大阪・関西万博を超えて──企業リーダーが語る関西経済の未来とDX戦略とは?

特集

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2025年4月13日から大阪・関西万博が開幕し、関西経済に新たな活気をもたらすことが期待されています。関西のさらなる発展を見据え、昨年9月、セーフィーはうめきた「グラングリーン大阪」の中核機能施設「JAM BASE」6階に、関西ショールームおよびオフィスをオープン。同月25日にオープンセレモニーを開催しました。

セレモニーではオリックス株式会社 高橋 豊典さん、株式会社アワーズ 山本 雅史さんにご登壇いただき、弊社代表 佐渡島も交え、「After万博の関西経済成長のための産業創出に向けて」と題したトークセッションも実施しました。関西経済やDXの今後をめぐり、大いに盛り上がったトークの様子をレポートします。

登壇者のご紹介

高橋 豊典さん

高橋 豊典様
オリックス株式会社 執行役 関西グループ代表
オリックス不動産株式会社 専務執行役員

オリックス株式会社 執行役 関西グループ代表

オリックス不動産株式会社 専務執行役員

オリックス株式会社は「グラングリーン大阪」の開発事業者JVの1社であり、2017年からはセーフィーとも資本業務提携を締結。オリックスグループとして、不動産投資、空港運営、プロ野球球団運営、ホテル事業など、関西を中心に幅広い事業を手掛けていらっしゃいます。

山本 雅史さん

山本 雅史様
株式会社アワーズ 代表取締役社長

株式会社アワーズ 代表取締役社長

和歌山県白浜町にて、動物園、水族館、遊園地を有する大人気の複合型テーマパーク「アドベンチャーワールド」を運営。約1600頭の動物たちを飼育するスタッフの業務効率化にSafieをご活用いただくなど、パーク運営におけるDXを多角的に推進されています。

トークテーマ.1 関西経済の盛り上げをどう推進するか

トークテーマ1のスライド

関西のスタートアップは、「アジアでどう勝ち抜くか」のフェーズにある(高橋さん)

佐渡島:大阪は2025年4月の大阪万博開催を皮切りに、カジノを含む大阪IRの開業、なにわ筋線開通、リニア新幹線開通など、大規模な経済効果を見込める大型投資が続々と予定されています。一方で人手不足などの課題もある中、関西経済を盛り上げるために私たちはどうあるべきか、感じていらっしゃることをお聞かせください。

高橋さん:関西経済のグロースに向けてはスタートアップなどの産業育成や、DX推進といったことが不可欠だと思います。しかし、今や関西のスタートアップは0を1にするだけで頭一つ出るのは難しく、1を100にするフェーズで勝負することが求められていると感じます。東京だ、大阪だというレベルの話ではなく、シームレスに「アジアの中で関西がどう勝ち残るか」が重要テーマだと思うからです。もう一つ課題感を持っているのは、インバウンドの方々の受け入れ方についてです。単に来てお金を使っていただく発想から一段階上げて、私たちの文化をどうアウトプットし、来訪のリピート性を上げるか。こちらも、関西経済のグロースを考える上で大事なテーマになると思っています。

オリックス高橋様

佐渡島:事業を1から100にする局面ではピボットが必要なときもあると思います。オリックスさんはピボットを重ねてきたような歴史をお持ちの会社さんですが、なぜ、異なる領域への挑戦に踏み切ることができるのでしょうか? 

高橋さん:当社には昔から新たなものに挑戦する風土があります。また、関わる人の幸せをどう生み出すか、そのスピリッツを持った人材の育成に尽力してきたという自負もあります。そうした社員に多様な領域で活躍してもらうことで、人の成長と企業の成長がリンクしてきたのだと思います。

関わる人を幸せにしたい。その思いが共通の原動力(山本さん)

佐渡島:ピボットでいうと、アワーズさんのグループももともとは建設会社から始まり、現在ではアドベンチャーワールドというエンターテインメントにも携わっていますね。どんな思いがあったのでしょうか?

山本さん:創業者である私の祖父は、近くにいる人を幸せにしたいとの思いで仕事を続け、大工職人から上場企業の経営者になった人でした。46年前、アドベンチャーワールドの前オーナー様から事業を引き継いだときも思いは同じで、みんなに楽しんでほしいとの気持ちが強かったようです。そのスタンスは現在の私たちにも通じており、当社は今、テーマパーク事業をしながらMICE事業やeスポーツ、といった事業も手がけています。

アワーズ山本様

一見バラバラですが、そこに人がいて、成長して、その事業をやりたい人が出てきた瞬間に、どんな領域にもチャレンジできるという本質は変わらないと感じています。オリックスさんが大きな枠組みで実現されてきたことに、中小企業の私たちも、挑戦することで関西経済の発展に貢献したいと思っています。

佐渡島:まったく別の領域のチャレンジが最後に全てつながる、といったことが起きたら素敵ですよね。うめきたエリアの開発でもさまざまなプロジェクトが進行していますから、当初の想定にはないシナジーが生まれ、大きく羽ばたけるのではないかと楽しみです。

トークテーマ.2 人手不足や課題解決に向けたDX

高度な技術伝承は、DXが生む価値の一つ(高橋さん)

佐渡島:DXは人手不足解消などを通じて生産性に寄与するだけでなく、新たな価値にチャレンジする人的・時間的リソースを生み出す効果もあると思います。こうしたDXによる付加価値の創出については、どのようにお考えでしょうか? 

高橋さん:私が注目しているのは教育の効率化、具体的には「匠の技をどう伝えるか」です。DXをうまく活用すれば、口頭ではなく視覚から入ったものの蓄積を得ることができます。言い換えると、日本の伝統的な技術を圧倒的な情報量で伝承できるわけです。これは生産性の向上にとどまらない、DXの大きな価値だと思っています。

DXは手段。真の目的は新たな価値へのチャレンジ(山本さん)

山本さん:当社はDXに積極的で、現在計画を進めているものの一つに、動物のためのセントラルキッチンがあります。

これはパーク内にセントラルキッチンを設け、担当の飼育スタッフが担っていた動物の食事づくりを集約するというアイデアです。飼育スタッフは必要分をキッチンにオーダーし、キッチンでつくった食事は輸送ロボットが各獣舎に届けます。そうすれば、飼育スタッフには時間的な余裕ができ、新たな価値へのチャレンジもより充実すると考えています。また、障害のある方の雇用創出にもつながると考えております。

真の目的は次のチャレンジを行うこと。その時間を生むために生産性の向上が必要で、DXはあくまでも生産性を高める手段に過ぎない──。当社では、そんなイメージでDXを捉えています。

来場者との質疑応答~インバウンドへの取り組み、業務効率化の考え方

イベントの会場内の写真

トークセッションのラストでは、登壇者のお2人が来場者の方々からの質問にお答えする時間も設けられました。その一部も併せてご紹介します。

Q.インバウンド需要拡大への対策は?

A.小旅行の選択肢に入るよう、海外ニーズに合ったプランを策定(山本さん)

Q.今後も増加が見込まれるインバウンドの方々の受け入れ拡大にあたり、何か対策していることはありますか?(関西エアポートサービス勤務 K様)

オリックス高橋様、アワーズ山本様

山本さん:現状、アドベンチャーワールドのために日本に来ていただくのは難しいと思っています。しかし関西を目的地とするインバウンドの方は大変多く、また海外旅行においては、目的地から車で2時間ほどの範囲内なら、足を延ばして出かける小旅行の対象になるという調査結果もあります。こうしたことから私たちは、ショートトリップの行先としてアドベンチャーワールドが選択肢に入ることが極めて重要だと考えており、現在、海外のお客様のニーズに応えるツアープランなどを策定中です。

Q.業務の改善施策をインプットするために、意識していることは?

A.コミュニケーションを厚くし、モチベーションを上げることが生産性向上の近道(高橋さん)/やりたい仕事を実践できる環境づくりと、丁寧なフォローを両輪で(山本さん)

Q.業務効率化などの改善施策について社員の理解を得るに当たり、意識していることはありますか? 外発的動機づけなどの工夫を行っているのでしょうか?(ベンチャーキャピタルファンド運営 H様)

高橋さん:人手不足を解消すると、時間が生まれます。私は、その時間を社員とのコミュニケーション拡充に当て、悩みなども吸い上げてモチベーションアップに振り向けることが大切だと思っています。最終的には、それが生産性向上への大きな機動力になると感じています。

山本さん:私も、人は好きなことをやっているときが最も生産性が高いと思いますので、やりたい仕事を自ら考え、実践するモチベーションをみんなが持てる会社が理想です。一方で、当たり前に行われてきた仕事の中で、今の時代も不可欠なものは限られていますから、DXに関してはトップダウンになることも少なくありません。それだけに、フォローは丁寧に行うよう心がけています。

関西の可能性を拡げ、チャレンジする文化の醸成を(山本さん)/企業横断で連携し、スクラムを組んで突き進む(高橋さん)

佐渡島:現場のWILLと、トップのビジョンの掛け算で、価値あるDXが成り立つのだとあらためて感じました。では最後に、お2人から来場者の皆様へのメッセージをお願いいたします。

オリックス高橋様、アワーズ山本様の背後写真

山本さん:革新的なことを多様に受け入れてきた関西のまだ見ぬ可能性に気づき、チャレンジする文化をもっと醸成したいと思っています。もはや個社で何かをやるのではなく、多くの企業さんと一緒に価値をつくっていく時代だと思います。当社もその一員になれたらと思っています。

高橋さん:関西ほど多様性を受け入れる街は、ほかにはないと思っています。あとはどのように各社がパートナーシップを築き、スクラムを組んで突き進んでいけるかに尽きるのではないでしょうか。関西を離れて活躍する方の中にも、関西の後進育成に意欲的な方は多くいらっしゃいます。うめきた「JAM BASE」はそういう方々が集まり、次世代が育つ理想的なスパイラルの舞台になると確信しています。ぜひ皆様と一緒にがんばっていきたいと思います。

佐渡島:本日はありがとうございました。

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