介護施設(老人ホーム)における高齢者虐待の現状と対策

介護施設の高齢者虐待

老人ホームのような介護施設では、職員の教育・知識不足やストレスなどから、施設の利用者に対する虐待が増加しています。とくに、職員の教育や知識不足が原因で発生している虐待は過半数を占めています。

本記事では、老人ホームなどの介護施設の職員による高齢者虐待の実態や原因、虐待を防ぐ対策などを詳しく説明します。虐待防止に効果的なクラウドカメラの導入事例も紹介しますので、課題解決に役立ててみてください。

高齢者虐待の実態とは

厚生労働省の調査結果(※1)によると、養介護施設など、養介護事業の業務に従事する職員による高齢者虐待の数は令和4年度で856件発生しており、前年度の令和3年(739件)と比べると、117件(15.8%)の増加が確認されています

職員による虐待は、特別養護老人ホームなどの入所系施設で発生しているのが特徴です。虐待は、次のような原因で発生しています。

  • 教育・知識・介護技術等に関する問題:480件(56.1%)
  • 職員のストレスや感情コントールの問題:197件(23.0%)
  • 虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等:193件(22.5%)
  • 倫理観や理念の欠如:153件(17.9%)
  • 人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ:99件(11.6%)

また虐待種別としては、被虐待高齢者として特定された1,406人のうち、身体的虐待が810人(56.7%)と最も多く、次いで心理的虐待の464人(33.0%)です。とくに被害が多いのは、女性や要介護度3以上の人です。

このような実態を受けて、政府では高齢者虐待防止に向けて整備を進めています。

高齢者虐待防止の推進に関する義務化とは

先に述べたとおり、老人ホームなどの介護施設における虐待は増加傾向にあります。このような実態を受けて、政府は令和3年度の介護報酬の改定ポイントとして、「高齢者虐待防止の推進」を政策に掲げていました。

令和6年度までの3年間は経過措置でしたが、令和6年4月1日からは、高齢者虐待防止の体制整備や再発防止に向けてより一層の取り組みが必要とされています。

高齢者虐待防止の推進に関する義務化の内容は、次のとおりです。

  • 虐待の発生またはその再発を防止するための委員会の定期開催
  • 高齢者虐待防止に関する指針の整備
  • 高齢者虐待防止に関する研修の実施
  • 虐待防止に関する担当者の選任

義務化の内容が実施できていない場合、介護報酬減算の対象となります。高齢者虐待の防止に向けて、さらなる体制整備の強化が必要です。

高齢者に対する5つの虐待とは

老人ホームなどの介護施設における高齢者に対する虐待は、次の5つに分類されます。

  • 身体的虐待
  • 心理的虐待
  • 介護放棄(ネグレクト)
  • 性的虐待
  • 経済的虐待

虐待というと、身体的な暴力などのイメージがありますが、身体に関わるものだけではありません。虐待の内容をきちんと理解しておかなければ、「知らないうちに虐待をしていた」ということも起こりえます

どのような行為や態度が虐待になるのか、理解しておくことが重要です。ここでは、老人ホームなどの介護施設における虐待について解説します。

身体的虐待

身体的虐待は、暴力行為ややむをえない場合以外の身体拘束、行動や言動の制限などをいいます。老人ホームなどの介護施設でよく起こりがちな身体的虐待は、次のとおりです。

  • 平手打ち・殴る・蹴る・叩く・つねるなどの暴力行為
  • 本人に向けて物を投げつける
  • 移動のときに無理に引きずる
  • 無理やり食事を口に入れる
  • ベッドや車いすに拘束する
  • 薬を過剰に服用させる
  • 外から鍵をかけて閉じ込める

老人ホームなどの介護施設では、必要に応じて一時的に身体を拘束することがあります。利用者の命に関わることで、身体拘束の代替になる方法がない場合は虐待とはされません。しかしながら、身体拘束を行う場合も十分な配慮が必要です。

心理的虐待

心理的虐待とは、暴言や威圧、侮辱、脅迫、無視、拒絶的な対応をとり、高齢者に著しい心理的ストレスを与える行為のことです。高齢者を言葉や態度で傷つけたり、尊厳を踏みにじったりする行為は、すべて心理的虐待といえるでしょう。おもな心理的虐待は、次のとおりです。

  • 大きな声で怒鳴る・ののしる・悪口をいう
  • 意図的に無視する
  • 侮蔑をこめて、子どものように扱う
  • 排泄の失敗を失笑する

心理的虐待は、介護する職員が気づかずに行っている場合があるため注意が必要です。

介護放棄(ネグレクト)

介護放棄(ネグレクト)とは、意図的かどうかを問わず、日常生活を送るうえで必要な介護やケアを放棄し、生活環境や身体・精神的状態を悪化させることです。介護放棄には、次のような行為が含まれます。

  • 長期にわたり入浴や排泄のケアをしない
  • 十分な食事や水を与えない
  • 必要な医療を理由もなく制限する
  • 劣悪な環境で生活させる
  • ナースコールの放置や手の届かない位置に設置する

介護放棄によって、高齢者の生活環境は悪化します。身体的状態だけでなく、精神状態の悪化にもつながるでしょう。介護放棄が虐待につながるケースも少なくありません。

性的虐待

性的虐待とは、高齢者に対してわいせつな行為をはたらくことをいいます。具体的な内容は、次のとおりです。

  • キスや性行為の強要
  • 同意なしに性器を触る
  • 排泄介助や入浴介助の際に卑猥な言葉をいう
  • 下半身を裸にして放置する
  • 大勢の人前で服を脱がす

性的虐待には、わいせつ行為だけでなく、裸にして放置するなどの辱める行為も含まれます。入浴や排泄のケア、着替えのサポートの際に、プライバシーに配慮せず介助することも性的虐待のひとつです。

経済的虐待

経済的虐待とは、本人の同意なく、財産を不当に処分したり使ったりすることを指します。具体的な内容は、次のとおりです。

  • 預かっている金銭を渡さない
  • 預かっている金銭を着服する
  • 本人の財産や持ち物などを無断で売却する
  • 年金や預貯金を本人の利益に反して使用する

老人ホームなどの介護施設では、利用者の金銭を預かることもあるでしょう。職員と利用者が勝手に金銭の受け渡しをしないように、施設で管理する必要があります。

老人ホームなどの介護施設で虐待が生じる原因

「高齢者虐待の実態とは」の項でも虐待の原因について触れましたが、ここでは老人ホームなどの介護施設で虐待が生じる原因について詳しく解説します。おもな原因は次の2つです。

  • 職員の知識不足
  • 職員のストレス

老人ホームなどの介護施設では、多くの職員が「人の役に立ちたい」と働いている一方で、上述したように職員による虐待が発生しているのも事実です。なぜ虐待が生じるのか、その原因を解説しましょう。

職員の知識不足

先に述べたように、老人ホームを含む介護施設で発生する虐待の原因のうち、半数以上は「教育・知識・介護技術等に関する問題」から生じています。

介護職は未経験でも挑戦しやすいですが、麻痺のある人の介助や入浴・排泄のケア、認知高齢者との接し方は、知識がないとうまく対応できません。

老人ホームなどの介護施設では、職員が必要な知識を学べるような研修を定期的に実施し、職員の知識不足や職員に対する教育不足が原因による虐待が発生しないよう、施設として対策することが大切です。

職員のストレス

老人ホームなどの介護施設で虐待が生じる原因には、職員のストレスも挙げられます。介護の仕事は身体的にも精神的にも負担が大きく、職員はストレスを抱えがちです。悩みを相談できる環境が整っていないと、ストレスのはけ口が高齢者に向いてしまいかねません。職員がストレスをためないように、悩みを相談しやすいような環境づくりが必要です。

また、深刻な人手不足も職員のストレスの原因となります。介護業界では、必要な職員が採用できず、運営に支障をきたす施設も珍しくありません。業務内容がハードのため、長続きしない人も多くいます。十分な職員がいなければ、介護をする職員の負担やストレスは増えるばかりでしょう。

老人ホームなどの介護施設における虐待を防ぐ対策とは

老人ホームなどの介護施設における虐待を防ぐ対策には、次の4つがあります。

  • 職場環境の改善を図る
  • 虐待防止に関する研修を実施する
  • 虐待防止マニュアルを作る
  • ICTツールを活用し職員の負担を軽減する

それぞれの対策を詳しく解説します。

職場環境の改善を図る

虐待を防ぐには、職場環境の改善が必須です。慢性的な人手不足や高い離職率をそのままにしておけば、職員の精神的・身体的ストレスは増えるばかりでしょう。

たとえば、夜勤勤務の間も交代でしっかりと休憩する、残業時間をできるだけ無くすなどの取り組みが必要です。職場環境が整えば、職員のストレス軽減につながり、虐待の抑止につながるかもしれません

虐待防止に関する研修を実施する

虐待防止には、虐待について学ぶことも有用です。職員のなかには、自分が虐待していることに気づいていない人もいます。高齢者の気持ちや心情に考えが及ばず、苛立ちをぶつけてしまう人もいるかもしれません。

まずは研修などを実施して、虐待について理解してもらうことが先決です。高齢者の行動や心情、また認知高齢者の特徴などを学び理解できれば、介護の際に感じるストレスを減らせる可能性が高いでしょう。

さらに、虐待は犯罪であると学ぶことも重要です。介護業界に精通している弁護士などに話を聞くのもおすすめです。

虐待防止マニュアルを作る

虐待を防ぐには、虐待防止マニュアルを作成することも効果的です。虐待が発生しそうな場面での対処法をマニュアル化しておけば、介護の際に迷わずにすみます。マニュアルにない状況が発生したときは施設の職員同士で話し合い、その都度対応を決めるようにすれば、職員がひとりで悩まずにすむでしょう。

なお、実際に作成した虐待防止マニュアルの雛形を公開している自治体もあります。いくつかの自治体のマニュアルを見比べて、施設の実情に適したマニュアルを作成してみてください。

ICTツールを活用し職員の負担を軽減する

虐待防止には、ICTツールの活用も役に立ちます。ICTとは、インターネットを介して人と人とをつなぐ技術のことです

昨今、人手不足や職員の負担軽減から、ICTツールを活用する介護施設が増えてきています。介護施設で利用できるICTツールには、センサー・アラートシステムや介護ロボットなどがありますが、比較的簡単に導入できるクラウドカメラもおすすめです。

クラウドカメラとは、インターネットを介して映像が確認できるカメラのことで、撮影した映像はクラウド上に保存されます。映像はスマートフォンやパソコンからリアルタイムで確認できるのが特徴です。

クラウドカメラは、職員による定期巡回や夜間の見守り、利用者の徘徊対策などに役に立ちます。工事不要で簡単に導入できるカメラであれば、初期コストを安く抑えることができるでしょう。

次章では、おすすめのクラウドカメラ「Safie One(セーフィーワン)」を紹介しましょう。

職員の負担軽減に役立つクラウドカメラ「Safie One」とは

Safie One

Safie Oneは、高画質・高感度な映像をスマートフォンやパソコンからいつでも確認できるクラウドカメラです。利用者の転倒や怪我などが発生したときも、客観的に状況を把握するのに役立つでしょう。録画した映像を用いて利用者の家族に状況を説明する際にも活用できます。

人検知機能

Safie Oneには検知機能が標準搭載されており、設定したエリアで動きを検知した際に、通知を鳴らすことが可能です。検知エリアをベッド周りで設定しておけば、離床や部屋から出るタイミングなど、動きがあった際にすぐにスマートフォンやパソコンに通知を受けられます。

エリア検知機能
設定したエリアで動きを検知すると、スマートフォンなどに通知を受けられる

ナイトビジョンモード

Safie Oneのナイトビジョンモードは、光の少ない暗闇でも施設内をくまなく録画します。夜間の徘徊や異常行動を迅速に察知できるため、トラブルを未然に防げるでしょう

ナイトビジョンモード
夜間など光の少ない環境でもしっかり録画される

また、複数の場所に設置しているカメラの映像を一括画面で見守れるため、異常時のみ駆け付ける体制を整えることで、物理的な見守り業務の負担を減らせます。慢性的な人手不足に悩む施設では、人手不足の解消に役立つでしょう。

LTEドック(オプション)

Safie Oneに接続するだけで通信可能なLTEドック(オプション)を使えば、施設内にインターネット回線がなくても利用開始できます。大がかりな工事が不要で、導入のための初期費用を抑えられる上、多彩なアダプターに対応していて場所を選ぶことなく設置できるのもメリットです。

Safie One

Safie
Safie One

エッジAIを搭載。画像解析による業務効率化も叶えるカメラ

¥41,800 (税込)

外形φ76.5×92.5mm
重さ360g
防水性能なし
ネットワーク接続有線LAN、無線LAN
PoE給電対応
画角水平114° 垂直60°
ズームデジタルズーム 最大8倍
マイク(音声入力)あり
スピーカー(音声出力)あり
暗所撮影対応

介護施設向けクラウドカメラの使い方について、詳しくはこちらのページをご覧ください。

クラウドカメラを導入した事例

株式会社メグラスは、愛知県内で介護施設と保育園を運営している会社です。同社は、施設内でおきた転倒事故などの経緯確認のため、共用部分にクラウドカメラを導入しました。

クラウドカメラを導入したことで、インシデントが発生したときに客観的な状況を把握できるようになりました。また、必要に応じて映像を利用者の家族に観てもらい、安心感を提供できるようになった点も挙げていました。

昨今では施設側による虐待事件は大きく報道されることもあり、問題が発生したときに職員への不信感をみせる家族もいるそうです。そのようなときの事実確認として映像で説明できる体制も整えている、と話していました

老人ホームなどの介護施設の高齢者虐待対策にクラウドカメラがおすすめ

老人ホームなどの介護施設の職員による高齢者虐待は、年々増加傾向にあります。虐待への対策には、職場環境の改善や研修の実施、ICTツールの活用などが効果的でしょう。とくにクラウドカメラは、介護施設で生じるインシデントの経緯確認や、職員による夜間の見回りに役に立ちます。

Safie Oneは、高画質・高感度のクラウドカメラです。オプションのLTEドックを活用すれば、インターネット環境が無くてもすぐに利用開始できます。施設内にクラウドカメラの導入を検討しているなら、Safie Oneをぜひ検討してみてください。

介護業界向け!トラブルからスタッフを守る
介護業界向けクラウドカメラ活用ガイド
利用者”も“その家族”も“スタッフ”も笑顔でいるための事例を紹介。課題に合った活用方法についてお気軽にご相談ください。

※1 出典:“令和4年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果”. 厚生労働省. (参照 2024-07-25)

※2 出典:“高齢者虐待防止の推進と取り組みの現状(介護保険施設等)”. 厚生労働省. 2021-04-01(参照 2024-07-25)

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