国土交通省が2022年4月からトラック・バス・タクシー事業者向けに導入した遠隔点呼は、従来の点呼の課題を解決する手段として注目されています。遠隔点呼の概要や導入のメリット、具体的な導入方法を紹介します。
※監修者:行政書士法人シグマ 代表 行政書士 阪本 浩毅
※本記事の内容は公開時点の情報です。
目次
遠隔点呼とは?
遠隔点呼とは、運転手と運行管理者が物理的に離れた場所にいても、ICT技術を活用して乗務前や乗務後の点呼を行うことができる制度です。この制度を利用するためには、一定の要件を満たし、営業所を管轄する運輸支局に届出を行う必要があります。同一事業者間(完全子会社含む)であれば、1つの営業所から他の営業所の運転手に対し、遠隔から点呼を実施できます。
IT点呼との違い
IT点呼の実施は、Gマーク取得企業(注1)を含む特定の優良な営業所に限られており、国土交通大臣が認定した機器を使用して、営業所内または指定された複数の営業所間で行われます。一方、遠隔点呼はGマーク認定が不要で、機器の認定制度もありません。どの営業所でも実施可能であり、グループ企業間でも行うことができます。
IT点呼では、営業所の要件や実施時間、必要な機器・システムに制約があり、実施困難なケースも存在します。対して遠隔点呼は、時間的な制限がなく、要件を満たす機器・システムを使用すれば、どの営業所でも実施できるため、導入の障壁が低いと言えます。
注1Gマーク取得企業:安全性優良事業所として認定された企業のこと。国土交通省の基準に基づき、「法令遵守」「事故・違反の少なさ」「安全への取り組み」の評価をクリアして取得される。
▼IT点呼についてはこちらで詳しく解説しています。
自動点呼との違い
自動点呼は、点呼機器およびシステムを用いて「業務後」の点呼を自動化できる制度です。遠隔点呼と自動点呼の違いは、点呼を行う主体が運行管理者であるかどうかです。遠隔点呼は、運行管理者がネットワーク機器を使って遠隔で点呼を行い、自動点呼は、AIやICTが運行管理者の代わりに点呼を実施します。
▼自動点呼についてはこちらで詳しく解説しています。
遠隔点呼の対象
遠隔点呼の対象は、すべての運輸事業者および緑ナンバーです。IT点呼がGマーク認定営業所など一部の優良営業所に限定されているのに対し、遠隔点呼はすべての営業所で実施可能です。
100%株式保有による支配関係にある親会社と子会社、またはその子会社同士であればグループ企業間でも実施できます。1営業日における時間の制約もなく、運輸事業者は業務実態に合わせて柔軟に遠隔点呼を実施可能です。
遠隔点呼が実施できる範囲
遠隔点呼が可能な範囲は、以下のとおりです。
営業所内 | 営業所間 |
---|---|
・営業所および当該営業所の車庫間 ・当該営業所の車庫および当該営業所の他の車庫間 | ・営業所および他の営業所間 ・営業所および他の営業所の車庫間 ・営業所の車庫および他の営業所の車庫間 ・営業所およびグループ企業(注2)の営業所間 ・営業所およびグループ企業の営業所の車庫間 ・営業所の車庫およびグループ企業の営業所の車庫間(注3) |
※出典:“遠隔点呼が実施できるようになります! ”.国土交通省.2022−3-23(参照 2024.7.25)
注2:異なる業界の営業所同士(例えばバス会社の営業所とタクシー会社の営業所のような場合)での取り組みは許可されていません。
注3:100%株式保有による支配関係にある親会社と子会社又は100%子会社同士
遠隔点呼のメリット
遠隔点呼を導入することで、柔軟性や効率性の向上、コスト削減などのメリットを得ることができます。
柔軟性の向上
運転手がどこにいても点呼を受けられるため、地理的な制約がなくなります。これにより、出発地点や到着地点にかかわらず、適切なタイミングでの点呼が可能となり、運行計画の柔軟性が向上します。グループ企業間での遠隔点呼も可能となったため、企業グループ全体での運行管理の最適化も期待できるでしょう。
効率性の向上
運転手が点呼のために営業所に出向く必要がないため、移動時間の削減が可能となり、運行準備がスムーズに進みます。点呼内容がシステムにより自動化されているため、手動での記録や確認作業が減少し、管理者の業務負担の軽減が可能です。
コスト削減
運転手が点呼のために営業所に戻る必要が無くなるため、移動にかかるコストが削減されます。長期的には紙の点呼記録の保管スペースや、記録の管理にかかる手間とコストも削減可能です。特に複数の営業所を持つ企業では、遠隔点呼の集中管理により、大幅なコスト削減効果が期待できます。
記録の自動化
点呼の内容や結果が自動的に電子保存され、運行管理者の業務負担が軽減されるほか、長期的な記録の管理やデータ分析への利用も実現可能です。機器の故障や不具合の記録も自動化され、トラブル発生時の原因特定や再発防止策の検討もスムーズに行うことができます。紙の記録が不要になるため、ペーパーレス化が進み、環境負荷の低減にも繋げることが可能です。
遠隔点呼を始める条件
遠隔点呼を導入するには、以下に挙げた3つの条件をクリアする必要があります。
・機器・システム要件
・施設環境要件
・運用上の遵守事項
なお、2024年3月29日に公示され、2024年4月1日から適用された新しい基準では一部の要件が緩和されています。
※参考:“遠隔点呼及び自動点呼の告示改正に関するポイント”.国土交通省.2024-3(参照 2024-7-25)
※参考:“「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」の一部改正について”.各地方運輸局自動車交通部.2024-3-29(参照 2024-7-25)
機器・システム要件
機器・システム要件は下記の11項目を満たす必要があります。
①運転手の顔の表情、全身、酒気帯び、疾病、疲労、睡眠不足の状態を映像と音声で確認可能
②アルコール計測結果を自動記録・保存し、即時確認可能
③運転手および点呼管理者の生体認証可能
④健康状態、労働時間、指導監督記録などを遠隔点呼時に確認可能
⑤疾病や疲労、睡眠不足、安全運転ができない恐れの有無を平常時と比較して確認可能
⑥道路運送車両法に基づく点検結果を確認可能
⑦運行管理者の伝達すべき事項を確認可能
⑧記録を電磁的に一年間保存し、共有可能
⑨機器故障時の日時と内容を一年間保存可能
⑩記録が修正・消去不可、修正前の情報を保存可能(改ざん防止機能)
⑪記録をCSV形式で出力可能
上記の条件を満たすためには、以下の機器とシステムが必要です。
機能 | 必要機器・システム |
---|---|
映像・音声による確認機能 | Webカメラ、モニター、スマホ、ドライブレコーダー、通信機器など |
アルコール検知結果の自動記録・確認機能 | アルコール検知器 |
生体認証による個人識別機能 | 生体認証システム、スマホ指紋認証など |
遠隔点呼の記録共有と保存機能 | GPS、データベース管理システムなど |
なお、システムの多くはスマホの認証システムや連絡ツールで用意できますが、電話での代替はできないため、随時全身の状態を明瞭に確認できる機器およびシステムを用意する必要があります。
※出典:“遠隔点呼の制度化に向けた最終とりまとめについて”.国土交通省.2021-12-22(参照 2024-7-25)
施設環境要件
施設環境要件は、下記の3項目を満たす必要があります。
①点呼を行う場所の明るさ・環境照度の確保
遠隔点呼を始めるには、点呼を行う場所の施設・環境面で定められた映像と音声の送受信を通じて、運転手の表情や全身、酒気帯びの有無、健康状態などを随時確認できるような環境を整えることが必要です。2024年4月からの基準では明記されていませんが、従前は、500ルクス程度の照度が推奨値とされていました。
②運転手の全身が撮影できるカメラの設置
なりすましやアルコール検知器の不正使用を防止するため、運行管理者が遠隔点呼中に運転手の全身を明瞭に確認できるクラウドカメラやスマホなどのリアルタイム性を有した機器の設置が必要です。2024年4月からは運転手が遠隔点呼を受ける場所は、運行管理者が運転手の位置を把握できる必要はありますが、事前に定めた場所であれば営業所や車庫以外でも可能です。
③通話環境・通信環境の確保
遠隔点呼が中断しないように、安定した通信環境を整えることが重要です。また、遠隔点呼を行う営業所の運行管理者と、リモートで点呼を受ける運転手との対話が妨げられないよう、適切な通話環境を確保する必要があります。
※出典:“遠隔点呼の制度化に向けた最終とりまとめについて”.国土交通省.2021-12-22(参照 2024-7-25)
運用上の遵守事項
運用上の遵守事項は、以下の11項目を満たす必要があります。
①運行管理者等は、現地の地理情報や道路交通情報などを把握しておくこと
②面識のない運転手等に初めて遠隔点呼を行う場合は、事前に対面またはオンラインで面談し、顔の表情や健康状態、適性診断結果などを確認すること
③運行中の事業用自動車の位置把握に努め、遠隔点呼を確実に行うこと
④運転手等の携行品の保持・返却状況を確認すること
⑤乗務不可と判断した場合、直ちに所属営業所の運行管理者等に連絡すること
⑥乗務不可と判断した場合、代替措置を講じられる体制を整備すること
⑦遠隔点呼機器の故障などに備え、対面点呼などの代替措置ができる体制を整備すること
⑧グループ企業間での遠隔点呼は、必要に応じて情報の取扱などにかかる契約を締結すること
⑨運転手等の個人情報の取扱いについて、事前に同意を得ること
⑩遠隔点呼の実施に関する事項を運行管理規程に明記し、関係者に周知すること
⑪遠隔点呼時は、運転手が事前に定めた場所にいることを映像で確認すること
従来の施設環境要件では、なりすまし防止の観点から、防犯カメラの設置が必要でしたが、防犯カメラの設置には配線や盗難防止も必要で、簡単に導入できませんでした。2024年4月から要件が緩和され、クラウド型ドライブレコーダーやテレビ電話、Webカメラなど、リアルタイムで確認できる機器であれば使用できるようになりました。
※出典:“遠隔点呼の制度化に向けた最終とりまとめについて”.国土交通省.2021-12-22(参照 2024-7-25)
遠隔点呼の申請方法
遠隔点呼の実施にあたっては、実施予定日の10日前までに所管の運輸支局長等への申請が必要です。申請に必要な書類、提出先、提出期限は以下のとおりです。
書類 | 提出先 | 提出期限 |
---|---|---|
遠隔点呼の実施に係る届出書 | 当該点呼を実施する営業所を管轄する運輸支局長等 | 原則として実施予定日の10日前 |
遠隔点呼の変更に係る届出書 | 遠隔点呼を実施している営業所を管轄する運輸支局長等 | 変更実施前に提出 |
遠隔点呼の終了に係る届出書 | 当該点呼を実施している営業所を管轄する運輸支局長等 | 終了予定日前に遅滞なく提出 |
2023年4月から、遠隔点呼の申請方法が更新され、提出書類や申請窓口に変更がありました。これから遠隔点呼を始める場合は、届出書とともに、2023年の新・点呼告示に規定されている要件を遵守する宣誓書と、性能や機能を確認できる機器のパンフレットなどを提出し、承認(審査)は不要となります。
※出典:“遠隔点呼、業務後自動点呼の実施に関する情報”.国土交通省,2-(1).(参照 2024-7-25)
遠隔点呼の導入に利用できる助成金
全日本トラック協会が支援する「安全装置等導入促進助成事業」について紹介します。
安全装置等導入促進助成事業
Gマーク認定事業所が対象となる助成金制度です。被測定者の意思によらず自動的に測定結果を端末(営業所設置)に送信できる携帯型アルコール検知器が対象です。
助成金額 | 対象装置ごとに機器取得価格の1/2、上限2万円 |
申請方法 | 各都道府県のトラック協会ホームページより申請書をダウンロード、Gマーク認定証の写しなどを添付し申請する |
出典:“令和6年度安全装置等導入促進助成事業について”.全日本トラック協会(参照 2024-7-25)
遠隔点呼を導入するならSafieのクラウドカメラ
Safie(セーフィー)のクラウドカメラは、2024年4月から義務化された「デジタル点呼記録」に対応した各種点呼システムとのシステム連携が可能です。
Safieのクラウドカメラは、遠隔点呼の要件基準を満たし、カメラ映像はPCやスマホから確認できるため、IT機器の扱いに不慣れな方でも安心して使うことができます。また映像はクラウド上に保存されるため、レコーダーの設置が不要です。
点呼時のカメラ映像を視聴可能
点呼システムとクラウドカメラをシステム連携させることで、点呼システムの画面上から点呼時のカメラ映像を視聴可能。リアルタイム映像だけでなく、特定の点呼を指定した振り返り視聴もできます。
貸切バスの「デジタル点呼記録」の義務化に対応
システム連携により、2024年4月から一部改正された旅客自動車運送事業運輸規則で義務付けられている「デジタル点呼記録」の下記2項目に対応することができます。
- 点呼時の録音および録画を実施 + 90日間の記録保存
- アルコール検知器の使用時の写真撮影 + 90日間の記録保存
(点呼時に録画している場合を除く)
※出典:“貸切バスの安全性向上に向けた対策のための制度改正を行いました”.国土交通省.2023-10-10.(参照 2024-7-25)
連携可能な点呼システムが豊富
Safieのクラウドカメラは、以下の点呼システムとのシステム連携が可能です。
- e点呼PRO(東海電子株式会社)
- IT点呼キーパー(テレニシ株式会社)
- 点呼+(プラス)(株式会社ナブアシスト)
まとめ
遠隔点呼は、運転手の所在地に関わらず、あらかじめ事業者が定めた場所での点呼が可能となり、運行管理の柔軟性と効率性を高めるためにもぜひ導入したい制度です。
ただし、導入には機器・システム要件、施設環境要件、運用上の遵守事項をクリアする必要があります。IT機器に不慣れで、予算も限られている場合にはハードルが高いと感じる人も少なくありません。少しでもお悩みの際には、操作が簡単で連携性の高いSafieのクラウドカメラをご検討ください。
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本記事の監修者
行政書士法人シグマ 代表行政書士
阪本 浩毅(さかもと ひろき)
都内の司法書士法人・行政書士法人にて企業法務に従事。行政書士として独立後は、運輸業専門として数多くの一般貨物自動車運送事業・貨物利用運送事業・倉庫業に関する許認可法務に関与。現在は行政書士法人の経営を行いながら、運輸業の許認可法務の実務家として活動中。