介護現場において「危うく事故につながるところだった」といったヒヤリハットな事象はよく起こります。
入居者に配慮した対応やケアをおこなっていても、些細なことで重大な事故につながる要素が潜んでおり、ヒヤリハットの再発防止が重要です。今回の記事では、介護現場でのヒヤリハット事例やその原因、対処法を解説します。
目次
介護現場におけるヒヤリハットとは
「ヒヤリハット」とは何か、また「介護事故」との違いについて解説します。
ヒヤリハットの定義
ヒヤリハットとは、業務において一歩間違えると重大な事故や災害につながる事象のことです。たとえば「床に置いてある荷物につまずき転びそうになった」「入居者の薬を間違えそうになった」などがあげられます。思いがけない事象に「ヒヤリ」としたり、「ハッ」としたりすることがヒヤリハットの由来です。
ヒヤリハットは事故や災害につながる要因に気づき、対策を講じる重要な機会です。介護の現場だけでなく、多くの企業でもリスクマネジメントの観点から重要視されています。
介護事故との違い
介護の現場で発生する事象のうち、「介護事故」か「ヒヤリハット」なのか判断基準が明確にわからないという介護事業者も多いのではないでしょうか。「介護事故」と「ヒヤリハット」の明確な違いは、事象が「起こってしまった」のか「未然に防止できた」かにあります。
たとえば入居者がベットから落ちてしまった場合、ケガの大きさや有無に関係なく転落した事実があるためケガの有無や程度に関係なく「介護事故」にあたります。一方で、入居者がベットから落ちそうになったがスタッフが身体を支えて落ちずにすんだ場合は、未然に防止できたことから「ヒヤリハット」となります。
指定介護老人福祉施設は、入所者に対する指定介護福祉施設サービスの提供により事故が発生した場合は、速やかに市町村、入所者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。
※1 出典:“指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準”.厚生労働省,第35条,1989年厚生省令第39号(参照 2024-7-4)
介護事故は法令によって「介護事故が発生した場合は、市町村などへの報告を行うこと」が義務づけられています。(※1)
そのため、「介護事故」であるにも関わらず「ヒヤリハット」として誤って判断して、必要な事故報告をしていなければ、行政から指導を受けたり処分を受けたりする恐れもあるので注意が必要です。
介護現場のヒヤリハットとハインリッヒの法則
ヒヤリハットは「事故や災害につながらなくてよかった」と考えてしまいがちですが、「ハインリッヒの法則」をもとにすると、安心して終わらせてはいけない重要性の高さがわかります。
ハインリッヒの法則とは「同じ人が起こした330件の災害のうち、1件の重大事故(重大な労働災害など)、29件の軽微な事故(軽症ですんだもの)、300件の無傷事故(傷害のない事故)を起こしている」というものです。「1:29:300の法則」とも呼ばれており、アメリカのハインリッヒが事故調査の結果をもとにした労働災害の経験則によるものです。
ヒヤリハットはハインリッヒの法則にある300件の無傷事故にあたり、これらが積み重なれば重大事故のリスクが高くなると考えられています。ヒヤリハットは「事故にならなくてよかった」と終わらせず、再発防止につなげることが軽微な事故や重大事故を防ぐために重要です。
介護現場でヒヤリハットが起こる原因
ヒヤリハットが起こる原因は、「入居者本人によるもの」「介護スタッフや家族によるもの」「施設の環境や設備によるもの」の大きく3つに分けられます。
入居者本人によるもの
入居者本人の身体機能の障害や病状の進行具合などによって自由に身体を動かせない場合、ヒヤリハットが起こる可能性が高まります。歩行が困難な方や認知症の方で起こりやすい事故が、転倒や転落事故です。歩行だけではなく、食事やトイレ、入浴など生活のさまざまなシーンでヒヤリハットは起こります。
事故を防ぐために手すりや滑り止めマットを設置するほか、入居者に適した環境を構築することが大切です。また入居者の病状やその性質を把握しておき、毎日の状態を観察し注意深く見守ることもヒヤリハットの対策につながります。
介護スタッフや家族によるもの
入居者本人ではなく介護スタッフや家族などサポートする側にも、ヒヤリハットの原因となることがあります。介護業界では人手不足が常態化しており、介護スタッフの長時間労働や一人ひとりの業務負担が増加している問題を抱える事業所もあります。介護スタッフの負担が大きくなれば、疲労から集中力の低下を招き、事故の可能性を高めてしまいます。また施設を訪れた入居者家族が介護スタッフに代わって一時的に介護をおこなうこともあるため、介護スタッフと同様にヒヤリハットを起こす可能性があります。
事故を防ぐために介護スタッフへの安全教育や適切な指導、入居者を見守る体制構築など、さまざまな対処法で防ぐ必要があります。
施設の環境や設備によるもの
介護施設の環境や設備が原因となって、ヒヤリハットにつながることもあります。床面の段差や備品の配置が不適切でつまずいたり身体に当たったりするほか、車椅子やベットの点検やメンテナンスが不十分で移るときに転倒するといった事例があげられます。
環境や設備による事故を防ぐため、危険な箇所を事前に把握しておき必要な改善をおこなうことが大切です。床に不要なものは置かない、コード類を踏まないように整理しておく、ベット周りのスペースは空けておくといった必要な対策を講じ、介護スタッフと入居者がともに気をつけて行動する必要があります。
介護現場でヒヤリハットが起こりやすいシチュエーション
どのような状況でよくヒヤリハットが起こっているかを把握しておくことで、事例を踏まえて効果的な対策を図れます。介護現場でヒヤリハットが起こりやすい、5つのシチュエーションに分けて紹介します。
屋内・屋外移動時
移動時は段差のつまずきや車椅子が引っかかるといった事例が起こっています。とくに屋外を移動する際は、施設内のように介護に適した環境づくりの対策が施せず、大きな事故につながる可能性もあるため十分注意しなければなりません。屋外の移動時に入居者が疲れて道端で座り込んでしまったというケースもあり、外出する際は入居者の体調をチェックする、ルートや休憩ポイントを確認するなどの対策が必要です。
車椅子への移乗時
車椅子への移乗は介護現場ではよくあるため、ヒヤリハットも多いシチュエーションです。車椅子のフットレストを上げずに移乗させてしまった、フットレストから足が落ちた状態で車椅子を押してしまったという事例があります。車椅子の使用手順をしっかりと確認し、定着させる取り組みが必要です。
食事・服薬時
食事の際のヒヤリハットは、隣の人の食事を誤って食べそうになった事例です。認知症の方の場合、このような事象を起こす可能性もあるため、席に案内する際に介護スタッフが近くにいる席に案内する配慮が必要です。
また服薬の際も十分に注意が必要です。別の入居者の薬との間違いや、飲む時間帯や量を間違える可能性もあります。薬を間違えるリスクの高い入居者には、介護スタッフが事前に薬をチェックして飲み終わるまで確認することで飲み間違いを防げます。
トイレ・入浴時
トイレで多いヒヤリハットは車椅子とトイレの間や、トイレのドアに足を挟んでしまう事例です。また車椅子からトイレに移乗するときの転倒や便座から転落しかけたというケースもあります。歩行が困難な方を含め、認知症の方で平衡感覚が不安定な方の場合は、トイレの介助をおこない近くで見守る必要があります。
入浴時は脱衣所や浴室での転倒事故が起こりやすい状況です。洗剤が床に残っていると床が滑りやすくなるため、事前にシャワーで床を流すことや歩行が可能な方でも補助をおこなうことが大切です。そのほか冷たい水や熱いお湯が身体にかかってしまったという事例もあるため、スタッフがシャワーの温度を確認する対策も大切です。
着替え時
着替えのときのヒヤリハットが多いシチュエーションが靴下の着脱です。車椅子やベットに座っているときは、前方に倒れやすい状態であるため靴下を着脱して転落するケースもあります。着替えは座る姿勢を整えてからおこなえるようにサポートが必要です。
また着替えのときに身体に内出血や傷などの異常を発見するケースもあるため、介助をおこないながら身体や皮膚の状態を確認することが大きな事故を防ぐ対策となります。
介護現場のヒヤリハットは記録と共有が重要
ヒヤリハットは上述したように 「事故にならなくてよかった」と終わらせず、再発防止につなげる対策を講じなければなりません。ヒヤリハットは介護事故のように報告書作成が義務づけられてはいませんが、報告書へ記録し共有することで、再発防止や介護ケアの向上を目指せます。
ヒヤリハット報告書を書く目的
ヒヤリハットの報告書を作成する目的は、事故の原因を明確にし再発防止策を講じることです。なぜヒヤリハットが起こったのか、正しい手順を踏んでいたか、スタッフの配置は適切だったのかなど原因を深く考えるきっかけとなり、適切な防止策につなげることが可能となります。
そして施設スタッフへの情報共有もヒヤリハット報告書を書く目的の一つです。ヒヤリハットは目の当たりにしたスタッフや入居者だけの問題ではなく、介護施設全体の問題です。ヒヤリハットを情報共有することで、スタッフ全員が危険要因に気づく機会となり意識向上にもつながります。みんなが自分事として捉えて、再発防止に向けて考える必要があります。
そしてヒヤリハット報告書は万が一の事故発生時に、適切な介護をおこなっていたことを証明する材料になります。介護ケアに問題がなかったか、リスク対策をおこなっていたかという普段の取り組みを、行政や家族に説明する際に有効な資料になります。
介護ケアの向上にもつながる
ヒヤリハットの報告書作成は、介護ケアの向上につながるメリットもあります。ヒヤリハットの報告書はただ事実を記録するだけでなく、原因の追及、適切な対策、情報共有までおこなうことが重要です。スタッフ間における認識の統一につながり、介護の連携を図りやすくなります。
また施設全体でヒヤリハットの対策に取り組むことができれば、発生しやすい場所や設備の改善につながり介護ケアがしやすくなります。さらに業務マニュアルの整理や、研修での事例共有にも活用できます。多方面からヒヤリハットの防止につながるとともに、スタッフの介護ケア向上も期待できるでしょう。
ヒヤリハット報告書の記入例
ヒヤリハット報告書は文章量が多くなれば、記入する側も読む側も負担になります。ヒヤリハットの目的である、原因の追及、適切な対策、情報共有を踏まえて、5W1Hを意識して作成します。
見たことや体験したことをそのまま感想文のように書かないこと、だれが読んでも理解できるように客観的な事実を簡潔に書くことがポイントです。記憶が鮮明なうちになるべく早く記録しておきます。
【ヒヤリハット報告書の記入例】
項目 | 記述例 |
---|---|
対象者:Who(だれが) | 入居者名 |
発生日時:When(いつ) | ○○年○○月○○日 ○○時 |
発生場所:Where(どこで) | 浴室 |
発生事象:What(何を) | 入浴時に滑って転倒しそうになった |
発生原因:Why(なぜ) | 浴室の床に泡が残っていたが、入浴前に確認していなかった |
対策:How(どのように) | 入浴前にスタッフが浴室を確認する |
介護現場のヒヤリハットにはクラウドカメラの導入が有効
ヒヤリハットを施設内で積極的に共有することは、重大な事故を防ぐ環境づくりにつながります。環境や設備を整えたり介護マニュアルを見直したりする対策は事故を防ぐ効果のある取り組みですが、スタッフの人員が限られている夜間や、目の届かない場所での事故は少なからず発生する可能性があります。
そのためヒヤリハットを予防するためには積極的なツールの活用が有効。おすすめのツールの一つがクラウドカメラです。
介護現場におけるクラウドカメラの有効性
クラウドカメラとはネットワークを介して、撮影した映像や音声をクラウド上に保存し、遠隔地から確認できるカメラです。クラウドカメラを設置することで、離れた場所からもリアルタイムで現場の状況を把握でき、記録した映像を振り返って正確な事実確認がおこなえるようになります。
【離れた場所でも施設内や居室の見守りができる】
介護スタッフは入居者が安全に過ごしているか確認するため、施設内や居室を見回る必要があります。しかし、見回りの頻度が多いことで介護スタッフの負担になるといった懸念があります。
クラウドカメラを設置すれば、スタッフルームからパソコンで確認することも作業中にスマホから確認することも可能です。介護スタッフの労働負担や、異常が起きていないかという精神的な負担も軽減できます。
【事故発生時に客観的な状況把握ができる】
万が一事故が発生した場合、適切な治療や家族の説明のためにも詳細な状況を把握する必要があります。しかしスタッフがその場にいない場合は事実確認が難しくなることもあり、場合によっては入居者や家族からスタッフに対する不信感を持たれる可能性もあります。そのためクラウドカメラを設置しておくことで経緯を映像に記録できるため、客観的な状況把握が可能となり入居者や家族に安心感を提供できます。
【介護ケア品質の向上につながる】
映像を振り返ることで、ヒヤリハットの発生原因を正しく把握できるため適切な改善策を立てられます。さらにカメラ映像をスタッフ間に共有することで危険な要因の事例を学習できるうえに、人材育成の教材としても活用できます。
クラウドカメラによって見回りの業務負担の軽減につながれば、余力が生じた分、ほかの介護ケアに当てられるといったメリットもあります。クラウドカメラの設置によって介護ケア品質の向上も期待できます。
ヒヤリハットの再発防止にはクラウドカメラの検討を
ヒヤリハットを再発防止することで、重大な事故を防ぐことにつながります。事故にならずにすんだで終わらせず、介護スタッフが積極的にヒヤリハットの事例を共有し施設全体で改善を図る体制が重要です。また介護スタッフだけの力ではすべてのヒヤリハットを防止することが困難な状況もあるため、クラウドカメラの導入が効果的です。
セーフィーはクラウドカメラを提供し、さまざまな企業様の課題解決をサポートしています。介護業界の企業様にもクラウドカメラを提供した実績もありますので、ヒヤリハット対策を含め介護事故を防ぐ対策をお考えの方は、ぜひセーフィーにご相談ください。
- オンラインでのご相談
- 入力項目はたった5つで簡単に予約可能!
- お客様の課題や目的に合ったカメラの活用方法について、事例と併せてご提案します。
- お気軽にご相談ください。