社内DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で、人材不足は多くの企業が直面する課題です。新たな人材の採用、既存社員のリスキリング、デジタルツールの導入など、社内デジタル化に伴いさまざまなアプローチが求められるでしょう。本記事では、DX人材育成の段取りやコツ、人材開発支援助成金の活用まで詳しく解説します。
目次
DX人材が必要となった背景
急激な変化を見せるデジタル社会において、企業が生き抜くために社内DXの推進は欠かせないものになっています。経産省が示した「2025年の崖」では、レガシーシステム(古いシステム)によって発生する経済損失が年間12兆円まで増加する可能性を指摘しました(※1)。
※1 出典:”DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~” .経済産業省 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会.2018-9-7(参照 2024-4-26)
新しいテクノロジーに順応しないことが、企業にとってのリスクになる可能性も示唆しているのです。また、業務効率化やコスト削減、ニューノーマルな働き方など、DXを推進することで得られるメリットは多岐に渡ります。
こうした背景から、DXを牽引する人材の需要が社会全体で高まっており、経済産業省の試算によると2030年までに最大で79万人のIT人材が不足すると公表されました(※2)。DX人材の採用と育成は、業種や職種に関わらず多くの企業にとって喫緊の課題と言えるのです。
※2 出典:”参考資料(IT人材育成の状況等について)” .経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課.2017-4-25(参照 2024-4-26)
そもそもDX人材とは?
DX人材とは、デジタル技術を活用してビジネスの改革を推進する人材の総称です。一例として、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)では、DX推進を担う人材を次の6種に定義しています。
人材の呼称名 | 人材の役割 |
---|---|
プロデューサー | DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材 |
ビジネスデザイナー | DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進などを担う人材 |
アーキテクト | DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材 |
データサイエンス/AIエンジニア | DXに関するデジタル技術(AI・IoTなど)やデータ解析に精通した人材 |
UXデザイナー | DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材 |
エンジニア/プログラマ | 上記以外にデジタルシステムの実装やインフラ構築などを担う人材 |
一人の優秀な人材がこれらすべてのスキルを持ち合わせることは現実的でなく、専門的なスキルを持ち合わせた複数人のスペシャリストがチームとして機能することが理想です。チームのDX人材には、派遣・請負により外部有識者の力を借りても問題ありません。
また、ITリテラシーといった基礎的なスキルについては、所属部署に関係なく全社員に求められます。一人の優秀なDX人材が、社内全体のデジタル化を実現できない点に注意しましょう。
DX人材を育成するメリット
外部の有識者に社内DX化を任せる手段もありますが、自社のビジネスや課題に精通したDX人材を育成することで、次のようなメリットがあります。
自社に最適なDXの実現
社内の事情をよく知るDX人材を育成することで、一貫性のあるシステム構築や自社業務と親和性の高いデジタル化の推進に貢献します。また、現場の声をくみ取りやすいのも自社でDX人材を育成するメリットと言えるでしょう。
外部委託の業者に頼る場合であっても、デジタル化によって自社で「できること」「できないこと」の理解が高まるため、ステークホルダーとのコミュニケーションがスムーズです。
スムーズな社内体制づくり
事業部門や営業部門など、システムの連携には各部署との協働が欠かせません。社内のDX人材は、こうした部門間の橋渡し役になり、円滑な社内体制の構築に寄与します。
DXの意義や目的を社内に浸透させる上でも、デジタル化の必要性を解説し、マインドセットから社内の意思統一までをサポートします。
自社の後進者の育成
ノウハウの蓄積や後輩社員の育成においても、社内のDX人材の活躍が期待できます。OJTやOFF-JTを通じて、自社のビジネスとデジタル技術を結びつけて考えられる人材育成に寄与するのも社内DX人材の大きなメリットです。
一長一短で実現できるものではありませんが、長期的に継続することで社内のITスキルの向上にも寄与します。
社内でDX人材を育成する方法
社内でDX人材を育成するには、おおきく次の4ステップで推進するのが一般的です。
Step1. DXの目的と人材像を明らかにする
まずDX化の実現に向けて、社内全体のITスキルの底上げは欠かせません。その一方で、DX化の推進を任せる社員は、適性を持った人物でなければプロジェクトが頓挫するリスクがあります。
DX人材の特性は、会社や業務に対する「問題提起」「原因の深掘り」「課題解決」などの高いスキルが必要です。ほかにもプロジェクトマネージャーに求められる「コミュニケーション力」「マネジメント力」などが必要になるケースもあるでしょう。
社内DXを推進する目的と求める人物像を一致させることが重要です。現在のITスキルだけを評価するのではなく、長期的なスパンで育成できる人材を選ばなければなりません。
Step2. 育成対象者を選びカテゴライズする
DX人材の育成対象者は基本的に「全社員」になりますが、どの程度のレベルを求めるかによってカテゴリー分けが必要です。
カテゴリー分けのスキルレベルは企業によりさまざまですが、たとえば次のような例があります。
一般企業で求められるカテゴライズの一例
レベル | 対象者 | スキル |
---|---|---|
1 | 全社員 | 日常業務でデジタルツールを利用できる |
2 | デジタル活用人材 | デジタル知識で社内DXを推進できる |
3 | DX専門人材 | 高度なデジタルスキルでDXを実現できる |
一般的な企業では、この程度のカテゴライズで問題ありませんが、さらに高度な階級制度を設けるにはIPAは次のように定義しています。
IPAで求められるスキルレベル
レベル | スキル |
---|---|
1 | 情報技術に関する最低限必要な基礎知識 |
2 | 上位者の指導の下に、要求された作業を担当 |
3 | 要求された作業をすべて独力で遂行 |
4 | 独力で業務上の課題の発見と解決をリードするレベル |
5 | 社内においてテクノロジーやメソドロジ、ビジネスを創造し、リードするレベル |
6 | 国内のハイエンドプレーヤ |
7 | 世界で通用するプレーヤ |
世界で認められる高度なレベルまでカテゴライズされているため、一般企業がレベル7までのITスキルを追求する必要はありません。ただし、自社がどの程度のレベルを目指すか指針にすることが可能です。
Step3. OFF-JTとOJTの推進
人材育成には、OFF-JT(座学での研修)とOJT(実務での研修)の両論が欠かせません。OFF-JTでは、デジタル技術やITリテラシーの基礎知識を体系的に学びます。社外の研修プログラムを活用する方法も有効です。
OJTでは、プロジェクトへの参画を通じて、実践的なスキルを身につけます。専門性の高いプロジェクトでは、外部の有識者と協働する方法も可能です。教育対象者のメンターをつけるなど、サポート体制の整備にも力を入れましょう。
Step4. 継続した学びの環境の構築
人材育成は一時的な取り組みではなく、継続性のある学びの環境を整えなければなりません。そのためには、社内でのナレッジの仕組みづくり、外部コミュニティの参加支援など、自発的な学習を後押しする施策が有効です。
また、DX人材のキャリアパスを明確にすることも重要です。新しいスキルを習得し、活躍の場を広げる環境が整えば、社員全体のモチベーションアップにもつながるでしょう。デジタル人材の育成と定着には、長期的な取り組みが求められます。
DX人材育成のコツ
DX人材育成に失敗しないためには、成長マインドセットやデジタルツールの活用が理想的です。そのなかでも特に重要な4つの視点について解説します。
経営層のリーダーシップと支援体制が重要
経営層の理解なくして、DX人材の育成は叶いません。トップが率先してDXの意義を語り、変革をリードする姿勢を示すことが求められます。個人のやる気に任せる訳でなく、人事部門や事業部門などが連携して、全社的な取り組みとして巻き込む必要があります。
経営層が旗振り役となり、社内がとどこおりなく協力できる体制を構築することがなによりも重要です。
社内全体のITリテラシー向上を図る
DX人材の育成は、一部の社員に注力して実現できるものではありません。社内全体のITリテラシー向上が不可欠です。社員のマインドセット改革を促し、デジタル活用に対する意識を高める施策が求められます。
たとえば、デジタル化の基礎知識を教える社内セミナーの開催、デジタルツールの活用事例の情報共有など、全社員のデジタルリテラシーが向上することでDXの実現もスムーズになります。
外部の知見を積極的に取り入れる
生成AIや5Gなど、デジタル技術は次々と新しいものが生まれています。そのため、自社の知見だけでDX人材を育成することは容易ではありません。DXの先行企業の事例から学ぶことも多いでしょう。
外部スペシャリストの派遣請負、他社との交流会の開催など、社外の知恵を吸収する機会を設けましょう。外部リソースを有効活用することで、DX人材の育成をより効果的に進められます。ただし、外部の知見をそのまま取り入れる訳でなく、自社の内情に合わせてアレンジを加えることが肝要です。
デジタルツールの活用
デジタル技術を駆使したツールを効果的に導入することで、人材育成の質とスピードを高められるでしょう。たとえば、HRテックやクラウドカメラなど、人的資源の管理や映像を用いた技術継承といった活用方法が期待できます。
HRテクノロジー(HRテック)
デジタルオンボーディングやデジタル採用プラットフォームなど、HRテックを活用することで、人材育成の効率化を期待できます。たとえば、AIを活用した適性検査により育成候補をピックアップできる「タレントマネジメント」、eラーニングによる学び環境を提供する「LMS(学習管理システム)」など、人的資源を管理するための機能が豊富です。
クラウドカメラ
映像データや映像解析を用いて、業務の効率化や技能継承などに活用できるのがクラウドカメラです。たとえば、熟練工の作業をクラウドカメラで撮影し、言葉や図解では伝えきれない暗黙知をデジタルデータで保管できます。
また、AIカメラを用いることで、作業者の滞留時間や特定ポイントを通過した動線の人数カウントなど、アナリティクスの情報を集めることも可能です。
映像の解析や映像を用いた技術継承など、現場の作業者にとって理解しやすいデジタル化の推進としておすすめです。
デジタル人材育成は助成金も活用できる
DX人材育成には一定のコストがかかりますが、助成金を活用することで企業の費用負担を軽減できます。厚生労働省の「人材開発支援助成金」では、OFF-JTにかかる経費の一部を助成しています。
人材開発支援助成金の支給額と要件の概要
コース名 | 支給額 | 代表的な要件 | 支給額限度 |
---|---|---|---|
人材育成支援コース | ・経費助成率:30〜100%・賃金助成額:1時間あたり380〜960円・OJT実施助成額:9〜25万円 | ・10時間以上のOFF-JT ほか | ・1人あたり10〜50万円・1事業所あたり1,000万円 |
人への投資促進コース | ・経費助成率:45〜75%または20〜36万円・賃金助成額:1時間あたり380〜960円・OJT実施助成額:11〜25万円 | (訓練メニューにより要件は異なる) | ・1人あたり7〜500万円・1事業所あたり30〜2,500万円 |
事業展開等リスキリング支援コース | ・経費助成率:60〜75%・賃金助成額:1時間あたり480〜960円 | ・10時間以上の実訓練時間数 ほか | ・1人1訓練あたり20〜50万円 |
※「教育訓練休暇付与コース」は令和4〜9年の間「人への投資促進コース」に位置づけられます。
出典:”人材開発支援助成金” .厚生労働省.(参照 2024-4-26)
コースは主に3種類に分かれており、「人材育成コース」は利用要件が幅広くさまざまな企業で利用しやすい制度です。一方の「人への投資促進コース」と「事業展開等リスキリング支援コース」については、より専門的な内容を含んでおり、要件は厳しくなりますが、助成額も高い傾向にあります。
ここでは、一部を抜粋した情報のみを記載しているため、それぞれの詳しい情報については、厚生労働省のHPよりご確認ください。
デジタル化の成功には人材育成がカギを握る
DXの推進には、専門部署を立ち上げるだけでは不十分であり、全社的なITリテラシーの向上を図り、デジタルツールを使いこなせる人材を増やすことが重要です。しかし、DX人材育成に成功できれば、デジタル化に対する社内の理解が深まり、加速度的な成長を見せることでしょう。
そのためには、まずは視覚的で作業者が理解しやすいデジタルツールの導入も一つの手段です。セーフィーでは、防犯カメラをはじめとする映像ソリューションを活用して、企業の抱える課題解決をサポートしています。
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