。デジタル化により保育施設や子どもたちに関する多くのデータがオンラインで管理されるようになると、サイバー攻撃やデータ漏洩のリスクが生じます。
特に、個人情報の取り扱いには慎重さが求められるため、注意が必要です。子どもや保護者の個人情報が漏洩した場合、プライバシー侵害の問題や法的な責任が問われる可能性があります。デジタルツールの導入と同時に、アクセス制御や定期的なセキュリティ監査など、厳格なセキュリティ対策を講じる必要が生じるでしょう。
さらに、職員のセキュリティ意識の向上も重要です。定期的な研修を通じて、データの取り扱い方やセキュリティリスクへの対応方法を学び、施設全体でセキュリティ意識を高めることが必要になります。
使い方を習得する必要がある
保育DXの導入にあたって、職員が新しいシステムやツールの使い方を習得する必要があります。時間と労力を要するため、初期段階では特に負担になるかもしれません。新しい技術に慣れるまでには一定の期間が必要であり、その間は業務効率が一時的に低下することも考えられます。
また、職員の中にはデジタルツールに対して抵抗感を持つ人もいるでしょう。特に、従来の方法に慣れている職員にとっては、新しいシステムへの移行が難しく感じられることもあります。職員全員がスムーズに新しいツールを使いこなせるようにするためのサポート体制が必要でしょう。
具体的には、導入前に十分なトレーニングを実施し、導入後もサポートデスクやヘルプ機能を充実させる、などです。さらに職員間での情報共有や意見交換も行い、互いにサポートし合う環境を整えると効果的です。
保育DXで取り入れたい施策
保育DXの導入には、いくつかの方法があります。ここでは「ICTツールの活用」「防犯カメラの活用」の2つの方法を紹介します。
ICTツールの活用
ICT(情報通信技術)ツールの導入は、保育業界におけるDXの基本です。保育施設でICTツールを活用することで、業務の効率化が図れるでしょう。保育業務を支援するソフトウェアやアプリケーションを導入することで、子どもたちの情報管理や保護者とのコミュニケーションがスムーズになります。
たとえば、保育施設と保護者のコミュニケーションなら、おたより配信・連絡帳・登降園連絡・お知らせ送信などの機能を備えたICTツールがおすすめです。また、保育施設内の情報を管理するなら、子どもたちの健康管理・子どもたちの情報管理・職員の勤怠管理・シフト作成などの機能を備えたICTツールが役立つでしょう。
デジタル化された記録は、手書きよりも正確である上、検索や共有も容易です。また、オンラインによる保護者との連絡や通知も可能になるため、保育士の負担軽減や保護者の利便性向上も期待できます。ICT化により情報の一元管理が実現し、業務の見える化が進めば、問題解決が迅速かつ正確に行えるようになるでしょう。
保育施設向けのICTツールについては、こちらの記事で紹介しています。
防犯カメラの活用
保育DXを目指す方法として、防犯カメラの活用もあります。保育施設には多くの子どもが集まり保護者の出入りも頻繁ですが、保育士不足問題が深刻な昨今では、防犯カメラの設置により施設内の不審者の侵入防止や安全対策が可能です。
通常時は映像で様子を確認し、異常時のみ駆け付けるようにすれば、職員の負担を減らすことができます。防犯カメラがあることで施設内の安全が確保されていると保護者が感じれば、保育施設に対する信頼感の向上につながる可能性もあります。
加えて、防犯カメラの映像を活用して、業務効率化や業務の質改善を図ることも可能です。たとえば、長年勤務しているベテラン職員の対応方法を新人職員が学んだり、各職員が保育の様子を客観的に振り返ったりするのに役立つでしょう。
また、子どもたちのトラブル記録にも役立ちます。カメラを設置して日常の保育活動を映像で記録できれば、子どもたちの中でトラブルが発生しても、すぐにその状況を確認できるようになります。たとえば、園児同士の衝突やケガなどが発生しても、カメラの映像によって事実関係を確認できれば、適切な対応を取れるようになるでしょう。
こちらの記事では、保育施設におすすめの防犯カメラや導入事例などを紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
保育DXで保育省力化を図って業務改善を目指そう
保育業務の効率化と改善を目指す保育DXは、保育省力化の1つとして注目されており、保育士の負担軽減や業務の標準化、さらには保護者や子どもたちへのサービス向上にも有用な手段です。保育DXには数々のメリットがありますが、導入には初期コストや、セキュリティ・プライバシーに関するリスクが伴うことも把握しておきましょう。今後の保育業界の発展に向けて、DXの導入を検討し、効果的に活用してみてはいかがでしょうか。
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