人材不足にあえぐ建築業界では、年々大工の減少と高齢化が課題となっています。大工人口は20年で半減するとともに60歳以上の割合が30%以上となっており、このままだと2040年には10万人を切るとも言われています。
人手が足りない中、デジタルを活用した現場の業務効率化と人材育成が急務となっています。ライフデザイン・カバヤ株式会社が、これらの課題に対してSafie(セーフィー)のカメラをどのように活用しているのか、どのような考え方を大切にして運用しているのか、執行役員・工事本部長の山岡嘉彦氏にお話を伺いました。
遠隔で施工管理をする現代版棟梁を育てる
─どのような場面でSafieのカメラを活用されていますか
主に遠隔での現場管理に活用しています。当社は本社が岡山にあるのですが、西日本を中心に展開しており九州や沖縄の施工現場も多いです。Safieのカメラ導入後は現場監督が岡山にいながらカメラを通して沖縄の現場の進捗状況を把握するといったことができるようになりました。
─導入の背景を教えてください
一時期建築業界では人材不足を解消するために大工さんに木工事だけでなく様々な工種を施工できる多能工化という考え方が流行りました。確かに多能工だと一人が外壁工事も内装工事もやれるので人手がいらないと一見感じますが、それだと外壁工事をやっている間は中の工事ができませんよね。
昔の棟梁って自分で全部やるわけではなくて、左官屋さんとか家根屋さんにそろそろ現場に入ってくれないかと依頼する。そういうスタイルに戻すことで管理の立場の人材不足が解消できるんじゃないかと。
本当は元来の多工種での施工の方が工期も短縮できますし、それこそ専門性の高い人に頼むので品質が良くなる。だから、当社はいろんな人が関わって組み上がっていく現場を、いかに効率よく管理するかという視点でカメラを導入しました。
映像情報によって効率と正確性が向上
─導入前と比べて便利になった点はありますか
まず以前は現場に行かないといけなかったので、移動時間がなくなったのは業務効率の向上ですし、さらに社員の労働時間短縮など働き方改革につながっていると思います。
導入前は現場に行けないときは電話や携帯の写真で連絡を取り合って指示を出していたんですが、やはりカメラを通したリアルタイムの映像はわかりやすいですよね。映像を確認しながら指示をするから指示を出す方も出される方も正確なやり取りができる。
さらに映像だと周辺のことも見えるじゃないですか。「外壁のことはわかったけど、そこの足場もちゃんと直して」といった指示もできる。音声だと言われたこと以外はわからないので、映像の情報の多さはすごく役に立っています。
─安全面での貢献はいかがでしょう
現地のリアルな状況を確認できるようになったというのはすごく大きいです。現場って監督がいるときは絶対しっかりやりますよね。でも、現場を離れているときにどうしているかはこれまでわからなかったわけです。
それが、カメラを設置して遠隔で覗いてみると「今ヘルメットかぶってないじゃないか」ということがわかる。もちろん現場の作業員もカメラが設置されていることは知っていますが、やはり素が出るのでそこをしっかり指導できるようになったのは進歩だと思います。
また、録画機能も役立っています。たとえリアルタイムでカメラを見れていなくても、夕方くらいに「今日の現場はどうだったかな」ということで早送りして1日の様子を確認するということが可能になりました。
あと、近隣から作業終了時間を過ぎて作業の音がしてうるさかったといった苦情が寄せられた際に、誰が何時まで作業して出入りしていたかというのも確認することができる。映像に残った事実をもとに話をできるというのはすごく良いですね。
社員によるアナログルールの意味を見直すことでカメラを使う意味が伝わった
─導入において苦労したことはありますか
一番は現場監督にカメラを使ってもらうのに時間がかかったことです。岡山の本社から沖縄の現場を見るレベルの距離感だと流石に使わざるを得ないのですが、本社から離れてはいるけど出向けるくらいの現場だと、カメラが設置されているのに社員が1時間かけて見に行ってしまうということが初期は起こっていました。
理由として最初はこれまでの慣れたやり方に比べるとどうしても使いづらい、やりたいことができないと感じてしまうことがあり、「便利になるどころか不便じゃないか」と不満を持ってしまうケースがあったこと。慣れないうちは工数もむしろ増えてしまいますし、「やはり自分の目で見ないと不安」と感じることもあり、人によってはなかなか活用してもらえない状況がありました。
─どのように活用を浸透させていったのでしょう
徐々に浸透させるように意識しました。「Safieのカメラを導入したから今までのやり方は一切してはダメ」と伝えてしまうと、当社がこれまで積み上げてきた価値を否定することになってしまうので。アナログでやってきたルールを守りつつ、どう上手に活用していくかということは大切にしました。
そのために、これまでのアナログルールを見つめ直すことはかなり真剣にやりました。まずはカメラをつける目的をみんなで共有すること。早期に問題を発見できるとか、台風等でも現場が見えるとか。
逆にその目的を達成するためにこれまでどんなアナログルールがあったのかということも見ていって、意味がないもの非効率だったものを積極的にカメラに置き換えていくということを、みんなで話し合いながらやっていきました。
それを重ねることで社員の理解も得られて活用が浸透していったと思います。長い人だと使ってもらえるまで3ヶ月程かかりました。
あとは、現場で働く社員自身が興味を持って活用方法を見出していく流れが生まれたのが良かったと思います。一人デジタルツールを積極的に推進してくれる社員がいるんですが、彼が使い方や事例などについて社員に発信してくれて他の社員も興味を持つようになりました。
あくまで現場で働く社員の一人からの発信というのが重要です。現場の業務的なことなので、上からやれと命令してもなかなか浸透は難しいと思います。
日本でベトナム人の大工を育てたい
─ライフデザイン・カバヤ様はベトナム進出や、ベトナムからの技能実習生の受け入れなど、海外人材との関わりも増えています。
ベトナムは煉瓦や石造りの家が多くて木造がほとんどない。だから、ベトナムには木造大工が存在しませんし、木造住宅に関する設計基準もありません。
そこでベトナム政府機関と一緒に木造建築が普及するための基盤づくりに取り組むプロジェクトを行なっています。木造住宅の市場がないところに当社が開拓していくということで、ビジネスとして大きな可能性がある事業です。
技能実習生に関しては、日本国内で当社の社員大工から指導を受け、その経験をもとにベトナムで大工として活躍してもらうということを想定しています。日本でSafieのカメラを使った業務にも触れてもらい、現場でのデジタル活用の知見を積んで欲しいです。
DXで「なんでも」はできません
─最後に、デジタルツールを活用してDXの促進を考えている方にアドバイスをお願いします
何かDXのために新しいものを導入するというと、ドラえもんの道具みたいになんでも叶えられると考えがちです。そうではないですよと。
使う側がどう使うかということが大切なので、導入したからといって劇的に良くなるというものでもないというのは理解しておく必要があると思います。
創意工夫がないとうまく活用できませんし、これまで運用していたアナログルールも大切にしないと積み重ねてきた企業の価値そのものが損なわれてしまいます。
まずは自分達がなぜDXを進めたいのか、どの部分を解決したいのかということをしっかり見つめ直すことが大切なのではないでしょうか。
お話を伺った方
ライフデザイン・カバヤ株式会社
執行役員 工事本部長
山岡 嘉彦 氏
公式サイト https://lifedesign-kabaya.co.jp/