現場の安全衛生目標とは?設定ポイントや関連する国際規格を解説

現場の安全衛生目標とは?設定ポイントや関連する国際規格を解説

労働者の安全で健康的な労働環境を守るために、さまざまな法律や国際規格などがあります。労働環境を整えることは、労働者にとってメリットがあるだけでなく、企業にとってもメリットとなります。その一つが、安全衛生目標の設定です。

この記事では、安全衛生目標の目的と具体的な設定ポイントについて解説します。関連する国際規格やマネジメントシステムについても解説しますので、具体的な進め方に迷われた際はぜひ参考にしてください。

安全衛生目標とは?

安全衛生目標とは、現場における労働者の安全と健康を守るために設定される目標です。

安全衛生目標の定義と役割、また、安全衛生管理の仕組みである「OSHMS」(労働安全衛生マネジメントシステム)について解説します。

安全衛生目標の定義と役割

事業者は、労働安全衛生法という法律に基づき、労働災害の防止と労働者の健康促進に努める義務があります。

安全衛生目標そのものは事業者の義務ではありませんが、あらゆる安全衛生活動の根幹となる「安全衛生方針」に含まれる目標であり、経営トップから表明されることが理想とされています。

たとえば、建設現場では、墜落・転落災害の防止を目標とし、安全帯の使用を100%達成することが挙げられます。また、製造現場であれば、機械による巻き込み事故を防止するために、安全装置の設置や定期点検などによりリスクが低減できるでしょう。

労働者の安全と健康を守るために、安全衛生目標は重要な役割を果たします。

安全衛生管理の仕組み「OSHMS」(労働安全衛生マネジメントシステム)

先述した「安全衛生方針」も含まれる労働安全衛生活動の仕組みが、OSHMS(労働安全衛生マネジメント)です。OSHMSの特徴は以下の通りです。

  1. PDCAサイクルによる継続的改善
  2. 手順の明文化と記録の重視
  3. リスクアセスメントの実施
  4. 全社的な推進体制の整備

OSHMSを導入することで、安全衛生目標の達成に向けた取り組みを組織的かつ継続的に進めることが期待できます。たとえば、安全衛生方針の表明、安全衛生計画の策定、リスクアセスメントの実施、安全衛生教育の実施、パフォーマンス評価と改善などです。

厚生労働省の調査(※1)によると、は JISHA 方式適格 OSHMS 認証を導入して13〜15年経過している事業場は、導入して3年程度の事業場に比べて、現場の千人率(※2)が全産業の5分の1程度に抑えられる効果も出ています。

※1 出典:“労働安全衛生マネジメントシステム OSHMSで職場の安全衛生活動を組織的&効果的に!”.厚生労働省・中央労働災害防止協会.2019-7-1(参照 2024-7-15)
※2 千人率:労働者1,000人あたりの年間の死傷者数の割合を示す数値

安全衛生目標が求められる理由

作業現場では、なぜ安全衛生目標が必要になるのか、その具体的な理由について解説します。

労働災害リスクの回避

労働安全衛生への取り組みが求められる大きな理由の一つは、労働災害リスクの回避です。労働災害は、労働者の生命や健康を脅かすだけでなく、企業の生産性の低下や社会的信用の失墜にもつながります。重大な労働災害が発生すると、事業の存続さえも危ぶまれる危険性があるため、労働災害リスクを減らす活動は非常に重要です。

従業員の健康と安全を確保

健康で安全に働くことは、法律で認められた従業員の基本的な権利であり、企業は従業員の生命と健康を守る義務があります。

たとえば、過重労働やメンタルヘルス不調による自殺、粉じんや化学物質による中毒症状などを防ぐため、メンタルヘルス対策や適切な防護措置が不可欠です。

企業のCSR(社会的責任)の掲示

労働安全衛生への取り組みは、企業の社会的責任(CSR)を果たすためにも重要です。CSRとは、企業が社会の一員として、環境保護や人権尊重、コンプライアンスなどの責任を果たすことを指します。

たとえば、CSRに積極的に取り組む企業として知られる「パタゴニア」は、サプライチェーン上の労働安全衛生にも力を入れています。(※3)
サプライヤーに対して厳格な労働基準を設け、安全衛生管理の徹底を求めており、サプライヤーの現場を定期的に訪問し、労働環境の改善を支援しています。

※3 出典:“社会的責任|patagonia”.パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社(参照 2024-7-15)

労働災害や職業性疾病を防止し、従業員が安心して働ける職場環境を整備することは、企業の社会的評価を高め、ステークホルダーからの信頼を得ることにつながります。

安全衛生目標に関わる「ISO 45001」とは

実際に安全衛生目標を設定するために重要な考え方は、国際規格ISO 45001から取り入れることができます。

ISO 45001の概要

ISO 45001は、労働安全衛生マネジメントシステムに関わる国際規格です。2018年に発行され、これまでのOHSAS18001に代わる新しい規格として注目されています。

ISO 45001は、組織の労働安全衛生リスクを管理し、労働災害や職業性疾病を防止するための要求事項を定めています。PDCAサイクルに基づく継続的改善、リスクアセスメントの実施、安全衛生方針の策定などが求められます。

ISO 45001と安全衛生目標の関係性

ISO 45001の要求事項の一つに「安全衛生目標の設定」があり、組織は安全衛生リスクや法的要求事項などを自ら考慮し、適切な目標を設定することが求められています。

安全衛生目標は、具体的で測定可能なものでなければなりません。たとえば、「労働災害の発生件数を前年比で20%削減する」「安全衛生教育の受講率を100%にする」などの数値的目標を設定します。

ISO 45001認証取得のメリット

ISO 45001の認証を取得するメリットには、次のようなものがあります。

  • 労働安全衛生のパフォーマンス向上
  • 労働災害や職業性疾病のリスク低減
  • 現場の安全衛生スキルの向上
  • 企業の社会的評価の向上
  • 人的損失を防ぎ生産性を向上

ISO 45001の認証取得は、組織の安全衛生の向上に加えて、社会的責任の遂行、生産性の向上など、さまざまなメリットをもたらします。安全衛生目標の達成に向けて重大な認証だと言えるでしょう。安全衛生目標の達成を実現するために取り入れたい内容ばかりです。

現場の安全衛生目標の設定

実際に安全衛生目標を考える際には、ポイントとなる点を押さえることで、実現可能な目標設定につながります。現場にムリをさせない現実的な目標設定を目指しましょう。

安全衛生目標設定のポイント

現場の安全目標を設定する際は、まず具体的で測定可能な目標でなければいけません。抽象的な目標では、達成状況の評価が難しくなるためです。また、現場の従業員や管理監督者の意見を取り入れることも重要です。

目標は達成可能な計画と結びつける必要があり、現場の実情を知る作業者の意見を取り入れることで、実現可能性の高い目標設定につながります。

安全衛生目標設定にはSMARTを活用

目標の設定には、「SMART」の原則が参考になります。SMARTとは、以下の頭文字をとったものです。

  • Specific(具体的)
  • Measurable(測定可能)
  • Achievable(達成可能)
  • Relevant(関連性がある)
  • Time-bound(期限がある)

この原則に沿って、達成可能な具体的な目標を設定することが可能です。

たとえば、「安全衛生教育の受講率を100%にする」という目標であれば、以下のようにブレイクダウンできるでしょう。

  • Specific:全従業員が安全衛生教育を受講する
  • Measurebale:受講率100%
  • Achievable:教育プログラムを整備し、受講を義務化する
  • Relevant:労働災害の防止に直結する
  • Time-bound:今年度中の達成

このように具体的な目標設定には、「SMART」の原則が役に立ちます。

安全衛生目標の参考例

おおよその目安として、安全衛生目標の参考例をいくつか紹介します。建設業や製造業など、労働災害のリスクが高い業種では、以下のような目標が考えられます。

  • 墜落・転倒災害の発生件数を前年比50%以下にする
  • 安全帯の着用率を100%にする
  • KY活動の実施率を100%にする
  • リスクアセスメントを年2回実施する
  • 安全衛生教育の受講率を100%にする
  • 有害物質のばく露を法定基準の50%以下に抑える
  • ヒヤリハット報告件数を前年比30%以上に増やす

これらの目標は、いずれも測定可能な目標であり、現場の安全衛生の向上に直結する具体的なものです。墜落、転落災害や有害物質のばく露など、重大なリスクへの対策となる目標を盛り込むことで労働災害の防止につなげられます。

現場の従業員が参加する重要性を意識

安全衛生目標の設定でもっとも重要なのは、現場の実情に応じて、より具体的で実効性の高い目標を設定することです。そのためには、実際に現場で働く作業員の参加は欠かせません。

作業員が目標設定に参加することで、安全衛生への意識や当事者意識が高まります。自分たちが参画した目標設定であれば、その達成に向けて主体的に取り組むことができるからです。

現場のミーティングやツールボックスミーティングなどの場を活用することで、日常的なコミュニケーションの中で、安全衛生目標の設定について議論することにもつながるでしょう。

作業員の参加と主体的な行動なくして、安全衛生目標の達成はありえません。自社の従業員一人ひとりの手によって現場の安全衛生は実現できるものなのです。

安全衛生目標達成に向けた取り組み

設定したポイントに対して、実際に取り組む際にも意識すべきポイントがいくつかあります。代表的なものを紹介しますので、目標達成の取り組みの参考にしてください。

リスクアセスメントの実施

リスクアセスメントとは、現場の危険性や有害性を特定し、そのリスクを評価し、対策を講じるプロセスのことを指します。

リスクアセスメントの手順は、以下のとおりです。

  1. 危険性や有害性の特定
  2. リスクの見積もり
  3. リスクの評価
  4. リスク低減措置の検討と実施
  5. 記録と見直し

まず、現場の危険性や有害性を漏れなく特定することが重要です。作業手順や設備、環境などを細かく観察し、潜在的なリスクを洗い出します。

次に、特定したリスクの大きさを見積もります。発生頻度と重篤性を考慮し、リスクのレベルを評価します。評価結果に基づき、リスクの優先順位を決定します。優先順位の高いリスクから低減措置を検討し、工学的対策や管理的対策、個人用保護具の使用など、さまざまな対策を実施します。

最後に、リスクアセスメントの結果と対策の実施状況を記録し、定期的に見直しを行います。現場の状況は刻々と変化するため、リスクアセスメントは継続的に実施することが重要です。

安全衛生教育・訓練の充実

安全衛生目標の達成には、従業員の安全衛生に関する知識と意識の向上が欠かせません。そのためには、安全衛生教育・訓練の充実が重要です。

安全衛生教育には、法定教育と自主教育があります。法定教育は、労働安全衛生法で定められた教育であり、雇い入れ時教育や特別教育などがあります。自主教育は、事業者が自主的に実施する教育で、現場のリスクや課題に応じた内容を盛り込むことができます。

安全衛生コミュニケーションの促進

安全衛生コミュニケーションを促進するには、安全衛生に関する情報を共有し、連携して対策を講じることが重要です。たとえば、朝礼など現場でのミーティングを活用する方法です。

ヒヤリハット事例や労働災害の発生状況、リスクアセスメントの結果などを話し合うことで、現場の安全衛生レベルの向上につなげることができます。

安全衛生パフォーマンスの測定と評価

安全衛生パフォーマンスとは、安全衛生の取り組みの成果や効果を示す指標のことです。代表的なものとして、以下のようなものがあります。

  • 労働災害の発生件数・頻度・強度
  • ヒヤリハット報告件数
  • 安全衛生教育・訓練の実施
  • リスクアセスメントの実施状況
  • 安全衛生点検の実施状況
  • 安全衛生委員会の開催状況

これらの指標を定期的に測定し、測定結果を安全衛生目標と比較し、達成状況を確認します。目標未達の場合は、その原因を分析し、改善策を講じることが必要です。

測定と評価には、客観性と透明性が求められます。測定方法や評価基準を明確にし、作業者にフィードバックすることで、安全衛生への意識を高めることも大切です。

目標達成に向けた継続的な改善

安全衛生目標の達成は、一時的な取り組みでは実現できません。継続的な改善が必要不可欠です。継続的な改善を進めるには、PDCAサイクルを回すことが重要です。Planで策定した安全衛生目標に対して、Doで実行した成果をCheckで評価し、Actで改善につなげます。このサイクルを繰り返すことで、安全衛生の取り組みを継続的に改善していくことができます。

まとめ

建設現場での作業の様子

安全衛生目標は、労働災害の防止と労働者の健康を守るために欠かせない具体的な目標設定です。OSHMSやISO 45001などの考えにのっとり、現場のリスクを考慮して適切に設定され、現場の労働者も参画できる体制でなければいけません。

安全衛生目標の達成は、労働者一人ひとりの主体的な行動と組織全体の継続的な取り組みによって実現されます。安全で健康的な職場環境の実現に向けて、全社一丸となって安全衛生活動に取り組みましょう。

現場での安全衛生目標の達成にはクラウドカメラが有効

クラウドカメラで安全管理をしている様子

設定した安全衛生目標を達成し、現場における労働者の安全や健康を守るためにはクラウドカメラの活用が有効です。

セーフィーではクラウドカメラを提供し、映像活用でさまざまな業界の課題解決をサポートしています。製造業や建設業における現場の安全対策に関する活用実績も多数ご紹介できますので、現場の安全性向上をご検討の際は、お気軽にご相談ください。

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