フォークリフトに起因する労働災害は多く、国内の災害件数は2020年に減少しましたが近年はまた増加傾向にあります。ヒヤリハット事例を把握し、具体的な事故防止対策を講じましょう。フォークリフトのヒヤリハット事例や運転時の注意点、事故防止に役立つ安全ツールなどをまとめました。
目次
フォークリフトの事故件数
厚生労働省が発表する労働災害統計を基にした「フォークリフト災害情報」(※1)によると、2022年度のフォークリフトに起因する労働災害死傷者数は2092人。うち死亡者数は34人にのぼります。
フォークリフトに起因する労働災害は2020年に減少したものの、その後はやや増加傾向に転じている状況です。各社が適切な対策を講じることで、事故件数を減らしていくように努めることが求められます。
※1 出典:“フォークリフト災害情報”.株式会社 ツールマート.(参照:2024-6-26)
フォークリフトの事故の種類
フォークリフトに起因する事故は、主に以下の4種類です。
- 転落・墜落事故
- 挟まれ・巻き込まれ事故
- 作業者との激突事故
- 転倒や横転により下敷きになる事故
それぞれの事故の概要を見ていきましょう。
転落・墜落による事故
フォークリフトによる転落・墜落事故は、あとを絶ちません。具体的には、フォークリフトで作業している最中に、段差や高台にいたフォークリフトごと、あるいは作業員が荷台から墜落・転落してしまう事故のことです。
縁にガードや車輪止めのない場所を走行中に、ブレーキを踏むのが遅れてしまったり、旋回する際に片側のタイヤがトラックヤードからはみ出したりすることで、フォークリフト自体が転落してしまうケースがあります。
挟まれ・巻き込まれ事故
挟まれ・巻き込まれ事故も多い傾向です。フォークリフトを運転中、旋回時に近くにいた作業員を巻き込んだり、フォークリフト後部と壁などの間に挟んだりする事故がみられます。そのほか、壁や柱に衝突したフォークリフトから運転者が放り出され、倒れてきたフォークリフトに挟まれてしまうケースもあります。
作業者との激突事故
作業者との激突事故も少なくありません。不慣れな運転者のブレーキの遅れやハンドル操作ミスによって作業者と激突してしまうケースや、バックしている際に死角にいた作業者に気づかずに接触してしまうようなケースです。
スピードを出しすぎていると、事故による被害も大きくなる可能性があるため、走行時のスピードの出し過ぎには十分な注意が必要です。
転倒や横転により下敷きになる事故
フォークリフトが転倒や横転をしてしまい、作業者が下敷きになったり強打してしまったりする事故も発生しやすいといえます。フォークリフトが横転するのは、旋回時にスピードを出したままであったり、最大荷重をオーバーした荷物を持ち上げる際に、重心が前に傾いたりするときなどが挙げられます。
スピードを出しながらの旋回や最大荷重以上の荷物を持ち上げることは事故につながるため、避けなければなりません。
フォークリフトのヒヤリハット事例
ここでは、フォークリフトのヒヤリハット事例をいくつかご紹介します。
荷物を押さえようと転倒しそうになった
工場内で、フォークリフトの爪から荷物が落ちそうになったため、フォークリフトから勢いよく降りて落ちないように対応しようとしたところ、転倒しそうになったケースです。この事業所では、その後、「無理な荷物の積み方をしない」「従業員同士が危険な状態を注意し合う」ことを徹底したところ、フォークリフトでの作業中の危険な状況が減少しました。
飛び降りた際に足首をひねりそうになった
荷物を運搬していたフォークリフトから飛び降りてしまったことで、足首をひねりそうになった事例もみられます。この事業所では、フォークリフトから降りる際は、ステップなどを使用して安全に降りるように周知しました。
バックした際に作業者とぶつかりそうになった
フォークリフトでバックした際に、死角にいた作業者とぶつかりそうになったというヒヤリハット事例です。当該事業所では、再発防止のための対策として、「運転者は常に周囲に人がいないか確認する」「作業者は、フォークリフト運転者の死角になりそうな場所に入らない」ことをルール化しています。
フォークリフトの運転時・作業時に意識すべきこと
フォークリフトの運転時・作業時は、ヒヤリハットや事故を防ぐために以下のようなポイントを意識しましょう。
- 走行時に死角が生じやすい
- 思い込みが事故につながる
- 急なハンドル操作を避ける
- パレットの上に乗って作業をしない
各ポイントを解説します。
走行時に死角が生じやすい
フォークリフトの車体後部にはウエイトが搭載されており出っ張っているため、走行時に死角が生じやすくなっています。車体前方のフォークで荷物を持ち上げる際、その重みで車体が前に倒れるのを防ぐためです。
さらに「マスト」とも呼ばれる、フォークのレール部分によっても死角が生まれやすくなります。何も載せていなくても視界を遮られるため、荷物を持ち上げたときはさらにみえなくなってしまうでしょう。
そのほか、フロアデッキに立ち乗りして操作するタイプのフォークリフトは、とくに右の後ろ側に死角が生まれやすいため、バック走行時には注意しなければなりません。
思い込みが事故につながる
「思い込みが想定外の事故につながる」ことを常に意識することも重要です。たとえばヒヤリハットとして、「フォークリフト走行中にほかの産業車両の隣をすり抜けようとした際、車体の下に潜り込んでいた作業員が突然出てきて、接触しそうになった」という事例があります。
突然の出来事を事前に予測することは難しいものの、このケースでは、まさか車の下から人が出てくるとは思っていません。「見える範囲では人がいないから安全だろう」という、運転者の思い込みが危険を招いています。想定外のことが起こる可能性があると考えながら、慎重に運転することが不可欠です。
また、産業車両の横を通るときは最徐行したり、クラクションを鳴らしてこちらの存在を知らせたりすることも必要です。
ハンドル操作は小さくする
フォークリフトはその構造上、少しハンドルを回しただけで想像以上に大きな角度で曲がることが特徴です。そのため、事故を防ぐためにはハンドル操作は小さくする必要があるでしょう。
前輪操舵の乗用車とは異なり、後輪が先に動く後輪操舵であるため、ハンドルを大きく切ると外輪差によって軌道が大きく外に膨らみます。それによって車体のバランスが崩れ、横転などの事故を引き起こしやすくなります。普通乗用車のような感覚でハンドルを回すことは避け、小さく回すことを意識し続けましょう。
そもそも、フォークリフトの操作は左手でハンドルを握り、右手は右足太ももの上に軽く置いておくのが基本の姿勢です。基本の操作法に立ち返ることも、安全確保のためには必須といえます。
パレットの上に乗って作業をしない
基本的に、フォークリフトのパレットに乗ることは避けましょう。フォークリフトで持ち上げたパレットや爪の上に乗って作業をしたことによる事故は、多数発生しています。どうしてもパレットに乗って作業しなければならない際は、必ず安全帯を使用しましょう。
フォークリフトの事故防止策
フォークリフトによる事故やヒヤリハットを防ぐには、運転者や作業者に対しての呼びかけにとどまらず、企業としての具体的な対策が求められます。事故防止に有効と考えられるのは、以下のような対策です。
- フォークリフト専用通路を設ける
- 指差し確認・呼称確認を徹底する
- 定期的にトレーニングを実施する
- 安全ツールを導入する
フォークリフト専用通路を設ける
フォークリフト専用通路を設け、人が立ち入る区域を明確にわける方法です。
フォークリフトはその構造上、死角が生まれやすいことが特徴です。細心の注意を払っていても、周囲の作業者の存在に気づきにくい側面があります。そのため、あらかじめフォークリフトが走行する区域と人が立ち入る区域をわけるといった、根本的な対策が効果的だと考えられます。
目立つ色のテープを貼るなどして、どこからどこまでがフォークリフトの走行区域であるかを、誰が見てもわかりやすくすることが重要です。旋回時の稼働区域については、フォークリフトの爪先や後部が描く弧の大きさを踏まえ、適切に決定しましょう。
指差し確認・呼称確認を徹底する
指差し確認や呼称を徹底することも、フォークリフトに起因する事故防止につながる有効な対策です。指差し確認や呼称確認をすることで、その対象にしっかりと注意を向けられる効果があります。とくに、フォークリフトが停止している状態から動き出す際、必ず行うように徹底することが重要です。
定期的にトレーニングを実施する
フォークリフトの事故防止対策として効果が見込めるものとして、危険予知トレーニング(KYT)も挙げられます。危険予知トレーニングとは、業務に潜む危険要因などを事前に発見し、解決能力を高めるためのトレーニングのことです。定期的な危険予知トレーニングを通じて、フォークリフト作業に潜む危険要因や環境を抽出・共有できるため、安全性の向上が実現します。
また、安全運転や適切な荷物の積み方ができているかのテストを行うこともおすすめです。日頃から定期的に危険予知トレーニングや運転のテストなどを行い、フォークリフトのヒヤリハットや重大事故を防ぎましょう。
安全ツールを導入する
フォークリフトを安全に運転するためのツールを導入することも、事故防止に役立ちます。たとえば、以下のようなツールの活用が効果的です。
ドライブレコーダー
近年では、フォークリフト専用のドライブレコーダーも登場しています。作業状況を映像で記録できるため、万が一事故が発生した際に原因究明に活用でき、再発防止に有効です。
スピード警告装置
スピード警告装置の導入も、フォークリフトでの作業中の事故の抑制効果が期待できます。スピードを出しすぎたときに、チャイムやブザー、車両につけた赤色灯の点灯などによって、運転者や周囲の人に警告してくれます。
クラウドカメラ
クラウドカメラを設置することで、クラウド上に保存された実際の作業中の映像を振り返り、注意喚起を行うことが可能です。さらに、映像データの分析によって事故やヒヤリハットの原因を確認し、危険予知や事故を誘発する行動の是正も可能です。
フォークリフトのヒヤリハット事例を知り適切な対策を検討しよう
フォークリフトに起因する事故は毎年数多く発生しており、各社が適切な対策を講じることが求められます。ヒヤリハット事例を共有し、事故を誘発する可能性のある要素を排除していきましょう。
安全運転のコツや適切な荷物の積み方など、運転者への意識づけを行うと同時に、企業としてもフォークリフト専用通路の設置や定期的なトレーニングの実施などを行う必要があります。近年はフォークリフトの事故防止に役立つさまざまな安全ツールが登場しているため、それらを活用することもおすすめです。フォークハットのヒヤリハット事例を知り、自社に必要な対策を行うことで、事故の発生を未然に防ぎましょう。
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